母の心

2018-09-29 14:41:47

劉吾福=文 砂威=イラスト

 

 

  良くんは自家用車を買うことにした。 

 良くんが「車を買おうと思っている」と妻の暁梅に言うと、暁梅は、「いくらいるの?」と聞いた。良くんは「13万」と答えた。暁梅は「買えば。どのみちお金はまた稼げばいいんだし」と言った。良くんは喜び、暁梅を物分かりのよい賢い嫁だと思った。

 良くんが車を買おうと思っていることを母親に話すと、母親は「いくらかかるの?」と聞いた。良くんは「13万」と答えた。母親はそんなにたくさんお金が必要だということを知ると、心を痛めて、良くんが車を買うのに反対した。母親は「良よ、今はお金を稼ぐのも楽ではないのだから、節約して暮らさないと。見えを張って浪費してはだめよ」と言った。良くんはこれを聞いて快く思わなかった。ひそかに年寄りはケチだ。金が何よりも重要だと思っていると思った。

 良くんと暁梅は粘り強く、あの手この手でどうにか母親を説得し、とうとう美しい自家用車を手に入れた。

 しかし、ある日、良くんは友達と酒を飲み、うっかり自動車を道端の電柱にぶつけてしまい、車は壊れ、良くんもちょっとケガをして、額をガラスの破片で切ってしまい、血が流れた。 

 良くんは意気消沈して道端にしゃがんで携帯電話を取り出し、車が壊れ、自分もケガをしたことをまず妻の暁梅に伝えようとした。しかし、良くんが「車をぶつけた」と言った途端、暁梅は心配して大声で「車がぶつかってどうなったの? 修理にいくらかかるの? どうしてあなたはそんなに不注意な運転をするのよ。近頃じゃお金を稼ぐのも楽ではないのだから」とがなりたてた。

 良くんはその場でがくぜんとし、どす黒い血が頬を伝わり流れ落ちるに身を任せていた。妻の暁梅がどうしてこんな態度をとるのか、分からなかった。

 この時、良くんの携帯が鳴り、母のしわがれた年老いた声が聞こえた。「良や、ケガはないだろうね」

 良くんは少し迷って、「ケガはないよ」と言った。

 母はそれでも安心せず、震える声でまた「本当にケガはないの?」と聞いた。

 良くんはじんときて、鼻をすすり、落ち着こうと努力して、そして落ち着きはらって「本当だよ、全くケガはないよ」と母親に言った。

 良くんは母がほっと息をつき、「菩薩のご加護のおかげだよ、ケガがなくて本当によかった。車は壊れても修理できるし、ケガさえしていなければ、お金はまた稼げばいい」と言うのを聞いた。

 良くんは、携帯電話に向かって、喉を詰まらせ「母さん……」と一声言うと、涙をさめざめと流した。

 

翻訳にあたって

中国語では親しみを込めた呼称として「阿~」「小~」「老~」などの言葉を名前の上に付ける。これらの呼称を日本語に置き換えようとしても、「~ちゃん」「~くん」「~さん」などとするしか方法がなく、なかなか中国語のようなニュアンスは出ないため、翻訳の中の悩みの種だ。文中の「软磨硬缠,费了好大的劲」は直訳だと、「下手に出て粘ったり、強硬に主張したりして、大きな力を費やして」という意味だが、ここでは簡単に「あの手この手」という言葉を使った。

(福井ゆり子)

 

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