住宅用地の使用権 満了後は?

2019-12-19 11:13:59

鮑栄振=文

中国人にとって切実な問題

 

 近年、ある権利の問題が広く注目されている。中国の各世帯の利益と密接に関係するものだ。それは、「住宅用地使用権の存続期間(大抵70年)の満了後はどうすればよいか?」という問題だ。期間満了後は自動的に継続されるのだろうか? あるいは、更新時に再び土地の払い下げ金(1)を納める必要があるのか? もしそうなら、いくら納めればよいのか? 多くの中国人がこのような問題を気に掛けている。 

 だが、こうした問題について筆者はさほど心配していない。人々がここまで心配するのは、住宅用地使用権について正しい情報がないからではと、ずっと感じている。これは、一部のメディアが、住宅用地使用権を不動産所有権と言い換え、「不動産所有権の存続期間は最長70年、期間満了後の建物は○○のものに」といった刺激的な見出しの記事を頻繁に掲載しているからだ。これで人々も、自らの不動産所有権の存続期間も最長70年だと思い込み、不安になっているのだろう。

 

 実際、住宅用地使用権と不動産所有権は異なる概念だ。専門家の間では、中国で不動産所有権とは、建物所有権と土地使用権の二つを合わせたものとする見方がある。

 

 不動産所有権は私有財産権の一つで、中華人民共和国憲法が保護する対象だ。2007年に施行された「中華人民共和国物権法」(以下、「物権法」)の第64条では、「個人は、その合法的な収入、建物、生活用品、生産用具、原材料などの不動産と動産について所有権を有する」としている。所有権は永続的なもので、建物が完全に毀損・滅失しない限り有効だ。

 

 これに対し土地使用権は、文字通り一種の使用権で、厳密には所有権ではない。1990年に施行された「中華人民共和国都市国有地使用権払い下げおよび譲渡暫定条例」では、土地の性質によって異なる使用権の存続期間が定められており、住宅用地の使用権は最長で存続期間が70年とされている。では、住宅用地の使用権は、存続期間の満了後どうなるのだろうか?これについては、「物権法」第149条で、「住宅建設用地使用権の期間が満了した場合、自動的に継続する」とされている。

 

 

住宅用地使用権を巡る論争

 

 上述したようにメディアによる不正確な報道もあり、住宅用地の使用権と不動産の所有権を同じものだと誤解している人は多い。このような誤解によって生ずる不安や心配は、ちょっとしたことで人々の間に広がり、大きな波紋を呼ぶ。例えば、昨年から不動産登記簿証の全面的な使用が始まったが、これにより分譲建物(2)の土地の使用権を巡り、再び議論が巻き起こった。

 

 従来の「不動産所有権証書」(「房地产产权证书」)には、土地使用権の存続期間の起算日と満了日は記載されていたが、建物所有権の存続期間はいずれも記載がなかった。ところが、新たな「不動産所有権証書」(「动产权证书」)には、土地使用権と建物所有権のどちらの存続期間を指すか明らかではない、単なる「使用期間」という欄が設けられた。このため、住宅の所有権の存続期間も有限であるという誤解が広がり、大きな論争を巻き起こしたのだ。

 

 国土資源部(当時)の担当官はこれを受けて、「新たな不動産所有権証書には、さまざまな類型の権利を証明するものがあり、そのうちの一つが建物所有権と土地使用権を併せて証明するものである。この不動産所有権証書の『使用期間』欄に記載されるのは、土地の使用期間であり、建物の所有権に有限な存続期間が設けられているわけではない」と釈明した。

 

 また、昨年は次のようなニュースも関心を集めた。「民法典各則(草案)」が全国人民代表大会常務委員会の審議にかけられた際、この草案で、「住宅建設用地使用権の期間が満了した場合、自動的に継続する。継続費用の納付(3)または減免については、法律、行政法規の規定に従う」とされていたというニュースだ。メディアはこれを繰り返し報道した。「家を持っている人はおめでとう! 70年の不動産所有権の満了後はどうなる? その答えがやってきた!」といった見出しの記事だ。さらに、「中国の住宅用地の有効期間は70年。では70年後に家は誰のもの? 注目される不動産税とも関係アリ? 満了後はどう更新する? 大金が必要?」といった調子で解説した。しかし、住宅建設用地使用権が存続期間の満了後に自動で継続することはすでに「物権法」に定められており、一喜一憂することではない。とはいえ、どのように継続するのか、更新をする場合に大金が必要なのかは、確かに気になるところだ。

 

 

土地使用権の更新 いくら必要?

 

 数カ月ほど前、「浙江省温州市で初の事例 住宅土地使用権の満了後、更新には建物価格の3割納付が必要!」という記事がまた話題になった。

 

 記事によると、温州市では当時、中古住宅の売買を済ませたのに、住宅の土地使用権の存続期間がすでに満了していたため、取り引き(4)を完了させることができない人たちが一部現れているという。また、取り引きを完了させるには使用権の更新を行わなければならないが、それには建物の時価総額の約3分の1の「土地払い下げ金」を納める必要がある――というのだ。これらの人々が持っている土地権利書には、土地使用権の存続期間は20年と記載されていた。

 

 冒頭でも述べたとおり、土地使用権の存続期間は大抵は70年だが、記事で紹介された人々の住宅の土地使用権は、存続期間が20年しかないようだ。このため、使用権がいち早く終わり、中国初となる土地使用権の更新問題が起きたのだろう。温州市の中古住宅(5)は現在、1平方㍍当たり2万元近くもするので、100平方㍍の中古住宅を買ったとすると、60万元ほどの払い下げ金を納めなければならない。

 

 記事は、この事件の影響について次のように紹介している――ニュースは温州市の不動産市場に大きなショックを与え、中国全土の人々が、自分が買った住宅の土地使用権の存続期間がいつまでか、次々に調べ出す事態を引き起こした。人々からは、「100万元で家を買ってまだ何年も住んでいないのに、また数十万元も払わないといけないのか」「何代もかけて貯めた資金で家を買い、やっとローンを返したと思ったら、今度は土地の使用権が切れるなんて」といった悲鳴が多く上がった……。

 

 もしこの記事のように、使用権の更新時に建物時価総額の約3分の1を土地払い下げ金として納めるのであれば、人々にとっては非常に大きな負担となる。なぜなら、中国の不動産価格は過去20年間で十数倍、数十倍にも高騰したからだ。例えば、筆者が住んでいる家は2001年に買ったもので、当時の価格は1平方㍍当たり4900元、総額70数万元だった。ところが今では、1平方㍍約6万3000元、総額では13倍以上の約950万元に高騰している。仮に現在、土地使用権の更新を行うことになったとすると、納める土地払い下げ金は300万元以上にもなる。これは、最初に購入した価格の4倍以上で、とても払えるものではない。

 

 実は、この記事が紹介した事例は2016年に発生した出来事だ。3年も前のニュースを一部の個人メディアがわざわざ引っ張り出してきて、いつ起きたのか曖昧にしたうえで、再び大げさに取り上げていたのだ。16年に温州市で起きたこの問題に対しては、同年12月には国土資源部により①使用権更新の申請は不要②費用は徴収しない③通常どおり取り引きおよび登記手続きをする――という過渡的な措置が打ち出され、問題はすでに解決している。

 

 こうした経緯があったことから、翌17年には李克強総理も内外の記者との質疑応答で、住宅用地使用権の継続問題に触れた。李総理は、70年間という住宅用地使用権の満了・継続問題が広く注目されていることは理解できるとした。そのうえで、すでに国務院が関連機関に指示を出し、申請や払い下げ金の納付がなくても使用権の継続は可能で、更新した場合でも取り引きには影響を与えないようにさせたと語った。

 

 

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