「広告塔」も問われる責任

2020-12-18 14:19:41

鮑栄振=文

人気芸能人がもてはやされる昨今、彼ら有名人がイメージキャラクター(広告塔)を務めたり、ライブコマースに出たりすることで、ファンに商品を買ってもらうという「ファン経済」が隆盛を極めている。目ざとい企業は、この「スター効果」がもたらすばく大な利益に目を付け、次々と有名人をイメージキャラクターに起用している。彼らが宣伝する商品は広範で、日用品から耐久消費財(1)、普通の食品からサプリメント、さらには医薬品など、人々が購入する商品のほとんど全てにわたる。こうしたイメージキャラクターたちは中国の広告市場でも不可欠で、もはや一つの産業と呼べるほどだ。

しかし、人気者がイメージキャラクターを務めることで問題となることも珍しくなく、その是非を問う声も上がっている。特に、宣伝する商品やサービスについて、その広告塔を務める有名人がどこまで法的責任を負うべきか、中国社会でもさまざまな意見がある。広告主や商品・サービス提供元と連帯して責任を負うべきだという人もいれば、これらとは別に単独で責任を負うべきだという人もおり、また両者を折衷した見解の人もいる。以下、全国的な議論を巻き起こした二つの事例と、関係法律の変遷を紹介する。

 

漫才師も法的責任を負う?

有名人がイメージキャラクターとして虚偽広告(2)に使われた場合、彼らも連帯責任を負うのかどうか。それが最初に議論され、全国的な注目を集めたのは、2005年のことだ。

この年の3月、江西省のある女性消費者は、人気化粧品ブランド「SK-Ⅱ」のしわ取りクリーム(3)を購入し、1カ月間使用した。だが、「連続28日間の使用によりしわは47%減り、皮ふは12年若返る」という宣伝文句の効果は現れず、逆に肌にかゆみが生じ、一部がただれてしまったとして、親会社であるP&G社を訴えた。

この女性はさらに、この製品の中国エリアのブランド・アンバサダー(広告塔)だった人気女優の劉嘉玲(カリーナ・ラウ)さんを被告に追加するよう人民法院(裁判所)に求めた。だが、これは、「イメージキャラクターの責任追及は法的根拠がない」として却下された。

この事件をきっかけに、中国では、虚偽とされる広告に出た有名人は、広告主と連帯して損害賠償責任を負うべきか――という議論が全国的に巻き起こった。そして07年3月15日、中国中央テレビ局(CCTV)が「世界消費者権利デー」に関する番組で、人気「相声」(漫才)師の郭徳綱氏が使われたやせ薬(4)「蔵密排油茶」の広告を、消費者の権利を侵害した例として取り上げた。ここから同様の議論が再燃することとなった。

郭氏は、相声の伝統を復活させ、それを現代的に味付けした芸風が持ち味だ。衰退の兆しがあった中国の相声は、郭氏の人気で06年から再び流行し始めた。相声の復活に最も貢献したと評価された郭氏は、米国誌『フォーブス』の「2007年の中国有名人番付」にもランクインした。

その郭氏がイメージキャラクターとして使われた「蔵密排油茶」の広告は、06年からテレビや新聞、雑誌のほか、北京のバスの車体側面の広告にも大々的に登場した。

06年7月、北京のある消費者が、「蔵密排油茶」を使用しても、広告がうたうような効果はなかったとして、郭氏とメーカー、それに広告を掲載した新聞社『保定晩報』を相手取り、謝罪と商品の代金116元の倍額の賠償を求めて人民法院に提訴した。さらに、これが受理されたことも話題を呼んだ。

これについて、郭氏ファンの多くは「連帯責任はない」としたが、「ある」とした法学者や弁護士も多かった。

『広告法』は、虚偽広告について、行政責任のほか民事責任も規定している。当時の同法第38条は、虚偽広告により消費者の合法的権益が損なわれた場合の損害賠償などの責任について、これを負う主要な主体は事業者(広告主)とし、広告経営者・発布者は広告が不実であることを知りながら、また知るべきであるにもかかわらず、敢えて虚偽広告の設計・製作・発布を行った場合、連帯責任を負うと規定する。(中略)また社会団体やその他の組織は、虚偽広告によって消費者にその商品やサービスを推薦した場合、連帯責任を負う、と定めていた。

当該38条の解釈を巡って、虚偽広告に起用された者も責任を負うのかという論争が展開され、肯定と否定の二つの説が対立した。通説では、同条において連帯責任を負うべき主体として定められているのは団体や組織のみであり、イメージキャラクターとして広告に使われた者は含まれない、という見方であった。

 

法整備で責任逃れ許さず

当時の法律では、イメージキャラクターを務める者が虚偽広告について、連帯責任を負うかどうかが明確に定められていなかった。このため一部の有名人は、報酬さえ十分なら「来るものは拒まず」(5)といったスタンスで広告塔の仕事を引き受けていた。その結果、ブランド・アンバサダーが虚偽広告をする、という事件もしばしば発生した。そういった場合でも、有名人たちの態度は「(商品やサービスを)よく理解していなかった」ことを理由に、まるまる責任逃れをする人がほとんどだった。

こういった風潮に対し、とうとう法律上でも対策が講じられた。その口火を切ったのは、09年6月1日から施行された『食品安全法』だ。同法第55条では、「社会団体またはその他の組織、個人が虚偽広告において消費者に対し食品を推薦し、消費者の合法的権益に損害を与えた場合、食品の生産経営業者と共に連帯責任を負う」と定めている。団体と組織だけでなく「個人」も明記することで、イメージキャラクターを務める者も虚偽広告について連帯責任を負わなければならないとした。また、14年の改正『消費者権益保護法』でも、虚偽広告について連帯責任を負う主体として「個人」が追加されている。

最も注目に値するのは、15年の『広告法』改正において次の旨の定めが追加されたことだろう。

(1)広告のイメージキャラクターを務める者は、自らが使用したことのない商品・サービスについて推薦・証明を行ってはならない。

(2)虚偽広告においてイメージキャラクターを務めたことにより処罰を受けた場合、3年間は広告のイメージキャラクターを務めてはならない。

(3)消費者の生命・健康に関わる商品またはサービスの虚偽広告により、消費者に損害を与えた場合、広告のイメージキャラクターを務めた者は広告主・広告経営者・広告掲載業者と共に連帯責任を負わなければならない。

(4)医療・医薬品・医薬機器・保健食品に関する広告では、イメージキャラクターを使用することはできない。

上記(3)について詳しく説明すると、この虚偽広告のイメージキャラクターを務めた者は、虚偽広告であることを知っていたか否か、知るべきであったか否かを問わず、連帯責任を負う――つまり、無過失責任を負うことになる。しかし、商品やサービスが消費者の生命・健康に関わらなければ、虚偽広告のイメージキャラクターを務めた者は、虚偽広告であることを知っていた、または知るべきであった場合に連帯責任を負う――つまり、過失責任を負うこととなる。

これらの規定によって従来の法制度の不備が補われたことで、有名人のイメージキャラクターによる虚偽広告は、道義的な非難を受けるだけでなく、処罰を受ける可能性も出てきた。現在のところ、商品やサービスの問題でイメージキャラクターを演じた有名人が処罰を受けたケースはまだなく、このような虚偽広告に対する抑止効果はしっかり現われている。

実際に処罰を受けるリスクが出てきて、イメージキャラクターを務めることに慎重な態度を取るようになった有名人も多い。彼らも、リスクを冒さずひともうけ――と簡単にはいかないと分かったからだ。

 

1)耐久消費財 耐用消费品

2)虚偽広告 虚假广告

3)しわ取りクリーム 抗皱霜

4)やせ薬 减肥药

5)来るものは拒まず 来者不拒 
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