より狡猾になる悪徳金融

2020-12-07 11:34:25

鮑栄振=文

「套路」とは、もともとは中国の武術用語で、攻撃や防御方法、立ち方や歩き方などで構成された一連の動作を指す。空手の「型」に意味が近い。また、順序、やり方、慣例なども意味する。最近では、ネット用語として計画的に人をだます策略、わなの意味でも使われる。

「套路」から派生した「套路貸」とは、金銭貸借の形を借りて他者の財産を不法に取得する犯罪行為の総称だ。日本なら、さしずめ「高利貸し」「金融詐欺」「財産乗っ取り」を合わせたようなものだ。

具体的な流れは、①借り手を強要し、「借用書」や「抵当権(1)設定契約」「担保権設定契約」などの書面にサインさせる②借り手をだまして貸付金額を水増しし、返済できないように仕向ける③契約違反を理由にしたり、返済の証拠を隠滅したりして、借り手に偽の債務を負わせる④最後に訴訟や暴力、脅迫などの手段により不法に借り手の財物を取得する、というものだ。

この「套路貸」の定義は、最高人民法院(最高裁に相当)と最高人民検察院(同最高検)、公安部(部は省に相当)、司法部が昨年4月に共同で公布した「反社会的勢力による犯罪事件の取り扱いに関する若干の問題についての指導意見」で示されたものだ。しかしこれは抽象的で、近年増えてきた新型詐欺の実態をつかみにくいため、実例を交えて説明する。

 

少額借金で全財産失う羽目に

2018年、大学を卒業したばかりの王さんは、クレジットカードからの支払いに充てる3000元をどう工面する(2)か頭を悩ませていた。その時、王さんの携帯電話に、陳と名乗る男からこんなショートメールが届いた。「お金が必要かい? 微信(ウイーチャット、日本のLINEに相当)に俺の連絡先を登録してくれたら、審査なしで3000~5万元」「無抵当、預金ゼロでも大丈夫。身分証明書さえあれば貸すよ」。王さんは陳の誘いに乗り、その場で借り入れを申し込んだのだった。

これが「套路貸」の第一のわなである。宣伝メールを送信したり、ウイーチャット上で連絡したり、電話を掛けたりして標的を見つけるのだ。

手続きは簡単で、申込表に氏名や年齢などの個人情報、家族構成や資産状況、電話番号を記入するだけだった。しかし、王さんが申込表にサインするや否や、陳は「借りるなら最低1万元からだ」と言い出した。急いで金を工面する必要があった王さんは、仕方なく了承した。

その後、陳は「業界の通例(3)」だと言って、2万元の借用書にサインするよう王さんに求めてきた。急いでいた王さんは、陳に言われるがまま、またサインしてしまった。

陳はさらに、最初の1万元の借入金から2675元を手数料として徴収すること、また返済期間は20週とし、元金と利息合わせて毎週875元を返済すること、繰り上げ返済はできないことを王さんに伝えた。

さすがに王さんもとんでもない条件だと感じ、断ろうとした。だが陳は、王さんのサインが入った2万元の借用書を取り出し、「だったら裁判所にこいつを持って行ってあんたを訴えるしかないな」と王さんを脅迫し始めた。結局、王さんはこれも受け入れた。

こうして王さんはこの日7325元を手にし、2万元の借用書にサインをしたのだった。

このように、貸し金と見せかけ、巧みに口実を設けて借入元金を奪い取るのが第二のわなである。さらに、この後に続く第三のわなにより、借入額は積み増しされ、被害者は一歩ずつ瀬戸際へと追い詰められていく。

返済開始から7週目、王さんはどうにも返済を続けることができなくなった。それを知った陳は、30%の違約金の支払いを迫る。弱り目にたたり目(4)の王さんに、陳は「吉時雨」(慈雨のような支援)という金融会社を王さんに紹介した。

陳への返済に充てるため、王さんは同様に「業界の通例」に従い、「吉時雨」から毎月の利息1600元の条件で3万元借り、8万元の借用書にサインしたが、実際に手元に入ったのは1万5000元にすぎなかった。

その年の9月になると、王さんは「吉時雨」から借りた金も返せなくなった。すると、今度は「クラウン資本」という会社を紹介され、そこからも金を借りた。それから数カ月後、王さんは「クラウン資本」から取り立てにやってきた男たちに車に押し込まれ、無理やりある事務所に連れて行かれた。そこで4時間も「缶詰め」にされた王さんは、利子2万元を支払って、ようやく解放された。このようにして、わずか1年ほどの間に王さんは複数の「套路貸」の会社からの借金を重ね、借入額は雪だるま式(5)に300万元まで膨れ上がった。

この事例から、「套路貸」の詐欺容疑者たちが「証拠」に対して高い意識を持っていることが分かる。彼らが被害者に金を貸す際、「業界の通例」と言って実際より高額な借用書にサインさせ、銀行振り込みといった証拠が残る方法で客に送金する。入金後、できるだけ証拠が残らない方法で被害者に金を引き出させる。実際の借入額を大きく上回る額の返済を要求することで、「10万元貸すだけで100万元以上を取り立てる」ことを可能にしている。

先ほどの事例では、王さんは最終的に警察への通報を選んだ。警察は特別捜査班を作り、捜査を開始。その結果、「クラウン資本」は無登録の違法な会社であり、こうした金融詐欺を専門に行っていたことが判明した。

 

法改正で行き詰る「套路貸」

近年、「套路貸」の他に高利貸しや、学生相手に貸し付ける「校園貸」など、民間のさまざまなローン事件の増加に伴い、こうした訴訟もますます増え、国や世間から注目されている。「套路貸」犯罪のまん延は、直接被害者の財産を侵害するだけでなく、暴行や脅迫といった取り立て方法も絡み、他の犯罪も引き起こしやすい。さらに、被害者は学校を止めざるを得なくなったり、家を売って借金の返済に充てたり、果ては自殺に追い込まれたりと、悲惨な末路を迎える。もし高利貸しを人食い虎に例えるなら、「套路貸」は「底なし沼に潜む悪魔」と言っても過言ではない。

この「悪魔」を一掃するため、18年1月に「全国反社会的勢力一掃キャンペーン」が開始された。以来、公安部の指示の下、全国の公安機関により「套路貸」撲滅運動が進められている。今年1~7月だけでも、260余りの「套路貸」の犯罪組織を取り締まり、容疑者1270人余りを逮捕、摘発事件数は1410件余り、押収資金は10億元に上り、「套路貸」は明らかに減少傾向にあるという。

だが、このような厳しい取り締まりの一方で、一部の「套路貸」は、発覚されにくいよう巧妙に手口を変え、でっち上げられた法律関係はさらに複雑になっている。また、不動産売買や株式譲渡、不良資産処理など、これまでになかった分野に進出してきている。

民事面では、最高人民法院が対応策を打ち出している。同院が15年8月に公布した「民間の貸借事件の法適用における若干の問題に関する最高人民法院の規定」では、法律の保護を受けられる民間の借入金の上限金利を年24~36%としていたが、同院は今年8月、同規定を改正し、この上限を年15・4%に引き下げた。これは非常に大きな変更であり、この調整により中小・零細企業の資金調達コストが低減され、市場全体の利率の引き下げを招くと考えられる。これは現在の経済を回復させ、市場参入者を守る重要な措置である。さらに民間の貸金行為の規範化や、高利貸し・「套路貸」などの規制に役立つだろう。

 

1)抵当権 抵押权

2)工面する (资金)周转

3)業界の通例 行规

4)弱り目にたたり目 雪上加霜

5)雪だるま式 滚雪球式 
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