ハイテク人材が率いる新機軸 ITに続いてバイオ医薬品や新材料へ

2018-03-02 16:24:52

文=陳言 

 中国で30年近く勤務した旧友が、一昨年、東京に帰任した。今年の年賀状で、彼は特にアリババ、テンセントなどの情報技術(IT)企業が中国で勃興していることと、電気自動車(EV)のすさまじい発展ぶりについて書いていた。ITとEVの現状を東京と比べて、彼は中国の巨大な変化をますます強く感じているのだろう。

 30年は隔世の感を抱かせるのに十分な時間であろう。30年前、日本の総人口は中国のわずか10分の1だったが、大学生、留学生の総数は中国よりもはるかに多かった。30年余りの努力を経て、中国の大学進学率は、依然として日本と比べるべくもないが増加し続けている。軽視できないのは、過去30年を比べるまでもなく、2000年と15年の国勢調査のデータを見ても、大卒相当の学歴を持つ国民は4571万人から1億7093万人に増えており、15年間で4倍強に増えていることだ。

 これほど大規模な大卒人口が、10年以後の中国に科学技術革新の巨大な変化をもたらした。科学技術人口の増加と国民所得の向上は、国内に膨大で、しかも絶えず拡大し続ける市場を生み、両者の結合によって、各種の新型企業―アリババ、テンセントなどのIT企業、大疆などの科学技術企業、EV企業などが自然に中国で頭角を現すのは、もとより理にかなっている。

 

論文数と特許件数が増える

 多くの日本の文献、報道を見ると、長期にわたった「一人っ子政策」によって、中国の少子高齢化問題は数年後には、もしかしたら今日の日本よりもっと深刻化する、と予想されている。これは確かに現実的な問題であり、中国政府の迅速な対応が求められる。

 ただ、この予測には異論がある。それでは「人口ボーナス」が消失した後、中国の「科学技術人口ボーナス」はいかなる役割を果たすのか?中国には技術的進歩の余地が十分ではないというのだろうか?特に日本などの西側諸国と比べて、中国の社会体制は異なり、西側諸国の体制と異なる国の中で、科学技術革新の面では、過去に西側諸国を追い越した先例はないが、中国が現在のような革新速度を維持し、今後数年あるいは数十年かければ、西側諸国に全面的に追い付き、追い越すことが可能であろうか?こうした問題意識を持つ研究は、日本の文献にまだ多いとはいえない。「科学技術人口ボーナス」を分析することによって、これらの問題に対する回答の参考資料を提供できるかもしれない。

 中国は日本の総人口よりも多い大卒人口を持ち、日本の数十倍の海外留学生を送り出している。これらの膨大な高等教育のバックグラウンドを持つ層が、中国の基礎科学の研究基盤を形成している。米国「サイエンスサイテーションインデックス(SCI)」の論文収録数を見ると、0209年に、SCIに収録された中国人の論文数は世界第6位から第2位に上がり、その後、一貫してその水準を維持している。今後10年足らずで、中国はSCI収録論文数で、米国をしのぎ世界一になるとみている中国の専門家もいる。

 技術革新の測定で最もよく利用されるのは特許件数で、ある国の全ての発明、創造を完全に表すことはできないが、新製品を絶えず作り出せるかどうかの指標の一つにはなる。各国特許当局が許可した特許件数の統計によると、中国は13年にすでに世界第1位にランクされ、今なおこの地位を保っている。

 中国政府が提起した「大衆創業、万衆創新(革新)」の「双創」政策は、「科学技術人口ボーナス」の発揮を求める社会需要に合致している、というべきだろう。

 

研究開発費は世界第3位に

 中国の「人口ボーナス」がなくなるまで、「科学技術人口ボーナス」を比較的に長い時間続かせることによって、「人口ボーナス」逓減による不利な要素を可能な限り減らすことは可能だろうか?

 これには国家の大学教育、科学研究に対する財政投入を見る必要がある。日本の国内政治を見ると、大学教育無償化問題が現在、国民の関心事になっている。実は、中国では大学を含む教育費の高さが、庶民生活にもたらしている圧力は日本よりはるかに大きい。

 しかし、中国で研究開発に対する国の支出はここ数年かなり増額された。例えば15年に、中国の研究、実験経費の総額は1兆4200億元で、01年の2589億4000万元の4倍強に増加している。為替レート換算で、13年の中国の研究開発費はすでに世界第3位で、米国、日本に続いている。中国の労働力コストが相対的に安く、中国の留学人口が日本を大幅に上回っていることによって、研究成果の面から見て、中国は日本より多く成果を挙げている。筆者はまだこの2年の研究費関連の報告を見つけていないが、中国はすでに日本を上回っていると思われる。今後、中国の民間も研究費支出で米国を上回るだろう。時間はかかるかもしれないが、遠からず国の経済が総体として米国を超えるので、大きい問題ではないだろう。例えば0313年の10年間に、中国は世界の研究開発費増加分の3分の1を占め、米国は5分の1だった。この種の増加は中国経済の規模が絶えず拡大していることに付随するものであり、今後さらに増える余地は大きい。

 

後発優勢と巨大市場の結合

 実際、アリババ、テンセントを見ても、企業取引のプラットホームとしても、チャットのソフトウェアとしても、最初にこれらの技術を開発したのは米国企業だが、これらの技術が中国にもたらされ、現地化改造された後、その発展速度と市場影響力は開発国を上回り、急速に世界の主流技術の一つになり、しかも世界でアリババ、テンセントを超えることは非常に困難な状況になっている。

 中国だけではなく、その昔、海外から転炉技術、連続圧延技術を導入した日本でも、技術導入後、それを発展させ、急速に開発国を上回った。ただ、今日の中国はIT分野で日本の過去の経験を繰り返している。ここで特に注目すべきなのは、技術の後発優勢の役割だろう。この種の後発優勢はひとたび巨大市場と結び付くと、巨大なエネルギーを発揮し、新しい破壊的な革新を促すのだ。

 破壊的な革新の基盤には大量の大卒以上の教育のバックグラウンドを持つ人材、留学経験者が必要であり、また国家経済が右肩上がりでなければならない。今日の中国は関連する条件を十分に備えている。アリババ、テンセントの後には、バイオ医薬品、新材料、EV、航空宇宙などの分野でも、中国は絶えず新陳代謝を促し、新機軸を打ち出していくだろう。

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