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粤劇にかける80年代生まれの青春 | ||||||||
濃い眉に大きな目、角張った輪郭、明るく爽やかなイケメン。粤劇俳優の陳振江さん(31)が人に与える第一印象だ。和やかに談笑している時の彼と、舞台上の端正で真剣な姿はなかなか結びつかないが、話題が粤劇に及び、演劇界での経歴や伝統文化に対する見解を飽きることなく話しだすと、彼はすぐに大人らしい落ち着きを見せる。 陳振江さんは広州粤劇院紅豆粤劇団の主要役者の一人だ。粤劇役者だった両親の影響を受け、幼少時から粤劇の世界に身を置いてきた。小学生のころは冬休みや夏休みになると、1~2カ月間、母親が所属する民間劇団に参加して各地を興行する生活を送った。6歳の時、陳さんは演劇に関する基礎は全くなかったが、歌の音程が正確でリズム感も良かったため、初舞台を踏んだ。2000年、15歳になった陳さんは中学校を卒業して広東粤劇学校(現在の広東舞蹈戯劇職業学院)に入学し、専門的に演劇を学ぶ道を歩き始めた。 広州粤劇院の2大劇団の一つである紅豆粤劇団には約40人が所属しており、平均年齢は約32歳だ。80年代生まれの陳さんはすでに主役を担当しているが、こうなるまでには人生の大きな決断があった。演劇学校で学んでいる時、180度の開脚など柔軟性を養う訓練は彼にとって難しくなかった。「最も難しかったのは演技です。粤劇は声・色(扮装)・芸にこだわります。中でも声は役者の基本ですが、当時、変声期に入ったせいで喉が駄目になってしまい、2年間とても苦しみました」。卒業する時、陳さんはもう少しで別の職業を選ぶところだった。喉が良くなければ主演は務まらず、端役しかできないからだ。しかし「最後はやはり捨てきれませんでした。続けてきて良かったと思っています」 母親が所属する劇団で1年余り経験を積んだ後、陳さんは09年に紅豆粤劇団に加入した。同粤劇団には優秀な人材が多数いたが、彼の才能もそこに埋もれることなく、指導に当たった粤劇俳優の欧凱明氏から賞賛を受けた。「初めて演じたのは『鳳閣恩仇未了情』で、出番は多くなかったのですが、とても緊張したことを覚えています。たくさんの観客の前でとにかくうまく演じたいと思いました」。現在、陳さんはほぼ毎日舞台に上がっている。インタビューの日もシンガポールから帰国したばかりで、またすぐに公演のために香港へ行く予定が入っていた。主に広東語で上演する粤劇は、中国南方で広く受け入れられている地方劇だが、広東や広西で人気があるだけでなく、香港やマカオにも一定のファンがいる。さらに海を渡って、東南アジアやアメリカ、オセアニアなどの地域においても、粤劇は海外に暮らす華人の人々から望郷の思いを託されている。 「趣味でもあり仕事でもある」 「如姫与信陵君」は陳振江さんが近頃主演している演目だ。司馬遷の『史記』に登場する「窃符救趙」という典故が題材で、春秋戦国時代(前770年〜前221年)の魏の公子・信陵君が、魏王の寵妃である如姫の手を借りて兵符を盗み、兵権を奪って趙国を救う物語。信陵君を演じる陳さんはこの立派な英雄の役柄が好きで、客席が9割近く埋まるほどの人気を集めている。しかし、伝統文化の一つとして、粤劇も現代文化の影響に直面している。目下、粤劇の主な観客は45歳から70歳までの人々で、どのように若い人たちに劇場まで足を運んでもらうかということが粤劇界でも議論されている。陳さんはこの問題に対して自分なりの意見を持っている。「私が思うに、プロモーションや演出方法を現代風にするべきです。例えば、インターネットやウィーチャット(中国版LINE)のモーメンツなどを利用して、優良な作品を新たな方法でプロモーションし、若者の好みに合う舞台効果や衣装なども取り入れて上演します。まずは彼らに伝統文化を形から知ってもらい、それからその魅力に引き込んでいく。そうすることで彼らにも参加しているという感覚が生まれます」
広州の茘湾湖公園にある茘枝湾大戯台。ここで美しい粤劇の歌声が響くと、舞台下の大きなガジュマルの横にある色とりどりの椅子は、粤劇を見に来たおじさんやおばさんですぐに埋まってしまう。茘湾湖には遊覧ボートが浮かび、湖畔では数人のグループが輪を作って羽根蹴りを楽しみ、柔らかな羽根が空中で自由自在に飛び回り、通りかかった人が喝采を送っている。時間がある時、陳さんはここに来て粤劇を見るのが好きだ。彼から見て、ここの上演内容は劇場の公演ほどレベルが高くないが、しかし、より市民生活に寄り添ったものになっている。野菜を買ってきたばかりのおばさんや孫を抱いたおじさん、通りすがりの観光客、粤劇ファンも門外漢もどんな人でも自由に足を止めて楽しむことができる。粤劇と広州市民の生活は切り離せないということを、陳さんは観客の真剣な眼差しから深く感じ取っている。 「将来は、真面目に芸術に取り組むプロフェッショナルになって、伝統文化に関する自分の知識を体現したいです」。今後の理想を語る陳さんは、謙虚でありながら固い決意を持っている。彼にとって粤劇は優雅な調べの地方劇であり、京劇のようなテンポの速さはない。粤劇最大の特徴は包容性であり、役柄やシーンによって、京劇や歌謡曲など他の音楽的要素を取り込んで、変化に富んだ歌い方を創り出している。「どのように伝統文化に現代の要素を取り込むか、そしてどのように舞台で表現するかということは、一生かけて取り組む必要がありますが、それでも面白いと思うんです。粤劇は私の趣味であり、仕事でもありますから。趣味を仕事にするというのは意義のあることだと思います」
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