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母の遺志を継いでこの道に

 

 精巧で美しい井秋紅さんの匂い袋

匂い袋はもともと素朴な漢族伝統の民芸品で、これを作ったり身につけたりする習俗は古くから続いてきた。徐州には漢代には匂い袋が作られていたという記録が残されている。当時の匂い袋は錦に刺しゅうを施して作られ、中にはコウボウ、モクレンなどの植物香料を入れていた。明・清の時代になると、匂い袋は単なる日用品から文化的価値を持つものに変化していった。例えば男女の間で愛のしるしにしたり、観賞用にしたりと、芸術性が付加され工芸品になっていったのだった。

徐州市内にある「クリエーティブ68インダストリー・パーク」には、匂い袋の製造販売専門店がある。店を訪れると入り口ですでに店内から漂ってくる薬草の香りに気づく。この店を経営するのは、国指定無形文化遺産の徐州曹氏匂い袋第3代継承者の井秋紅さんだ。

「母方の祖父は漢方医で、薬屋を営んでおり、祖母は手先が器用で、刺しゅうが上手でした。この地には端午節に匂い袋を刺しゅうする習俗あり、近所の人たちがみな身につける匂い袋を求めてやって来ました。祖母の匂い袋が人気だった理由は、第一に刺しゅうが素晴らしかったからで、もう一つの理由は祖父の配合する香料の香りがとても長持ちしたからです」と井さん。曹氏匂い袋は清代末の誕生以来、巧みな刺しゅうに加え、風邪予防や虫除け、汗などの防臭効果があるとして人々に親しまれてきた。

匂い袋に入れられる各種香料も展示されている

曹氏匂い袋は井さんの母の代にはすでに省指定の無形文化遺産となっていた。「母親は生涯匂い袋作りを続けましたが、いつも知的障がい者の人たちと一緒に作っていました。2006年に亡くなる前、母は長年一緒だったこれらの人たちの将来を心配していました。母を安心させるため、私は病床の彼女に、仕事を辞めて曹氏匂い袋作りを引き継ぐことを約束したのです」

今年46歳になる井さんは10歳から母について匂い袋作りを学んだ。この「家業」を継いでから、彼女は母の教えと遺志を忘れたことはない。「スタッフは職場をレイオフされて生活に困っている人や障がい者です。みなの便宜のため、家で作業できるようにしていますが、これには、いいものを作るためには気持ちの落ち着きや静かで清潔な環境も必要という理由があります」。

 

 

 

人民中国インターネット版 2015年6月