家に入る時には靴を脱いでください

2018-05-30 14:10:44

林志華文 砂威=イラスト

 「家に入る時には靴を脱いでください」

 主人はそうは言わずに、逆にとても礼儀正しく、「靴を脱ぐ必要はありませんから、どうぞお入りください」と言った。でも、ぴかぴかでゴミ一つ落ちていない床と、玄関に置かれた山のようなスリッパを見ると、靴を脱がないわけにはいかなかった。

 梅さんはすでにかがんで靴を脱いでいた。彼女はスリッパに履き替え、行動で私に見本を示してくれていた。選択の余地はなく、ただ靴を脱ぐしかなかった。

 梅さんが私を連れてこの家に来たのは、私をこの家の娘さんに会わせるためだった。当然、娘さんのほうも私に会う必要があり、それは彼女の両親も同様であった。

 第一印象はとても重要だ。今までの教訓から、あまり背の高くない私は、洋服に気を使った以外にも、靴にもかなり気を配り、来る前に同僚にわざわざヒールの高い革靴を借りていた。靴を脱いで家に入った時、真実の私に戻されてしまっていた。

 女の子が出てきた。梅さんが私に、「これが玲よ」と紹介した。私は身を起こしたが、玲はかすかに首を下げただけで、高ぶらずへつらわず、傍らに座った。玲は化粧っ気もなく、着ている物も適当だったが、そのあっさりした中からも、彼女の優美さは伝わってきた。こんな女の子と付き合えたら、文句はないと思った。でも独りよがりはまかり通らないものだし、玲の熱くも冷たくもないあしらいを見て、今回が最初で最後かも、と思った。

 もう、見栄を張る必要はない。靴を脱いで家に入った時すでに、私の虚勢は取り去られているのだから、いっそのこと本当の自分を見せて、残ったわずかながらの尊厳を守ろうと思った。入ってきた時の内気さはもうすでになく、普段通りの自分に戻り、愉快にぺらぺらと、機嫌よくしゃべった。

 家を出る時、私はあのヒールの高い男物の靴を履いた。玲は慣例行事とばかりに見送りに来て背後に立っていたが、彼女は私の足を見るなり、意味深げに笑った。私はすぐさま耳まで赤くなった。幸いにして夜だったので、玄関の明かりは暗く、玲には見えなかったと思う。部屋にいた時に比べ、私は背が高くなっていたのにもかかわらず、自分が小さくなったように感じた。

 思い掛けないことに、数日後、梅さんが突然電話をよこし、「仕事が終わったら、青少年宮の入り口のところに行って。玲がそこであなたを待っているから」と言った。

 玲を見た時、あの夜とは全く別人のように感じた。顔には薄化粧が施され、素敵なスカートをはき、黒いぽっくり型の靴をはいて、とても優美だった。

 玲がその日に私に言った言葉を、私は今でも思い出す。「本当のあなたと私、故意に着飾ったあなたと私は、まるっきり違うわね。人は時に真実が必要で、時に故意に着飾ることも必要。でも長く一緒にいたいなら、本当の自分をさらけ出したほうがいい」。もしかしたら、人は時に真実をあらわにすることに、ちょっとした勇気が必要なのかもしれない。

 後に、玲は私の妻となった。

 

翻訳にあたって

 中国では実際に血がつながっていなくても、親しい関係にある年上や年下の人に対し、「姐(姉のこと)」や「哥(兄のこと)」「妹」などをつけて呼ぶことが多い。一人っ子政策が長く続いたため、むしろ実際に血がつながっていないケースのほうが多いだろう。ここでも中国語で「梅姐」となっているが、これも実の姉というわけではなく、親戚か、または親しい年上の女性だと思われる。これを「梅姉さん」と訳すと、日本語では血縁関係のある姉のように取られがちなので、「梅さん」と訳した。

 「青少年宮」は少年少女や若者にスポーツや音楽など、さまざまな課外活動を行わせるための施設の総称。少年宮、青少年宮、青少年活動中心、児童活動中心、青年教育基地などの各種の施設がある。   

福井ゆり子

 

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