中国から響く新時代への号砲

2022-01-29 15:32:54

木村知義=文

 今号からこのページの筆を執ることになりました。新年のごあいさつを申し上げるとともに、どうぞよろしくお願いいたします。

 これまで折々、私の考察を掲載していただく機会を得ていましたが、毎号の担当をお引き受けすることになって責任の重さを痛感しています。そこで本論に入る前にこのページの掲題「中国、望見心耳」についてひと言。

 今中国と向き合い、中国を見つめ、中国について考えることは、中国のみならず世界の現在とこれからを考える大事な営みであると思います。その際、日本という「離れたところ」から中国を望み見るとき、視界を広く持つとともに、歴史に根差す長い時間軸の中で中国と向き合い、考えることが大切だと思っています。そして、薄っぺらな表層感覚ではなく心を耳として中国からの「音」を深く聴き取ることを自身に課して、中国と世界について、日中関係について考え、深めていきたい、そんな思いを込めたものです。読者の皆さまと一緒に、中国について真摯に考えるページにしていければと願っています。

習近平主席は昨年11月16日に北京で、米国のバイデン大統領とビデオ会談を行った(新華社)

 

「歴史決議」と新時代への「幕開け」

 さて、新たな年2022年の幕開けを迎えましたが、中国では一足早く、昨年11月に開催された中国共産党第19期中央委員会第6回全体会議(六中全会)における「党の100年にわたる奮闘の重要な成果と歴史的経験に関する中国共産党中央の決議」(以下「歴史決議」)によって新たな時代への画期を迎えたという思いを強くしました。さらに、続いて設定された習近平主席と米国のバイデン大統領による中米首脳会談と併せて、次の「百周年」への新時代の歩みを進める号砲が中国から響いて来たという感慨を抱いたものです。

 「歴史決議」では、中国共産党創立から100年の「刻苦奮闘」の歩みと、そこで中国の人々が勝ち取ってきた成果が網羅して語られています。読み進むうち、中国革命の歩みを理解するには「過程」と「段階」という複眼の思考が大事だと思い至りました。どういうことかと言えば、中国革命が目指す最終的な目標の達成までには長い「過渡期」を歩むことを必然とするということと、その「過程」においてはさまざまな発展の「段階」を画して、それを登りながら目標に向けて前に進んでいくということです。

 中国共産党の指導の下で人々を立ち上がらせ、団結させて新中国を誕生させ、新民主主義の段階から社会主義建設へ、曲折を経ながらもその経験に立って改革開放へ、そして「小康社会(ややゆとりのある社会)」の達成を成し遂げ、いよいよ次の段階、つまり、「社会主義現代化強国の全面的完成」という目標に向かってまい進する歴史的な画期に立つことになったというわけです。

 このように、100年という長い時間認識の中で経験と成果を総括し、認識を深めることで、中国の人々が新たな「長征」へと歩みを進める力にしていく、その覚悟と決意を、そして途上における課題とそれに挑む道筋について示したのが、中国共産党の歴史において「三つ目」となる今回の「歴史決議」だと言えます。

 さらに、「新時代の中国の特色ある社会主義」の針路を中国人民と世界に示したところで、バイデン大統領との首脳会談に臨んだ意味も見えてきます。

 トランプ前政権時代の対決姿勢を改めることなく、それ以上に、日本はじめ英国、オーストラリアなど同盟諸国を糾合して中国包囲網を強化する姿勢を強め、台湾問題という中米国交正常化に際して確認したもっとも核心をなす原則にまで触れる「振る舞い」を繰り広げるバイデン政権に対して、習近平主席は、「レッドラインを突破するならば、中国は断固とした措置を取らざるを得なくなる」と明確にクギを刺すことになりました。つまり、気候変動問題など中国との協力を言うなら「何をするか」の前に「何をしてはならないか」を明確にしたと言えます。こうして、「六中全会」と「中米首脳会談」によって、中国が新時代の新たな歩みを進める内外の条件が整えられたと言えるのではないでしょうか。

 

重要な節目の年、2022年

 さて、年が明けて、間もなく北京冬季五輪・パラリンピックを迎えます。昨年の「テストマッチ」はじめ、中国では準備に拍車がかかっていることが伝えられていますが、パンデミックの中でのさまざまな難しさの伴う開催になります。これを成功裏に終えて全国人民代表大会へ、そして秋に予定されている中国共産党第20回全国代表大会へと、今年は、中国のみならず世界にとっても重要な年となります。

 日中関係について言えば、国交正常化50周年の節目の年であることはすでに知られている通りですが、あらためて日中国交正常化に至る先人たちの努力と苦労、なによりも中国の多くの人々に残るかつての日本帝国主義による侵略の記憶と傷痕をはじめ幾多の困難を乗り越えてたどり着いた国交正常化の歴史的意義をしっかりと認識することが現在の私たちの責務だと考えます。そして、日中間で交わした「共同声明」や確認した「原則」について、あらためて思い返し、守り抜く決意を再確認する年にしなければならないと思います。

 残念なことですが、昨年の言論NPOの調査では、日本人で中国に良い感情を抱かない人が9割近くに及ぶという結果が示されています。この調査が全てだとは言えませんが、日本における対中感情は決して良い方向に進んでいるとは言えない厳しい状況にあります。一方で、日中関係を重要だと考える日本人は、調査開始以来初めて7割を切ったとはいえ、6割余りいます。また、貿易はじめ日中間の経済関係は着実に前進していることも忘れてはならないことです。

 

日中両国の信頼関係再構築の年へ

 このような世情の中で迎える日中国交正常化50周年。パンデミック下にあっても、日中間の相互往来を一歩でも二歩でも活発にしていく努力を日中双方の協力、協働の取り組みとして始めていかなくてはと思うのです。オンラインでは決して得られない、対面による生の対話を取り戻し、それぞれの土地を訪れ、その土地の空気と人に触れて、人と人の交流を活発にすることこそが、現在の「残念な状況」を変えていく大事な糸口になると思います。

 まずは北京オリンピックを成功裏に終えた後、日中両国の医学、疫学、そしてIT技術など各分野の専門家の協力と協働そして両国政府の連携の道を開く努力をすれば、決して不可能な「夢」ではないと思います。日中間の活発な往来を取り戻し、日中両国が協力して取り組めるプロジェクトを多様に発想、発案して、一つ一つの協働の中から相互理解を深め日中関係を踏み固めていく、両国の信頼関係再構築の年にしたい、そんな思いを強くする年明けです。

 さまざまな問題や壁にぶつかることもあるでしょうし、道はたやすくないかもしれませんが、それゆえに中国への理解、認識を深め、未来を見通す時代観を持つことの大切さを痛感します。日中両国の私たちが手を取り合えば、乗り越えられない壁はない、そんな強い意志をもってこの大事な年を歩みたいと思います。

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