弁護士報酬は高過ぎるか

2020-04-24 18:31:04

鮑栄振=文

相談料、1時間10万元?

 筆者の妻は少し前、大ヒットした中国ドラマ、「エリート弁護士」(原題「精英律師」)を熱心に見ていた。弁護士がテーマの作品なだけに、普段あまりテレビを見ない筆者も、飛び飛びではあるが、つられて一緒に見ていた。

 主人公のエリート弁護士・羅檳を演じるのは、ここ数年でブレークした男性俳優の靳東。その羅檳弁護士は、著作権の侵害(1)から子どもの監護権(親権の一部)を巡る紛争、高齢者扶養問題や名誉毀損、営業秘密など多種多様な案件を鮮やかに片付けていく。劇中、羅檳は自身の法律相談料を「1時間6000~10万元」と言ってのける。このセリフの回が放送されるや否や大きな話題となり、「こんなに万能で高報酬の弁護士がどこにいる」「十数時間で100万元、大企業役員の年俸じゃないか。めちゃくちゃだ」といった声が上がった。

 トップレベルの弁護士に法律相談を依頼する場合、1時間で1万元以上の費用がかかることもある。だが実際には、そんなケースは決して多くない。例えば、上海の一般的な弁護士の報酬額は、平均で1時間1000元にも満たない。1時間で数千元の報酬を手にするエリート弁護士は全体の2割ほどで、残りの8割は1時間数百元だ。最近では、ネット上に上海の弁護士の報酬基準なるものが出回り、平均で1時間2700元。マネージング・パートナー(2)(法律事務所で業務執行の代表者)なら1時間6000元などと言われているが、実際にはそこまで高額ではない。

 

報酬の算定方法とは

 弁護士の報酬は、依頼する業務の内容や算定方法によって、①固定報酬制②事件の対象額に基づいた算定③作業時間に基づいた算定(タイムチャージ制)(3)④成功報酬のみ請求――など複数の形態がある。筆者の経験では、中小規模の法律事務所では前の2者を、海外業務を取り扱う法律事務所ではタイムチャージ制を採用しているところが多いようだ。

 弁護士報酬の基準および算定方法については、各地の司法行政機関と発展改革委員会などが共同で、当地の経済水準に基づいて弁護士サービス料金徴収管理規則を制定している。例えば、2014年版の「上海市弁護士サービス料金徴収管理規則」(最新政府指導価格)第5条などでは、次のように規定している。

 弁護士サービス料金の徴収は、法務サービスの事項によって、政府指導価格、市場調節価格による管理を実施する。以下の法務サービス内容については、政府指導価格に従い料金を徴収する。(1)刑事事件の容疑者、被告人の弁護人および刑事事件の私人訴追人(4)、被害者の代理人を務める場合(2)公民による労働報酬、労災賠償の支払い請求、高齢者への扶養費・子どもなどの養育費・生活扶養費の支給請求、慰謝料・補償金の給付請求、社会保険待遇または最低生活保障待遇での給付請求に係る民事訴訟、行政訴訟の代理人を務める場合および労災事故、環境汚染、土地収用立退賠償(補償)などの公共利益に関わる集団訴訟事件の代理人を務める場合(3)公民による国家賠償請求事件の代理人を務める場合――となる。弁護士事務所が提供する上記の項目以外の法務サービスについては、市場調節価格に基づいている。

 この政府指導価格とは、政府が定める案件1件当たりの固定報酬額だ。また市場調節価格とは、弁護士と依頼者が協議の上で決定する報酬額をいう。政府指導価格は比較的低くなっている。例えば、刑事事件の容疑者・被告人の弁護人を務める場合、捜査段階では1500~1万元、起訴審査段階では2000~1万元、一審段階では3000~3万元とされている。

 

報酬の背景にある厳しさ

 前述のとおり、公共の利益や社会的弱者に関する法務サービス以外については、弁護士と依頼者が話し合って報酬額を決めることになっている。しかし、これについて戸惑いを覚える依頼者も少なくない。例えば、依頼者が電話で弁護士に初めて連絡をした際、弁護士報酬がどれくらいかかるか尋ねたとしても、弁護士は「計算が複雑で具体的には申し上げられません。直接お会いして相談しましょう」といった曖昧な返事をすることが多い。何とか具体的な額を教えてほしいと重ねて尋ねる依頼者もいるが、それでも「こういった案件なら5万~30万元程度」のような答えが返ってくるかもしれない。

 一般的には、「弁護士の報酬額は幅が大き過ぎる」「ほかの業界なら、その場で具体的な額を提示してもらえる。なぜ弁護士はそれができないのか」と思うかもしれない。しかし弁護士としては、これはぜひ理解してもらいたい点だ。というのも、どのような案件にも不確定要素があるため、念入りに検討してからでないと必要な作業時間を予測することが難しい。そのため、具体的な額を提示することは簡単なことではないからだ。

 弁護士報酬が高過ぎると感じる人は少なくないだろう。しかし、一人前の弁護士になるには、3~5年の経験が必要だ。また、依頼された案件に対し、弁護士は培った経験や知識を総動員して、全身全霊で解決に当たる。いわば、一つ一つの案件には、弁護士がこれまでに注いできた心血の全てが込められている。

 さらに、あちこちにいくつもの裁判を抱え、その出廷のため何時であろうと長距離であろうと忙しく飛び回ることも多い。持ち歩く大きなバッグの中には、寝る間も惜しんで作成した裁判資料――膨大な文書の読み込みと、その詳細な検討、豊富な知識、そのいずれが欠けても成し得ない弁護士の努力の結晶が詰まっている。このように、弁護士の仕事というのは想像以上に厳しいものだ。現在の報酬額も、こうした背景から導き出されている。

 一人前の弁護士になることがいかに難しいか。それを表す次のようなジョークがある。

 ある夜、寝付けない妻が弁護士の夫に何か話をしてくれと頼んだ。夫はこう話し始めた。「昔々、あるところに、弁護士になろうと司法試験に挑戦した若者がいました。若者はたくさんの試験を受けました。それは、法理学、法制史、憲法、経済法、国際法、国際司法、国際経済法、刑法、刑事訴訟法、行政法、行政訴訟法、民法、商法……」。試験科目を言い終わらないうちに、妻は寝入ってしまった。翌日の夜、また寝付けない妻に夫がこう話し出した。「民法の科目というのは、幅広い分野の法令を含むんだよ。たとえば、物権法、担保法、契約法、権利侵害責任法、婚姻法、継承法、養子縁組法(5)……」。民法の内容を言い終わらないうちに、妻はまた寝入ってしまった――。

 業界専門誌『中国弁護士』の編集長を務めた劉桂明氏は、弁護士業の総括として次のような言葉を残している。弁護士となって20年となる筆者も大いに感じ入るところがあるので、本稿の結びとしたい。

 ――弁護士というのは、一見カッコ良く、お金を持っていそうに聞こえるが、言ってみれば大変面倒で、実際にやったらとても難しい、そういう職業である。

 

1)版权侵权 著作権の侵害

2)管理合伙人 マネージング・パートナー

3)计时收费制 タイムチャージ制

4)自诉人 私人訴追人

5)收养法 養子縁組法

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