川劇―変わるマスク、変わらぬ心

 

伝承は尊し、革新は難し

 成都市川劇院の陳巧茹常務副院長

 

成都を訪れると、大きなところでは四川を代表する錦江劇場から、小さなところでは各種四川料理店まで、多くの場所で「川劇」と呼ばれる四川の地方劇(「四川オペラ」と訳されることも)の出し物を見ることができる。川劇の鑑賞は、成都っ子にとっては平生からの娯楽の求めを満たすものであり、外来の観光客にとっては四川文化を最も良く体験する絶好の機会だ。この400年近い伝統を持つ芸能は現在も若々しい魅力を放っている。

「清末・民初の時期には、川劇にはすでに『昆腔』『高腔』『胡琴腔』『弾戯』『灯調』などの節回しの融合が行われていました。このうち四川生まれの『灯調』以外はいずれも外から入ってきたもので、これは中国の地方劇でも非常に珍しい特徴です」と、成都市川劇院常務副院長の陳巧茹さん(49)は説明している。「川劇には『小生』『小旦』『三小』などの役称がありますが、『小丑』が最も特色あるものです。川劇の登場人物には傑出した英雄などが多いこともあり、ユーモアはみな道化の中に投影されます。このため『小丑』のせりふにはユーモアが多く、人々にとって身近でリアルなのです」

両親共に川劇俳優で、劇団の中で育った陳さんは、12歳で入団して川劇を学んだ。1983年、成都市川劇院に入り、それから30年余りの舞台芸術の実践の中で、彼女は次第に自分のきめ細かく清々しい、剛柔併せ持つ演技スタイルを確立した。現在、陳さんは国家一級俳優で、2度にわたって中国戯曲界最高の栄誉「梅花賞」を受賞している。成功の秘訣について彼女は「最も大切なのは川劇に対する熱愛で、私は川劇の中から異なった人生を感じることができます」。ドイツの劇作家ベルトルト・ブレヒトの『セツアンの善人(中国語題は『四川好人』)』の演劇理論や演技テクニックは陳さんに大きな影響を与えた。「初めてこの作品を見たのは87年で、栗原小巻さんが演じた舞台でした。当時、彼女の素晴らしい演技に魅了され、私は演劇に対する新たな認識を持つようになりました。私は啓発を受け、舞台劇の基礎の上に伝統の川劇の要素を溶けこませた川劇版『四川好人』を作り上げたのです」

90年代に川劇は困難な時期を過ごした後、無形文化遺産に指定され保護を得て重視されるようになった。そして陳さんは、この伝統芸術を継承する重要性をより意識するようになった。「川劇の継承には、舞台だけでなく観衆の継承も必要です。この十数年、私は毎年大学から小学校まで各学校をめぐり、子どもたちに川劇に触れ理解を深めてもらう機会を持っています。そのほか、私は継承する以外に、継承された伝統の上に革新を行うことが必要だと感じています。例えばハイテクを用いるなどして、より多くの若者に川劇を好きになってもらうことです」

継承と革新以外に、陳さんは川劇を世界の舞台で上げることにも力を尽くしている。今年9月、彼女は一座を率いて日本へ赴き、東京の日中友好会館で川劇の上演とパネル展を行うことになっており、この機会に日本の芸術家や観衆と幅広く交流し、今後の可能性を探りたいという。

 

ギネス記録を持つ変臉名人

 変臉の孫悟空

 

赤、緑、黒、白、黄、青……、色とりどりの「臉譜」と呼ばれる隈取りのマスクが、俳優のまばたきや手を振る、あるいは身を翻すなどのしぐさの一瞬に次々と変わっていく――素晴らしい{へん れん}変臉に観衆たちは拍手喝采を惜しまない。川劇の変臉は、その謎めいた技と高い芸術観賞性によって世界から中国の「国粋」とたたえられる。

川劇界には変臉を演じる俳優が多数いる。成都市の川劇俳優康勇さん(46)は20秒で15の変臉を行った記録でギネスブックに登録され「青年変臉王」と呼ばれている。彼は四川省{ろう ちゅう}閬中市の農民家庭に育った。小さな頃から村回りの劇団の芝居を見て育ち、川劇に強い関心を持つようになった。9歳で町のアマチュア劇団の子役になり、12歳で変臉を学び始めた。「当時の先輩役者たちはとても保守的で、最初は変臉を教えようとはしませんでした。長い時間をかけて私の芸や人格、誠意を検証したのです。家が貧しく先生に贈り物もできませんでしたから、私は暑い日も寒い日も魚を釣りに行って先生に届けたのです。こうした誠意がようやく先生に通じ、変臉を教えていただけるようになりました」。変臉では「準、巧、精」の三つを併せ持つことが重要視される。その境地を目指し注意深く鍛えること、努力して訓練することが求められる。先生から学んだ変臉の技術は限られたものだったため、彼は絶えず試行錯誤を繰り返し、何度も失敗を重ねてついに変臉の絶技を身につけた。

上の世代の変臉芸人とは異なり、彼は伝統の変臉に新たな現代的要素を盛り込み、現代人の価値観や好みに合わせてスターの顔に変わる芸や、現代風の服装で行う変臉を独自の技を編み出した。「新機軸とは伝統の放棄を意味するのではなく、伝統の基礎の上に革新を行うことなのです。ただ、度が過ぎてはいけません」。川劇の海外への普及度、知名度はますます高まっており、今では多くの人が川劇といえば変臉を思い出すようになっている。これについて康さんは、「観衆の大きな拍手喝采は、川劇に携わる者としてとてもうれしく思います。しかし、変臉は川劇の一つの表現形式に過ぎず、川劇そのものを代表することはできません。川劇にはもっと多くの認めるべき、味わうべき魅力があるのです」

 

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