中国自動車市場に「異変」 タイムリーなトヨタの技術無償開放

2019-06-17 14:03:25

陳言=文

世界経済などが討論される主要20カ国・地域(G20)首脳会議の大阪開催を前にして、中国自動車市場の動向が関心を集めている。中国自動車市場の変動は、中国の消費の増減をある程度表している。中米貿易摩擦が起きてからの中国自動車市場を分析すると、昨年から販売台数が下降し始め、その傾向は今年も続いていることが分かる。30年近く続いてきた中国市場の自動車消費の大潮流は、今後も持続するのか?中国自動車は成熟期に入ろうとしているのか?中国自動車市場はどのように変化しているのか?日系企業にはどのようなチャンスがあるのか?こうした点が熱く議論されている。

 筆者が見たところ、中国自動車市場の販売台数は昨年下降したが、中国が世界第1位の座を譲ったわけではない。また、中国自動車販売市場で日系自動車のシェアは下降していないばかりか逆に増加し、将来的には大幅増が見込まれている。こうした市場シェア増大の勢いは、中日自動車企業の提携強化によってさらに増していきそうだ。

 

CASEで中国車は最先端 

 自動車業界の「CASE(コネクテッド=接続、オートノマス=自動運転、シェアリング=共有、エレクトリック=電動)」の変化を見れば、中国自動車がすでに世界の最先端を走っていることが良く分かる。

 BATと呼ばれる百度(バイドゥ)、阿里巴巴(アリババ)、騰訊(テンセント)は自動車企業に巨額の投資をしている。バイドゥは威馬汽車(WMモーターズ)、アリババは小鵬汽車(シャオポン・モーターズ)、テンセントは上海蔚来汽車(NIO)に出資し、電気自動車(EV)メーカーの系列化を図っている。バイドゥは2017年に自動運転開発連合の「アポロ計画」を打ち出し、自動運転のプラットフォームを立ち上げた。BATは本来インターネット企業だが、今ではこぞって自動車に投資し、CASEにおけるインターネットの特性が中国で強みを発揮している。

 自動運転でいえば、バイドゥは北京海淀公園に誰でも乗車可能の自動運転エリアを開設し、公道での運転データもかなり蓄積している。中国のシェアリング自転車は成功を収めたとは言えないが、大規模なシェアリングテストはカーシェアリングの今後の参考になった。シェアリング事業において中国ネット企業が強調したがったのは、CASEで実現している支払い、宅配、飲食、ショッピングの面でのコネクテッド(接続)だった。自動車は移動する空間+時間のツールにすぎない。移動空間に対する設計概念で、BATはトヨタや日産などの既存の自動車と概念を大きく異にする。

 

燃料電池関連では初の提携

 あまり注目されなかったが、筆者には気になったトヨタ関連のニュースが二つある。一つは4月22日にトヨタが発表したもので、同社が北京汽車集団傘下の商用車企業に燃料電池の部品を提供するというニュースだ。筆者の記憶では、これはトヨタと中国企業の燃料電池関連の初の提携に違いない。

 二つ目のニュースも4月だ。4月3日の『朝日新聞』は、トヨタが年内にも主に中国市場に向けて、同社のハイブリッド車(HV)関連の特許を無償開放すると報じた。中国ではHVは主流になり得ていないが、その大きな理由は中国自動車企業の関連技術力が不足していたからだ。トヨタがその技術を公開すれば、中国でもHVが次第に一つの流れになるだろう。

 ここでトヨタのプリウスについて言いたいことがある。プリウスは1997年から販売を開始し、2008年までに100万台販売し、17年1月までに世界で1000万台売れた。その売れ行きは、日本で10年余り暮らした筆者も実生活で体感した。しかし残念なことに、現在暮らしている北京ではプリウスはほとんど見掛けない。

 日本国内や世界の主要都市で華々しい販売成績を残しているプリウスが、自動車販売の潜在力に富んだ中国で売れ行きが芳しくないのはなぜだろうか?その大きな理由は、中国の自動車メーカーが使用できる関連技術が非常に少なく、ハイブリッド技術に対する理解力が乏しかったからだ。中国のメーカーはこうした環境保護技術を取得するせっかくのチャンスを失ったばかりか、中国のプリウス生産工場は数年間散々な経営をした後、最終的に撤退せざるを得なかった。

 海外の自動車企業が自らの技術を進んで公開し、中国企業が参入できるようになれば、その技術はさらに発展を遂げ、その後は全自動車企業の知るところとなり、消費者の人気を得るだろう。トヨタが今年、自らのハイブリッド関連技術の公開に踏み切ったことは大きな一歩であることに間違いなく、中国自動車企業もHVを重視するようになるだろう。

 

416日に開幕した上海国際モーターショーに出展したマツダの展示ブース(新華社)

 

3000万台の大台突破へ

 中国自動車市場は昨年に販売台数の下落傾向が現れ、今年も相変わらず不調だが、マクロ的な角度から見て、中国が年間新車販売台数3000万台の大台を突破するのは時間の問題だと思われる。

 2030年の中国の年間新車販売台数が3500万台だと仮定した場合、現在から中国市場で2~3%の成長が必要だが、国内総生産(GDP)の成長率6~6・5%に比べればわずか2分の1~3分の1に過ぎない。これは中国自動車企業が十分に達成し得る数字だ。しかもこの成長率は年間5060万台の増産であり、中国では多いとは言えないが、南アフリカあるいはサウジアラビアの年間販売量に匹敵する。

 15年に発表された世界各国の自動車普及率によると、1000人当たりの自動車保有台数は、米国821台、日本612台に対して、中国はわずか116台だった。その後、中国の新車販売台数は15年の2460万台から18年には2800万台に増加したが、1000人当たりの保有台数は依然として高くない。国民の約3人に2人が保有する日本のレベルに近付けるには、116台を200台に増やせば、全体で3500万台を上回る。

 日系自動車が現在、中国で大いにもてはやされているということは声を大にして言いたい。昨年、トヨタや日産、三菱自動車はいずれも中国での生産、販売共に好調だった。

 中国自動車市場に「異変」が現れている今、日系自動車企業がタイミング良く技術を公開し、中国企業との提携に着手したことによって、中国における日系自動車の生産、販売は急成長し、ドイツや米国の自動車企業が達成できない目標を上回ることが可能だろう。

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