高見=文
鄒源=イラスト
市内で突然停電が発生した。男も女も魂が抜け、心にぽっかりと穴が開いたかのようだった。
男も女も互いを見やって、暗闇の中言葉もなく、苦り切っていた。女は男に「寝ましょう」と言った。男は女に「寝よう」と言った。男と女は面白くなさそうに寝室に向かった。
男も女も眠ることができず、目を見開いて考えを巡らしていた。
毎日この時間には、男はいつもパソコンの前にいて、ネットサーフィンをしていた。女は必ずテレビの前にいて、連続テレビドラマを見ていた。彼らは各自の世界と趣味を持ち、互いに干渉することはなかった。今晩、無情にも停電が全てを奪ってしまい、彼らを早々に冷たいベッドの上へと押しやったのだ。
こん畜生の電気め。男も女も心の中でののしった。彼らは眠れず、眠れない彼らはボソボソと言葉を交わした。「電気の役割は大きすぎるよ。電気がなくちゃ、本も読めなければ何も書けないし、ネットだって見れない」と、男は言った。「そうよね!電気がなくちゃ冷蔵庫だって、炊飯器だって使えないし、テレビだって見れないもの」と、女は言った。男と女は各々の関心事に重ねて感慨を述べた。
夜が更け、彼らはやはり眠れず、まるで何かを待っているかのようだった。
男はまた何か考えている様子で、「ああ、以前は何もなかったな。ただ仕事をして眠るだけで、どうやって耐えていたのか、分からないよ」「どうにかやってきたじゃない。子どもだってこんなに大きくなったんだし」女が答えた。
そうだ、そうだ。子どものことを思い出して、男も女も同じような感慨にふけった。彼らは今までの歳月を思い出した。思い出すのもつらく、また幸せな思い出でもあった。男と女は興奮して座り直し、あれやこれやと楽しそうにしゃべり始め、電気がないという不愉快と悩みを忘れてしまったかのようだった。
男は夜の光の中で妻を見て、突然感じた。「妻とこのように世間話をしたのは、はるか昔だったような気がする」
男の勤めていた会社は業績が振るわず、早期退職をしていた。男は気落ちしており、人生がむなしいものだと感じていた。男は文学を好み、家に戻った男は何かを書いて、人生の欠落感を補おうと誓いを立てた。男はパソコンを買った。パソコンを買うと心のよりどころを得たような気がして、ずいぶん若返ったように感じた。
女は逆に自分が老けたように感じた。男が毎日パソコンにくぎ付けで、早朝から深夜まで机にすがりつき、昼夜を問わず書き続け、まるで毎日1冊本を書き上げているみたいな勢いであった。女は男のことを理解していたが、男が自分の存在を無視することについては理解できなかった。
女は男を大切に思っていた。リンゴの皮をむいた。
男はスクリーンをにらみながら、「そこに置いておいてくれ」と言った。
女はジュースを持ってきた。
男はキーボードをたたきながら、「そこに置いておいてくれ」と言った。
女は突然、後ろから男を抱きしめた。
男は考えもせず、「そこに置いておいてくれ」と言い、突然少し変に感じて、さらに「ふざけないでくれよ」と言った。
女は怒った。女は退屈していた。退屈な女はすぐ寝室にテレビを見に戻った。女は韓国ドラマを見るのが好きで、次第に韓国ドラマファンになっていた。彼女はドラマの中に満ちている温かな家庭の雰囲気が好きだった。
夜はどんどん更けてゆく。男と女はやはり眠りたくなかったし、眠くもなかった。そこで彼らはしゃべり、恋愛から結婚するまで、子どもが生まれてから成長するまでのことをしゃべった。彼らはロマンチックな追憶にひたっていた。この停電はまるで彼らのために、気を利かせてセッティングされたもののようだった。
男は女の手をとり、手の中でさすって、女は寄り添い、男の胸の上にもたれかかった。
女は言った。「停電って素晴らしいわね」
男は言った。「夜って美しいな」
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