女性の手工芸│女紅

2021-03-17 14:45:20
姚任祥=文

姚任祥

1959年生まれ。著名な京劇女優・顧正秋(1928〜2016年)の末娘で、国学の巨匠・南懐瑾(1918〜2012年)の弟子。16歳で芸能界にデビュー、初期の学園アイドル歌手の一人。現在、台湾を代表する建築家・姚仁喜の妻で、3人の子の母親でもある。宝飾デザイナーで、美をこよなく愛し、20年来、さまざまなジュエリー作品のデザインを手掛けている。また作家としても活躍し、海外に留学する子どもたちが中国の伝統文化を忘れないようにと、『伝家』を出版した。


母の芸術

私は手工芸が大好きで、特に中国の「女紅」の創作をこよなく愛している。「女紅」とは広く女性が作った手工芸品を指す。中国は国土が広く歴史も長い。代々伝えられてきた手工芸品には、母親の素朴な手法と温かな慈愛が秘められており、ひと針ひと針と華麗な宝物を刺しつなぎ、時代を越えた女性たちの創意工夫は深く暮らしに根付いている。

台湾で1996年、伝統手工芸品の教室「中国女紅坊」を立ち上げたのは陳曹倩さんだ。陳さんがこの教室を始めたきっかけは、日本での体験にあった。伝統芸術の衰退を救おうと努力を重ねる日本人の姿に、陳さんは、伝統芸術と日々の暮らしは密接で不可分という事実を見た。

そこで陳さんは、代々受け継いできた母と娘の「愛」と「気持ち」を結び付け、難しい文化普及事業を台湾の女性たちの楽しい生活実践へと変え、「母の芸術」を継承する場を設けたのだ。

「中国女紅坊」では、「縫う、刺しゅう、編む、織る」以外に、陳さんが2007年に「母の芸術基金会」を創設し、生け花、茶道、切り絵、版画などを積極的に広め、文化の保存と刷新に努めている。

これらを通して女性の文化的な素養を高め、社会的弱者の支えとなり、女性たちの仕事の機会も作り出している。同時に、見込みのある人材を教師として育て、地方の技芸と文化の発掘と開拓、保存も行っている。多くの人が彼女のこうした苦労と貢献を称賛している。

中国の「女紅」の世界は非常に広々としている。台湾の雑誌『漢声』(中国民間の伝統文化を報道する雑誌)も大陸部の各地へ出掛けて現地取材を行った__山奥のトン(侗)族の織物や刺しゅうの技、陝西省の農村に住む高齢女性たちの巧みな布の技術、山東省の女性の伝統的な手織り、陝西省のおばさんたちの切り紙細工などを詳しく紹介し、教え方も添え、時空を超えて中国「女紅」の魅力をより広く深く知ってもらおうと試みている。このように文化活動に私心なく尽くす人たちに、私たちは心からの敬意を表したい。

私自身も、こうした伝統工芸を実践してみようと、「縫う、刺しゅう、編む、織る」の手法で同じ型のパーティーバッグを作ってみた。また、民族の伝統的な図柄をビーズ編みにしてコンパクトなパーティーバッグを作り、祖母たちしかできないような技巧でモダンなアクセサリーへと一変させた。中国「女紅」の世界こそ、古きを温めて常に新しいものだ。

 

民族を象徴する伝統的な図柄を縫い込んだビーズのパーティーバッグ(左)と、その材料(右)

 

縫う・刺しゅう・編む・織る

台湾にはたくさんの特徴ある手芸サークルがあり、さまざまな趣味を持つ人たちが集まって一緒に学び、分かち合い、同時に社交の場にもなっている。私が参加している女紅サークルでは、縫う・刺しゅう・編む・織るの手芸がどれも活発に活動しており、定期的に発表会を開いている。そこで展示する作品からは、西洋の工芸を組み合わせたとてもモダンなデザインだけでなく、さまざまな中国の伝統的な古い技術を楽しむこともできる。

私の親友は、中国女紅坊の「縫う」授業で学んだ技術で布団カバーを1枚作った。彼女が参加したクラスは全部で30回余りの授業があり、毎回一つの縫い方を学んでは正方形のパッチ(布片)を1枚作り上げる。最後に卒業作品として、全てのパッチを縫い合わせて布団カバーを1枚作る。この作品が完成すれば中国女紅坊の卒業証書がもらえる。

「刺しゅう」は古代中国に始まり、蜀(四川)、湘(湖南)、粤(広東)、蘇(蘇州)の刺しゅうが最もよく知られている。それぞれ技法が違うだけでなく、刺しゅう糸の材質や植物を使った染め方も異なり、それが各地方の刺しゅうの特色を生んでいる。

中国には今でも熟練のお針子さんが大勢いる。しかも彼女たちは名画さえ刺しゅうで縫い表すことができ、出来上がった作品は元の絵よりも豊かな立体感がある。私の母が澳門の永楽劇場で京劇を演じていた頃、衣装を飾る蝶や花の刺しゅうや縁飾りは、全て母と仲の良い友人の女性が下絵を描き、専門の職人に頼んで刺してもらっていた。巧みな刺しゅうの線が舞台で華麗な、あるいは柔らかな光彩を放ち、観客の心を揺さぶる。

 

縫う・刺しゅう・編む・織るのそれぞれの技法で作った4種類のパーティーバッグ

「中国結び」は「編む」技法の最も巧みな表現だと言える。はるか昔の人たちが、縄に結び目を作って日常の出来事を記録したのが「編む」芸術の始まりだろう。中国結びには、美しさを表現する以外に幾何学の知識や考え方も含まれ、また最も実用的である。

伝統的な玉器や玉をつないだ首飾り「瓔珞」は、よく中国結びを利用してパーツをつなげており、アジャスターの役割も果たしている。また、房飾りと組み合わせて、今のストラップのような装飾品に仕上げたりもする。私自身もジュエリーをデザインする際に編むやり方をよく使い、たくさんの同じようなビーズを中国結びのような技法で数珠つなぎにした。その一つは、8個のビーズ(ジュエリー)を編み込んで四角形の数珠を作るもので、編み方はかなり難しいが、その出来栄えは実に素晴らしい。

「編む」芸術は最初、何本かの「縄をなう」作業にすぎなかったが、遊び方がたくさんあり、多様な造形作品を編み出せる魅力がある。私は中国結びの編み方で、茶筒飾りを二つ作ってみたが、これまた何の変哲もない入れ物に生き生きと人目を引く効果が生まれた。

中学生の時、家庭科の授業でいくつか簡単な中国結びを習得した。その後、手芸などさまざまなデザインの作品を作ることができ、実に楽しかったのを覚えている。

「織る(編む)」芸術には代表的な「錦織」がある。これは中国の伝統的な絹織物の総称だ。華やかな仕上がりが特徴で、縦糸は主に単色で、横糸には3色以上のカラフルな絹糸を使い、鮮やかな模様を織り出す。また、あや織りによって一味違った風情に仕立てることもできる。現在最もよく使う編み物は毛糸で、私も毛糸で湯たんぽの「セーター」(カバー)を編んだことがある。温かさがいつもより増したように思った。

 

筆者が漢声出版社の本『中国結び』を参考に描いた、中国結びの芸術家・陳夏生さんが教える13種のよく使う結び方(後方の絵)と、中国結びをアレンジした茶葉容器の飾り

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