改革開放40年は「新時代」 平和条約40年に伙伴関係を

2018-03-02 16:19:49

文=(財)国際貿易投資研究所(ITI)チーフエコノミスト・江原規由 

 中国にとって、2018年は改革開放40周年です。人間でいえば、歩むべき方向が確固とする「不惑」を迎えたということになります。目下、中国は、「新時代の中国の特色ある社会主義現代化」の建設に着手しており、また、対外的には、「人類運命共同体」の構築を提唱しています。いずれも、改革開放の一つの到達点と見ることができるのではないでしょうか。その40年間、中国は未曾有の年率平均9%以上の高成長を遂げています。ちなみに、年代は異なるものの、日本は年率平均9%成長(25年)、韓国は同9%成長(30年)、また、米国は同8%成長(30年)です。17年(111月)の中国の経済成長率は69%(注1)と発表されていますが、日本、韓国、米国など長期高速成長を経験した国の成長率は、ほぼ30年前後から減速し、近年いずれも3%以下となっています。こうして見ると、現下の中国の7%前後の成長は、なお、中国経済のみならず世界経済の発展に大きく貢献している(注2)といえるでしょう。実際、中国は2030年前後に米国を抜いて、世界最大の経済体になるとする研究報告もあります(注3)。

習主席が年頭賀詞で強調

 「新時代の中国の特色ある社会主義現代化」の建設や「人類運命共同体」の提唱は、改革開放が深化し、その国際化が新たな次元に入ったことを内外に発信したメッセージとみられます。習近平国家主席は、今年年頭の賀詞で、「中国共産党第19回全国代表大会(19大)の開催(昨年10月)は社会主義現代化国家への新たな道のりを開いた」と強調、その成果として、国内総生産(GDP)80兆元台への到達、年間新規就業者1300万人余り、社会養老保険カバー13億5000万人、農村貧困者1000万人余りの脱貧困を指摘し、また、「国内外で重要会議に参加し、関係各方面と突っ込んだ意見交換をし、『人類運命共同体』を共同で構築し世界各国人民と幸福を分かつことに賛同を得た」と述べ、さらに、「改革開放40周年に当たり、困難を恐れず 新しい道を切り開く」と強調しています。

ハイクオリティー発展へ

 今年は、第13次5カ年計画(1620年、135計画)の中間年で、中国の今後30年余りの発展を示したとされる「19大」後の最初の年となることから、中国経済の今後を占うキー年とする内外の識者が少なくありません。中国経済はすでに中高速成長期に入っていますが、注目すべきは、最近、国内の重要会議やニュース報道でハイクオリティー発展への言及が目立って増えてきている点です。

 ハイクオリティーとは、人民生活の視点から見ると、前述の賀詞で強調された脱貧困、雇用、社会保障や環境配慮型発展、教育環境の充実などに集約されるでしょう。例えば、脱貧困を例にとると、20年までの全面的な小康社会の達成を目指す中国が、これに積極優先的に取り組んでいることがその好例と指摘できるでしょう。40年来の改革開放では、都市化や工業化が急速に進められてきました。その過程で、都市化率が(17年6月時点の常住人口都市率5735%)年々高まる中、農業、農村の発展は比較的に立ち遅れており、中国経済発展の「短板(弱点)」となっていました。今年からハイクオリティー農業農村振興を積極推進する方針にありますが、この点、例えば、トイレ革命(135計画における農村住居環境改善の重点任務に指定。16年末、農村部の衛生トイレの普及率は804%)が大々的に実施されているなど、農村の生活衛生環境が大きく改善されつつあります。ハイクオリティー発展は、都市と農村の格差縮小に大きく貢献すると同時に、内需主導の経済成長パターンへの転換や産業構造の高度化を推進し、中国が「中所得国のわな」を回避する有効策として期待されています。

 ハイクオリティー発展を工業化の視点から見ると、供給側改革(内需重視の経済構造への転換、ゾンビ企業など非効率な企業の淘汰の促進、新たな成長分野への優先的資源投入や国有および私有の共同持株を軸とする国有企業混合所有制経済〈国企混改〉の構築など)の推進を軸に、共有経済、デジタル経済25産業(AI、ロボット、IoT、VR、自動運転、3Dコピー機など)の育成発展といった新たな工業化とそれを担う人材育成、匠精神の発揚などが未曾有の規模とスピードで積極推進されていることが注目されるでしょう。この点、独角獣企業(ユニコーン企業)(注4)の存在は、今後の中国のハイクオリティー発展を見る視点といえます。昨年6月時点で、22カ国に250社余り存在し、そのうち、中国は米国に次ぎ、企業数全体の約40%を占めているとされます(『経済参考報』昨年128日)。ユニコーン企業の多くが、成長著しいインターネット関連であり、今後、中国の新工業化の原動力となる可能性が秘められているといえるでしょう。

「三共」で人類運命共同体

 「人類運命共同体」の提起については、改革開放の先富論の究極である共同富裕を、「共商、共建、共享(共に話し合い、共につくり、共に分ち合う)」の「三共」精神でグローバルに実現しようとの発想から出たものといえるのではないでしょうか。この「三共」の精神は、「アメリカファースト」の主張とは対極を成しているといえるでしょう。反グローバリズムや保護主義の台頭が懸念される中、グローバリズムの意義を強調する中国対外発展戦略の理論的支柱といっても過言ではありません。民主主義政治の原則を示したとされる米国のリンカーン大統領の「人民の、人民による、人民のための政治」のゲティスバーグ演説(1863年)はあまりにも有名ですが、中国の「三共」精神は、これに、「人民と世界と共に」の視点を加味したものといえるでしょう。

 「三共」は今年、提起以来5周年となる「一帯一路(シルクロード経済ベルトと21世紀海上シルクロード)」構想の指導原理でもあります。昨年、日本や韓国が「一帯一路」に参加の意向を表明しましたが、今や、「三共」精神は国際的認知を得たといえるのではないでしょうか。昨年5月、北京で「一帯一路国際協力サミットフォーラム」が開催されましたが、その折、習近平国家主席が提起した国際輸入博覧会(中国にとって初の大規模な輸入のための博覧会)が、今年11月、上海で開催されます。これに関し、王毅外交部長(外相)は昨年、国際情勢および中国外交研究会の席上、「この機会に、中国は市場を世界にさらに開放し、発展のチャンスを世界と分かつ」とのメッセージを発信しています。今年は、この輸入博覧会に加え、ボアオアジアフォーラム、上海協力機構(SCO)首脳会議、中国アフリカ協力フォーラムなどの主要国際会議が中国で多々開催されます。中国が「三共」精神をどう発揮し、世界がどう応えるのか、大いに注目されます。

 ところで、今年は日中平和友好条約締結40周年でもあります。同友好条約と改革開放は同い年です。資本の純輸出国で世界第2位の対外投資国となった中国は、世界と「伙伴関係(パートナーシップ、国家間交流の指導原則)」を軸とする「朋友圏(微信〈中国版LINE〉のモーメンツ)」の構築に余念がありませんが、日本とは伙伴関係が構築されていません。40周年の記念すべき今年に、日中両国が伙伴関係の構築で朋友圏を拡大し、「三共」精神の輪を大きくしてほしいものです。

 

注1  今年の中国経済成長予測には社会科学院67%、国連経済社会局(DESA)65%もある。

注2 中国共産党第18回全国代表大会期間(1217年)の世界経済成長への中国の寄与率は343%(人民網昨年1222日)。

注3 中国交通銀行は28年以前に、英民間調査機関の経済ビジネスリサーチセンター(CEBR)は32年以前に中国が世界一になると予測。

注4 非上場で評価額10以上のベンチャー企業など。

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