「微妙」から生まれた絆

 

童瑶(浙江農林大学)

 

日本に留学していた半年間、ラーメン屋でバイトをした。店で働いていたのは日中韓三国の大学生で、そこで大変楽しく忘れがたい時間を過ごした。店の人達は私が帰国する前に送別会を開いてくれた。夜の11時にスタッフ全員が鍋を囲んでお酒を飲み、盛り上がっていた時のことだ。日本人のお兄さんが「今ここにいるのは日本人七人、中国人四人、韓国人一人。もし喧嘩したら、こっちが勝てますよね。」と冗談を言った。そして「あのさ、今中国と日本、関係いいの?」と私に聞いたので、私は少し考えて「まあ、ちょっと微妙だなぁ」と答えた。「中国と韓国はどう?」「そっちもね、ちょっと…」じゃ日本と韓国は?それもやっぱり微妙だよ…と笑いながら自問自答した。

今その光景を思い出すと、その時のやりとりは本当に面白かった。その原因は「微妙」という言葉に集約される。「微妙」は対象について、何とも言い表しようがないという気持ちを表す言葉だ。確かに現在、この三国の関係は一言でいうと「微妙」としかいえない。でもその夜、その小さな居酒屋で、謎めいた曖昧な関係にあるアジアの三国の若者が、一緒に飲んで、「微妙」な話題で笑って騒いだ時、私は本当に不思議だと思った。皆それぞれの国籍を背負った互いの立場をわかっている。わかっているけれど気軽に「微妙」という表現を口にして、それがまるで若者だけが知っている合言葉であるかのように笑った。 

実は「微妙」という言葉はネガティブな意味ではあるけれど、対象を完全に否定せずに判断を保留したい、できれば事態が好転してほしいと願う時に使う言葉でもある。その時の雰囲気は、複雑な言葉もいらなくて、心配したり緊張したりする必要もないものだった。まだ現状はそんなに悪くない。まだ笑って乗り切る力がある。きっと乗り切れることを信じている。たとえ「微妙」だとしても、明るく前に進んでいける。みんなはそう思ったんだろう。私は何だかほっとした。

バイト先でのそのような体験を通して、何かこれまでとは違う変化が見えてきたような気がした。

私達若者の文化といえば、まず頭に浮かぶのはやはりネットである。そして私達がネットから受け取る情報は、過去の世代より何千倍も多い。そこには若者の繊細な感性だけが感じとれる日本の魅力も少なくない。また、ネットは匿名の世界だから、どんなことでも思い切っていえる。日本についてのニュースが出る度に、よく悪意のあるコメントが見られる。でも幸いなことに、好意的なコメントもいつもあって、しかも近年段々多くなってきた。戦争記念日には冷静な愛国を呼びかけ、熊本地震の時は誠実に祈り、2020年東京五輪に期待し、時々悪意のない冗談をいう…。私がバイト先で気軽に「微妙」という言葉を口に出したように、皆自然に前向きな言葉を発信している。そうだ。変わってきている。中国人は少しずつ、日本のことをもっと知って理解したいと思うようになっている。そしてこういう変化の先端を行くのは若者である。「微妙」という言葉の重さを捨てずに、あえてそのまま使うが、しかしその重さに拘ることもしない。それは若者の力だと思っている。どの国でも若者というものは遊ぶことが好きだ。若者が望んでいるのは、お互いを尊重した上で、海の向こうの若者と繋がりたいということだけだろう。あの夜の私達のように、丸くなって飲んで、笑って騒ぐ。いつ想像してもそれは一番いい光景だと、私はそう思っている。

中国のネットで「私がここに住んでいる理由」という中日両国に住んでいる相手国の人を取材する番組があった。そこでは色々な人の生き方が見られた。最初は皆、別に「中日友好」という壮大な理想は抱えていない。ただ自分と大切な人のため、夢を叶えるために、未知の国で精一杯頑張って生きていて、でも気づいたらいつの間にかその国の人と心が繋がっているのだ。日本人のパワープロガー山下智博さんは、日本にいた時はパッとしなかったが、中国に来て自分が作ったネット番組が大人気になって驚いたという。「私は日本人にとって一番風当たりの厳しい所に行って、そこで自分にストレスをかけて、どういうものが生まれるか見たいんです。」彼は笑ってこう言った。そうだ。「微妙」な関係にある二つの国の人が出会ったらどんな奇跡が起きるのかは、全然予想できないことである。ただ一つ信じられるのは、たとえ様々な障害があっても、そこに生の交流があれば必ず「情」が生じるということだ。それが即ち絆になる。

辞書で「微妙」を調べてみると、「細かい所に複雑で大切な意味があって、簡単に割り切ったり、言い表したりできないこと」とあった。良い部分と悪い部分が絡み合い、切り離せずに一つのものとしてある。絆というものも、そもそもこういうものではないだろうか。中日両国の「微妙」から生まれた絆を、私達若者ならではの智慧でこれからも育てていきたいと思う。

 

人民中国インターネット版 2016年12月

 

 
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