「一帯一路」沿線国で開花へ 新時代迎えた改革開放政策

2019-02-02 11:18:04

文=(財)国際貿易投資研究所(ITI)チーフエコノミスト 江原規由

 1978年12月の中国共産党第11期中央委員会第3回全体会議で改革開放政策が始まってから丸40年後の昨年11月、世界が注目した大イベントと国際会議が相次いで開催されました。すなわち、①上海で開催された国際輸入博覧会(本誌昨年12月号参照)②「双十一」(注1)③パプアニューギニアで開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)サミット④アルゼンチンで開かれた主要20カ国地域(G20)サミットです。これら2大イベントと2サミットは、「改革開放40年来の成果」と「世界における中国」を見る試金石となったと言えます。1カ月間に世界が注目する大ビジネスイベントを複数開催し、国際会議でその言動が大きくクローズアップされる国は、今、中国をおいて他にはないでしょう。

 

昨年1129日(現地時間)、第12回主要20カ国・地域(G20)サミットに出席するため、アルゼンチン・ブエノスアイレスの空港に到着した習近平国家主席(新華社)

 

国際輸入博でプレゼンス

 昨今、改革開放は新時代を迎えたとの表現をよく目にします。どんな新しい時代の到来なのでしょうか。昨年11月の「4大行事」にそのヒントが認められます。

 まず、世界172カ国から3000社余りが出展した国際輸入博で注目すべきは、「一帯一路(シルクロード経済ベルトと21世紀海上シルクロード)」のプレゼンスが目立っていたことが指摘できるでしょう。例えば、「一帯一路」沿線国のほぼ90%に当たる58カ国から1000社余り(全出展企業のほぼ3分の1)の出展があったこと、また、アパレル類、日用品、食品農産物などの従来の商品に加えて、工業用ロボット、デジタル化工場、無人運転車など第4次産業革命に関係する製品展示が少なくなかったことなどです。

 筆者は、「一帯一路」を改革開放の国際化と見ています。この点、国際輸入博では、中国が「一帯一路」沿線国へ改革開放の経験を輸出し、同沿線国からその成果物となる「メードイン一帯一路」を輸入するといったウインウイン関係が構築されつつある事例が多々認められました。改革開放の新時代は「一帯一路」沿線国で花開こうとしているわけです。

 

世界の消費拡大「双十一」

 イベント開始直後に、日本の大手百貨店の年間売上額を上回った「双十一」ではどうでしょうか。この日、「メードインチャイナ」は言うに及ばず、世界の製品サービスに膨大な注文が殺到。筆者の友人は「双十一」で仕留めた格安航空券で北海道へ家族旅行をしています。

 「双十一」の売上額は年々更新され世界の消費拡大に貢献しているわけですが、何より驚かされるのは膨大な注文品の発送業務です。中国国家郵政局のモニタリングデータによると、昨年の「双十一」における電子商取引(EC)業者の注文書取扱量は13億5200万個(前年同期比251%増)に達したとされます。10億個超の宅配郵便物とは、米国における20日間分、英国の4カ月分の宅配便取扱個数に相当するほか、中国の06年の宅配便取扱個数にも匹敵するなど、天文学的な量といっても過言ではないでしょう。ちなみに、一昨年度の日本の宅配便取扱個数は42億5000万個(国土交通省発表)です(注2)。「双十一」の取扱量の膨大さが分かります。こうした膨大な宅配量をより早く配送するためには、ビッグデータ、人工知能(AI)、モノのインターネット(IoT)、ロボット、自動化ピッキング、無人倉庫といった第4次産業革命を代表する先進技術の活用が不可欠です。目下、中国企業はこうした分野への投資が急拡大しています。新時代の改革開放が向き合うのは、第4次産業革命にあることを「双十一」は問い掛けているのではないでしょうか。

 

習主席「保護貿易阻止を」

 APECサミットでは、慣例の首脳宣言が発表できませんでした。多国間貿易体制の維持と保護貿易主義の調整がつかなかったことが主因の一つとされています。中国は、「大多数のAPEC参加国は望まなかった事態」(181120日の中国外交部定例記者会見)としていますが、中国の多国間貿易体制を堅持する姿勢は一貫していました。この点、習近平国家主席は、APECサミットの基調講演(テーマは「時代のチャンスを捉え、アジア太平洋の繁栄を共に図る」)で、「地域経済統合を推進し開放型アジア太平洋経済を構築する。貿易と投資の自由化および円滑化を推進すべきであり、ルールに基づく多国間貿易体制を断固として守り、保護主義を阻止する必要がある」と強調しています。多国間貿易体制の維持は多くの国が支持するところですが、それでも、今回のAPECサミットで首脳宣言が発表できなかったことは、時代の潮流に挑戦する勢力があるということでしょう。

 では、中国は「多国間貿易体制の維持、保護貿易の阻止」にどんな処方箋を用意しているのでしょうか。何といっても、「一帯一路」と国際輸入博はその有力な処方箋となるでしょう。この点、習主席はAPECビジネス指導者サミットで行った基調講演(テーマは「同舟共済で美しい未来を創造しよう」)でこう発言しています。「中国はすでに140余りの国国際組織と『一帯一路』協力協議を締結している。私が強調したいのは、『一帯一路』の共同建設は開放のための協力のプラットフォームである。中国は世界とチャンスを分かち合い、共同発展の陽光の大道を歩む。来年開催する第2回『一帯一路』国際協力サミットフォーラムに各位を招待する」。さらに、「世界が参加した国際輸入博で、中国が貿易自由化を支持し、世界に市場を積極開放する決心があることを証明した。来年開催する第2回国際輸入博へ各位の参加を歓迎する」と述べました。「一帯一路」や国際輸入博のような国際公共財を世界に提供することが、新時代の改革開放であり、世界における中国の貢献を見る視点になると言えるのではないでしょうか。

 

歴史的選択迫る世界経済

 今回でG20サミットは10周年を迎えました。10年前といえば、米国発リーマンショックの発生で世界経済は大きな打撃を受けました。昨年は一国主義、保護主義の台頭で世界経済への影響が懸念されていました。そんな状況下で開催されたG20サミットでは、2週間前に開催されたAPECサミットで発表できなかった首脳宣言は出されたものの、これまでの首脳宣言に盛り込まれてきた「保護主義と闘う」という文言が明記されませんでした。その背景には開放型世界経済、多国間貿易主義を掲げるG20の精神に挑戦する勢力があるとする識者や報道が少なくありません。習主席は、G20サミットの重要講話で、「世界経済は再び歴史的選択に直面している」と問題提起し、「パートナーシップ(注3)は、G20の最も貴重な財産である」と強調しています。いずれも、G20参加国の総意を代表する直言と言えます。中国は、改革開放40年に多国間貿易体制、対外開放を実践し、世界経済の成長率に対する貢献率(30%余り)で世界最大の貢献をしています。その姿勢は、今や、「一帯一路」や国際輸入博に受け継がれていると言えます。首脳宣言に盛り込まれなかった「保護主義と闘う」の姿勢は、習主席の重要講話で代弁され、支持を得たと言えるのではないでしょうか。

 最後に、今回のG20サミットでの日中首脳会談で習主席は安倍晋三首相に、「日本が来年ホスト国となるG20サミット開催を支援する」と強調しています。多国間貿易体制の支持では日中両国は立場を同じくしています。今年の首脳宣言に「保護主義と闘う」という文言が明記されるのを期待したいものです。

 

 

1:世界最大のネットショッピングデー。毎年1111日(独身の日)に実施。

2:2017年の中国の宅配便取扱個数は400億個余り(世界の45%以上)で4年連続世界一。

3:その意味は重要講話の言葉を借りれば、「同舟共済、勠力同心(一致協力して難関克服」)。

 

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