国際会議や国際フォーラム 中国首脳発言に注目集まる

2018-11-28 15:23:00

 

文=江原規由

中国が主催あるいは参加する国際会議や国際フォーラムへの世界的関心がかつてない高まりを見せています。9月を例にとると、11日から13日までロシアが提唱する第4回「東方経済フォーラム」がウラジオストクで開催され、習近平国家主席が初出席したほか、18日から20日まで天津で「夏季ダボスフォーラム」(以下、天津夏季ダボス会議)(注1)が開催、いずれも、過去最大規模となりました。

その背景には、国際会議や国際フォーラムでのテーマに対する関心は言うまでもありませんが、例えば、中米貿易摩擦や「一帯一路(シルクロード経済ベルトと21世紀海上シルクロード)」構想といった世界経済の発展に大きく関わる未曽有の事態や世紀の大事業の行方に、中国がどう対応するのかといった関心と中国への期待があるといえるでしょう。

 

グローバリズム維持を表明

東方経済フォーラムで、習主席がプーチン大統領との首脳会談で強調したのは①「一帯一路」とロシアが主導する「ユーラシア経済連合」の発展戦略を連携させ、資源、農業、科学技術のイノベーション、金融などの分野で交流拡大を図ること②両国は国連安保理常任理事国、新興市場国家として世界平和、繁栄に重責を担っていること③国連、上海協力機構(SCO)、新興5カ国(BRICS)首脳会議などと密接に連携しつつ、国連憲章の主旨と原則を擁護し、保護貿易主義に反対し、新型国際関係、人類運命共同体の構築を促進する必要がある、などでした。

総じて、習主席はグローバリズムの維持と中国が希求している公正で客観的なグローバルガバナンスの構築を目指す姿勢を表明したといえます。

ちなみに、東方経済フォーラムには、安倍晋三首相も出席、習主席との日中首脳会談が実現しました。その折、習主席は「日中関係は正常な軌道に入りつつある。新たなさらに大きな発展を遂げる必要がある」とし、安倍首相は「長期にわたり日本は改革開放に積極的に関わってきた。中国の発展は日本に積極的な影響を及ぼしてきた」と発言しています。

国際会議や国際フォーラムは、その時々の二国間関係や世界の課題に対し有効な処方箋を紹介する機会でもあります。この点、9月の二つの会議、フォーラムは、中国が中米貿易摩擦の解消や「一帯一路」構想のさらなる国際化などに向け、どのような処方箋を用意しているのかを共有する機会として、世界からこれまでにない高い関心が寄せられたといえるのではないでしょうか。

 

第4次産業革命をテーマに

この点、天津夏季ダボス会議には、世界42の国と地域から国家元首、政府首脳要人200人余りと政界、ビジネス界、学界、メディア界の代表1500人余りが参加するなど夏季ダボス会議史上最大規模となったとされています。そのメインテーマは、「第4次産業革命におけるイノベーション型社会を築く」で、主に人工知能(AI)、モノのインターネット(IoT) 、クラウドコンピューティング、ビッグデータ、ロボットなど新興技術が主役の第4次産業革命が、経済、社会、国家関係などにどう影響するのかについて議論されました。なお、ダボス会議で第4次産業革命について議論されるのは今年で3回目となります。

第4次産業革命とは何か。一概には言えませんが、例えば、AIの発達により、人の寿命を長くしたり、貧困を減少させたり、完全自動運転を実現したりと、生産や生活が一変するような時代の到来をもたらす科学技術産業革命と集約できるでしょう。余談ですが、科学技術の発展により、AIの研究開発が加速し、人々の暮らしは豊かなものになると考えられる一方、2045年にはAIが人間の脳を超えるシンギュラリティー(技術的特異点)(注2)に到達するとする見方もあります。この点、世界経済フォーラム(ダボス会議) のクラウスシュワブ会長は、9月18日、天津の南開大学周恩来フォーラムの基調講演で、「第4次産業革命は、人類に情報、バイオ、ナノテク、認知技術など未曽有の技術的刷新をもたらす一方、世界各国のガバナンスに巨大な挑戦を招来しつつある。人類は、新たな国家、地域そしてグローバルガバナンス体制を構築し、その挑戦に対処しなければならない」と指摘しています。天津夏季ダボス会議は、第4次産業革命が人類にとっての福音となるための処方箋、すなわち、第4次産業革命の安定的な発展のための国際標準の制定に向けた大きな第一歩を記したと期待したいものです。メインテーマにある「イノベーション型社会」とは、究極的には、人々とAIが同居する社会ということになりそうです。

 

世界をリードする中国の姿

今年の天津夏季ダボス会議では、多くの分科会で200以上の議題が設定され広範な議論が行われました。例えば、「人工知能の世界的対話」「中国の人工知能の未来のかたち」「新モバイル時代」「グローバルイノベーションの展望」「『一帯一路』イノベーションの道」「中国の対外開放40年」「中国の金融開放」「消費傾向と中国経済」などが指摘できます。

筆者は、中国が第4次産業革命、イノベーション型社会の構築で、今後、世界の最前列に躍進すると見ています。この点、中国の研究開発(R&D)費用が今や米国に次ぐ世界第2位となっていること、世界のAIに対する投資の過半が中国で行われていること(注3)、華為(ファーウエイ)、百度(バイドゥ)、阿里巴巴(アリババ)集団、騰訊(テンセント)、京東商城などインターネット関連ハイテク企業の世界的躍進やハイテク産業予備軍としてのユニコーン企業の発展(注4)、そして、政府による「大衆創業、万衆創新」などのハイテク産業育成策の開花などが期待されていることなどが指摘できるでしょう。すでに、未来都市とも創業都市とも称される深圳の現状やスマートフォン(スマホ)決済によるキャッシュレス社会への挑戦などに、第4次産業革命、イノベーション社会の構築で世界をリードする中国の姿が認められます。

 

9月20日、天津で開かれた夏季ダボス会議で各界代表と懇談する李克強総理(左)

 

天津夏季ダボス会議開幕式の祝辞の冒頭、李克強総理は「……紆余曲折を経て、世界経済は回復基調にある。新たな産業革命が生成されつつあり、グローバルイノベーション熱が高じていることがその重要な一因となっている。しかしながら、国際環境には、反グローバリズムの台頭など不安定かつ不確実要因も多く、いかに壮大な新エネルギーの発散を継続し、世界経済の持続的かつ安定的な発展を促進していくかが普遍的問題となっている。今年のフォーラムのテーマである『第4次産業革命におけるイノベーション型社会を築く』は正に的を射ている」と強調しています。

今年は、反グローバリズムの台頭などもあり、グローバルガバナンスのあり方が多くの国際会議や国際フォーラムでクローズアップされました。天津夏季ダボス会議では、今後、世界が第4次産業革命にどう対応し、人類の福音としていくのかが問題提起されたといえます。公正で客観的なグローバルガバナンス改革を希求し、第4次産業革命で躍動する中国の対応に、今後世界はさらに大きな関心を寄せることになるのではないでしょうか。

 

 

注1:正式名は、2018年世界経済フォーラムのニューチャンピオンズ年次総会。天津と大連とで毎年交互に開催。第1回は大連、今年は第12回。

2:シンギュラリティーとは、AIの権威であるレイカーツワイル博士により提唱された未来予測の概念。

3:中国経済網 2018年9月19日。

4:ユニコーン企業数で、中国は米国に次いで第2位、世界全体の262%を占める(CB Insight)。

 

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