銀座、浅草、お台場…。いま、およそ観光客が行くであろう東京の街で、中国人観光客の姿を見かけないことはない。日本の独立行政法人国際観光振興機構(政府観光局、JNTO)の発表によると、中国人観光客数は前年同期比83.3%増と群を抜き、約240万9200人が日本を訪れている(昨年1〜12月累計)。まだまだ団体旅行が多くを占めているものの、数次ビザ発給要件が緩和されたことから、今後は個人旅行者の増加が見込まれるし、来たる2月18日からの春節(旧正月)休暇に、日本の冬を満喫する中国人の姿が各地で見られることは想像に難くない。

 一方、日本人観光客の中国への足取りは依然重い。昨年は前年比マイナス7.2%、4年連続の減少となった。この両極端の事実は、もはや中日関係が原因というひと言で片付けることはできないであろう。なぜ日本に行き、中国には来ないのか。その原因をさまざまな角度から探る。

地方の個性が人を呼ぶ

 

初めての旅行というと、まずは大都市や有名観光地を訪れるのが定石であろう。しかし日本には中国人にあまり知られていない、豊かな地方色を持つ魅力的な場所が数多くある。その魅力を旅行者に知ってもらおうと、すでに幾つかの自治体が独自の手法で中国人に魅力をアピール、一定の成功を収めている。成功の鍵はどこにあったのだろうか。

 

大都市に偏る旅行者の足跡

かまくらの中でチーズフォンデュやトマトシチューなどを味わうイベントは外国人に大人気。知名度が高まれば、中国人観光客の人気を呼びそうだ(岩手県 安比高原スキー場)

 中国人観光客誘致のため、日本政府はビザ発給に関して幾つかの優遇措置を取っている。中でも特徴的なのが、特定の要件を満たした場合に発給される数次ビザ。最初の訪日で沖縄県および東北三県(岩手、宮城、福島)のいずれかで1泊以上するという条件を満たす場合に限り、3年の有効期限の間に何度でも入国できるというものだ(1月、さらに要件を緩和)。これが奏功したか、観光庁の統計による昨年7〜9月期の中国人観光客数の沖縄訪問率は、47都道府県中12位という健闘ぶりを見せた。  

数次ビザの制度を利用し、昨年夏にフランス人の夫と共に沖縄を訪れた武漢在住の李薇さんは「夫の意見とネットの評判で沖縄に決めました。中国からは距離的にも程よいし、のんびり過ごすには最適ですよ」と言う。  

とはいえ李さんのような例はまだ少数で、中国人旅行者の一般的な訪問先は、やはり大都市周辺に集中している。急増する中国人観光客による経済効果の恩恵にあずかっているのは、ごく一部の地域のみというのが現実のようだ。

中国人にも大人気の南部鉄瓶。職人による完全ハンドメードのメード・イン・ジャパンも人気の一因だろう(株式会社岩鋳)
 

ディープな魅力は地方から

中国人観光客の誘致を地域活性化につなげようと、各自治体は力を注ぐ。「今回したこと」と「次回したいこと」の違いを比べると、誘致の鍵はリピーターの確保にあることが見えてきた。

「今回したこと」では日本食、温泉、景勝地、繁華街、ショッピングという団体旅行の定番コースが高比率だが、「次回したいこと」ではそれが横ばいもしくは減少傾向で、自然、スポーツ、伝統、文化の比率が高くなっていることから、大都市に飽きたらない旅行者が、地方へ足を伸ばすことに期待できる。特にウインタースポーツは0.7%から17.7%へと高い伸び率を示しており、雪質が良い東北地方への集客に期待ができそうだ。

 

情報発信の手法がキーポイント   

地方のウイークポイントは、大都市に比べるとどうしても知名度が低い点だが、積極的な情報発信で知名度を上げた二つの事例を紹介したい。  

現在中国では、日本の鉄瓶がブームである。火付け役は岩手県。特産の南部鉄器を上海万博に出展したことで、中国茶ファンの熱い視線を集めた。  

もともと中国茶、特に普洱茶は鉄分と相性が良く、かつて中国の茶通たちは鉄瓶で湯を沸かし茶を入れたというが、現在は残念なことにほぼ廃れている。万博開催が折り良く普洱茶ブームのまっただ中であったことがブームにつながった。今では本物の南部鉄瓶を求め、わざわざ岩手県を訪れるファンも少なくない。

一方青森県は、微博(中国版ツイッター)を使った情報発信に成功している。

微博で情報発信を行っている日本の自治体は多々あるが、中でも青森県観光局の微博は粉絲(ファン)数130万人弱という圧倒的人気を誇る。

驚異的ファン数を誇る青森県観光局の微博

中国でもブランド力の高い青森県のリンゴ。味覚狩りは体験型ツアーの目玉として今後大いに注目できる(青森県)

きっかけは2011年から1年間FM青森が放送した「一路青森!お助け!?モンちゃん!!」という番組とのリンクだった。大連から日本にやってきた女子留学生「モンちゃん」が中国語で紹介する等身大の青森が中国人に大人気となり、翌2012年には動画サイトの優酷で1700万という驚異的なアクセス数を記録。これが青森県の知名度アップに貢献し、微博ファン数を飛躍的に増やしたのである。

9割以上が「日本にまた来たい」と回答しており、次回はより日本らしさを感じる旅行を望むデータの結果からも、今後の中国人観光客の動向が、都会から地方の風情を味わう旅へとスライドしていくことは、ほぼ間違いないだろう。青森県と岩手県の成功例から分かるように、地方の特色をいかに色濃く、かつ中国人目線に合った方法で発信していくかが、中国人旅行者誘致の鍵となる。

 

 

人民中国インターネット版 2015年2月