カメレオン

2018-08-29 16:41:21

商霊印=文 砂威=イラスト

 

 省庁の若年幹部の地方研修制度に基づき、私はA県局に臨時副局長として派遣された。A県に着いた後、A県局の孫局長は私を熱くもてなしてくれた。雑談の中で私の田舎がB県だと知った後、彼は目を見張り、「省庁の李庁長もB県出身だ。何か関係があるわけではないだろう?」と言ったので、私は笑って言った。「県にはたくさん人がいますからね」

 ある日の午前中、孫局長は私を彼の事務室に呼び、熱心に椅子を勧めた後、「ここ数日、ちょっと忙しくてね。あなたの世話が行き届かなくて……。今日から、あなたは正式に正局クラスの生活待遇を受けることができるので、小食堂で食事をしてください」と言った。私はその場で、遠回しに断った。孫局長は怒ったふりをし、「隠さなくてもいい。省にいる同期が私に代わって聞いてくれたのだが、省庁の李庁長には李勇という次男がいるそうじゃないか。君も李勇という名だろ? 遠慮するな、あなたが腹を減らして痩せでもしたら私は李庁長に顔向けできない」「省庁には私と同姓同名の李勇もいます。私はその李勇ではありませんよ!さらに言えば最近私は自炊ができるようになりましたし」「そう……」孫局長は疑うように私をしばらく見てから、顔を赤らめ、「まあそれもいいだろう。若者が苦労するのはいいことだ」と言った。

 週末、私は荷物を整理して、省都へ戻るためにバスターミナルに行こうとしていた。孫局長が庭の池のそばで魚を見ているのを見かけたので、近寄ってあいさつをした。このとき、省庁の高級車が静かに私のそばに停まった。車に乗ってガラスを下げて孫局長にさよならと手をふったとき、彼の顔が驚きで黄色くなっているのが見えた。月曜日に職場に戻ると、孫局長がすぐに笑みを浮かべて寄って来て、親しげに肩を叩くと、「やるじゃないか。私までも騙すなんて。まあ、いい。次回省都に戻るときには、われわれの車に乗っていきたまえ。今後われわれは兄弟だ、遠慮するなよ」と言った。

 どうやら、先週私が省庁の車で省都に戻ったことが、また彼の「ゴールドバッハの予想(※注1)」を刺激したらしい。疑惑を取り除くため、私は辛抱強く彼に解釈をした。「私とあの運転手は将棋友達で、先週、彼が外に出るときにここを通りかかって、ついでに乗っけていってくれたんですが、そのせいで彼は庁の指導者にこっぴどく叱られたそうです」この話を聞くと、孫局長は深々とため息をつき、その後私をどす黒い顔でにらみつけると、「フン、驚かせやがって。今後はみんなの前で上司をからかうんじゃない。よく知らない人が見たら、あんたがどれだけ大物なのかと思うじゃないか」と言った。

 1年の研修が終わった後、省庁の李庁長は暇を見てわざわざA県局にやってきて、局の指導者たちと会談した。彼は、「今日私が来たのは二つのことを言いたいためで、一つは皆さんの李勇の1年間の仕事に対する評価、特に辛口の意見を聞きたいためです。そしてもう一つは、妻に代わって皆さんが彼女の次男の面倒を見ていただいたことにお礼を言うためです」と言った。李庁長の話が終わらぬうちから、孫局長は顔をひん曲げて、青ざめていた。

 

(※注1)「ゴールドバッハの予想」とは整数論における素数についての未解決問題の一つ。

 

翻訳にあたって

 「ゴールドバッハの予想」は日本ではあまり知られていないが、ここでは単に推測という意味で使われている。タイトルの「カメレオン」は、中国語では「変色」といい、孫局長が顔色を「赤、黄、黒、緑」とさまざまに変えたことからこのタイトルがつけられたと思われる。中国語の色の表現を日本語にするとき、そのまま使ってしまうと事実に即さない場合もあり、殊に青に関してはそれが顕著だ。中国語では青と表現されるものが実際には緑であることが多く、緑は新緑の明るい緑を主に指し、空の色などの青は藍と呼ばれる。青と緑については、日本語でも青山、青信号などという緑との混同が見られるので、分かりやすいだろう。さらには、青石と書いてあるものの、実際の色は黒と訳した方が近いこともある。(福井ゆり子)

 

 

 

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