消費拡大と輸入促進に尽力 世界経済への貢献度高まる
江原規由=文
今年は、中国に未曽有の高成長をもたらした改革開放40周年の節目の年であり、また、米国が発動した貿易摩擦が泥沼化しつつあることなどから、中国の対応に国際的関心がこれまでにないレベルまで高まった1年でした。
改革開放40年の実績をひもとくと、国内総生産(GDP)で52倍(世界第2位の経済大国、世界最大の貿易大国、生産大国)、1人当たりの所得では都市住民可処分所得で105倍(同農村住民純収入は100倍)(注1)と、世界に類のない成果となっています。こうした改革開放の経験は、今後、中国が5年前に提起した世紀の大プロジェクトである「一帯一路(シルクロード経済ベルトと21世紀海上シルクロード)」に引き継がれ、また、目下、世界に大きな転換をもたらしつつある「第4次産業革命」(注2)をけん引する主要なエネルギー源になりつつあると言えます。今や、「一帯一路」と中国における第4次産業革命は、中国や世界の発展は言うに及ばず、グローバルガバナンスの改革、形成に大きく関わってくると考えられます。
■ 内需主導型パターンが定着
節目の年となった今年の中国経済を振り返ると、まず、内需主導型の経済成長パターンが定着したことが特筆されます。具体的には、内需の主役である消費(1~9月の最終消費支出)のGDP成長率に対する寄与率が78%となり、前年同期を14㌽も上回りました。中国経済の成長パターンが大きく変わりつつあるわけです。
中国国家統計局が発表した今年上半期の消費統計によると、支出割合のトップ3は、「食品・タバコ・酒」「住宅」「交通・通信」となっています。見た目には、この調査結果には新鮮味がないように見えますが、消費構造が高度化していることが隠れています。例えば、Eコマース・宅配ビジネスの隆盛、国慶節など祝祭日における内外観光ブームの到来、少子高齢化・教育・健康関連などの新規産業の発展など、トップ3を支える新たな消費拡大の背景要因は枚挙にいとまなしです。このうち、宅配では、1日当たり取り扱い件数が1億件超の多さであり、オンライン小売業(年間売上高は5兆元)の隆盛を支えているとされています。観光は関連収入を含めGDPの11%(9兆1000億元、観光客数は延べ50億1000万人)を占めるまでになっています(注3)。
中国では、生活の基本条件として衣・食・住と行・用(交通・海外旅行・教育・医療・スポーツなど)の表現がよく使われます。宅配も観光も「行」であり、今後は、「用」での消費が急増することが確実視されています。「行」と「用」の増加は、社会環境の変化による消費構造の高度化、ひいては、中国経済が質の高い成長をしつつあることを雄弁に物語っています。その背景には、改革開放40年の可処分所得の向上、民営企業の発展、そして、2020年に「小康社会」(誰もがいくらか豊かさを実感できる社会)の到来を実現させるとした中国政府の政策によるところが大きいと言えるでしょう。
■ 「天の時」に開かれた輸入博
中国の消費拡大や消費構造の高度化は、世界経済の新たなけん引力になりつつあると言えます。例えば、日本では、中国人観光客による経済効果を感じている業界は少なくなく、また、成長著しい中国のEコマースは、国境を越えて世界各国・地域との連携をますます深めつつあります。
中国は消費拡大と輸入拡大を調和させ、世界経済との新たなウインウイン関係の構築を目指したビッグ・プロジェクトを始動させました。11月5日から10日まで上海で開催された第1回国際輸入博覧会(以下、輸入博)がそれです。5日の開幕式の基調講演で、習近平国家主席は「輸入拡大は一時しのぎではない。世界と未来を見据えた共同発展を促進するための長期展望だ。中国は国内消費の高級化に合わせ、人民の収入増を促進し、消費能力を高め(中略)引き続き国内市場を開放し、輸入拡大の空間を拡大する」とし、「今後15年間に、30兆㌦(約3375兆円)を超える商品輸入と10兆㌦(約1125兆円)を上回るサービス輸入を見込んでいる」ことを明らかにしました。
中国には13億余りの人口、世界に類のない多様な内外企業が存在しています。そんな中国での消費拡大や輸入拡大は、中国人民の民生向上、中国企業の生産力・サービスの質的向上を促すとともに、世界をも潤す効果が期待できるでしょう。例えば、中国が人類運命共同体構築のプラットフォームとしている「一帯一路」を推進し、中国の躍進が著しい第4次産業革命での中国のプレゼンスを向上させることになるとみられます。輸入博の開催は、中国と世界経済が連携する絶好のタイミングであり、正に「天の時」だったといえるのではないでしょうか。
■ 世界最大規模の国際公共財
さて、第1回輸入博のテーマは、「新時代 未来の共有」でした。その趣旨は、「改革開放の重要な一里塚」「一帯一路協力を継続拡大するための重要な機会」「貿易自由化を確固として支持し、世界に市場を開放する重大措置」と位置付けられており、展示品を100%輸入する世界唯一、最大の博覧会として、世界の一流企業と一流製品を引きつけることを最重視するとしています。総じて、輸入博は、①改革開放40年の成果を世界と共有し②今年5周年を迎えた「一帯一路」で世界との協力を強化し③自由貿易の推進で世界とのコンセンサスを確認する機会になる―との期待感が強いことなどから、中国と世界にとって一石何鳥もの効果が込められている世紀の博覧会といっても過言ではないでしょう。
毎年開催されることになった「輸入博」は、「一帯一路」、アジアインフラ投資銀行(AIIB)などと同様、「国際公共財」といえるでしょう。このことは、まず、「輸入博」がほぼ全世界をカバーした展示会であること、すなわち、展示面積は約30万平方㍍ 、世界172の国と地域および国際組織と3600社余りの企業が参加、出展し、国内外からのバイヤー40万人に商談の機会を提供したことからも明らかです。
こうした規模の大きさもさることながら、輸入博では、途上国からの出展を支援しているところにも、「国際公共財」とするゆえんがあると言えます。すなわち、アフリカ、アジア、ラテンアメリカの20カ国から出展した約100社(主に中小企業)に対し、ビジネスパートナーの発掘から中国市場へのアクセス支援にいたるきめ細かなサービスが提供されたと報じられています。
さらに、出展企業に関わる注目点は多々あります。例えば、米国企業が出展社数で第3位と多く、ハイテク製造品、スマート設備、農産品、文化・スポーツ関連といった第4次産業革命や民生向上に関わる製品展示が多かったことなどが指摘できるでしょう。ここには中米貿易摩擦の入り込む余地は無かったと言ってよいでしょう。日本はというと、国別で最大規模の約380社・団体の出展があったとされます。その中心は中小企業でした。日本の中小企業の部材や製品には「匠の技」が生かされたものが少なくなく、今後、第4次産業革命の推進に大きく貢献すると見られる出展も少なくなかったようです。中米貿易摩擦の雑音は聞こえず、日中関係改善ムードの高まりが目立った第1回輸入博であったとも言えるのではないでしょうか。
注1.物価上昇率を差し引くと23・8倍(年平均8・5%増)。
注2.人工知能、モノのインターネット、ビッグデータ、クラウド、量子通信、バイオ技術、共有経済など。中国の躍進が目立つ。
注3.今年上半期は延べ28億3000万人。中国人海外旅行者数は2013年から連続世界トップ。