「ビッグデータ高地」の貴陽 10年で先進、貴州の将来性

2019-07-09 16:22:47

陳言=文

筆者は2015年から毎年、南西部の貴州省を訪れては、省都・貴陽をはじめ、省内の都市も取材している。その際に比較的多いテーマは、貴州におけるビッグデータ分野だ。中でもここ数年の変化と、貴州や貴陽に対する関心の高まりに注目している。今年5月、貴陽を訪問した際に、現地の日本人・日本企業関係者と会い、日本人の視点から見て、ここには何かわれわれが気付いていないものがあるか聞いてみた。

 まず、日本と貴州のつながりを示す基本データを見てみよう。同省を管轄する重慶の日本総領事館によると、現地で暮らしている日本人は20人未満、貴州に進出している日本企業の状況は明らかではない。貴州は観光、農業、ビッグデータで知られる省だが、ここで活躍する日本人や日本企業は他省と比べて非常に少ない。貴州の評価や実力にしては、日本での知名度が低すぎるように思える。

 

わずか10年間で巨大な変化

 十数年前、三菱商事の数十人のスタッフが貴州内の地方都市・凱里で、石漠化(山間部の土がどんどん流失して、石だけ残る現象)防止の造林のための植樹事業を行った。筆者も同行し取材した。当時は貴陽まで飛行機で行き、そこからバスに乗り換えて凱里に向かった。取材を終えた後、同社の友人から、北京に戻る前に貴陽に1、2泊し市内を回って見てはどうかと勧められた。だが、筆者は貴陽にそれほどの価値があるとは思えなかった。

 当時、確かに貴陽に新たな都市計画があるとは聞いていた。しかし、そのころの中国の新都市計画と言えば、新たな住宅や新たな産業施設の建設であり、地方色豊かな都市の建設はあり得なかった。貴州は少数民族が特に多く、各民族の民族衣装にはそれぞれ特色があったので、貴陽の新都市もせいぜい住民の服装が他と違う程度だろうと高をくくっていた。だから、植樹が終わったら貴陽に滞在せず北京に戻った。

 あれから十余年、貴陽の都市建設は筆者がこれまで訪れた他都市と比べると、確かに大同小異だ。しかし貴陽のビッグデータ産業はしっかり根を下ろし、表面的には見えないが、貴陽に行ってみなければ分からないこともあった。

 その貴陽で今年5月、中国国際ビッグデータ産業博覧会2019が開かれた。取材の前にここ数年の貴陽の変化を調べてみた。すると15年以降、意外にも貴陽が国際舞台で頭角を現していたことが分かった。例えば、英国のエコノミスト・インテリジェンス・ユニットが発表した「中国新興都市ランキング2015」のレポートでは、なんと貴陽は中国の93の新興都市で第1位に挙げられていた。また米国のマイケル・ミルケン研究所が16年に発表した「中国で経済基盤の優れた都市」指標レポートは、なんと貴陽を全国260都市のトップに位置付けた。上海、天津、北京は、それぞれ2、3、4位だった。18年の「中国ビッグデータ企業ランキング」では、「雲上貴州社」が「スマート行政」「都市ビッグデータエクスチェンジ」の分野でトップの座に輝き、貴陽市も中国スマート都市の先頭に立っていた。

 その他の関連調査からも、貴陽がこの10年間に大変化を遂げたことが分かった。

 

国内外のIT企業が集結

 貴陽に行ったら、多くの情報技術(IT)企業を見て、現代産業のくぼ地だったこの地が、わずか10年という短期間に、いかにしてビッグデータ産業の「高地」となったのか、また具体的にどのような企業が、どのような分野で活躍しているのかを探ってみなければならない。

 貴陽には政府のガバナビリティーを高めるビッグデータ応用国家エンジニアリング実験室、中電科ビッグデータ研究院などがある。また、第5世代移動通信システム(5G)に基づくバイオニック都市総合管理システムは、すでに当地で関連の実験を開始している。さらに交通渋滞がすでに現れ始めている貴陽市では、スマート交通システムの導入によって、車両の効率的な利用や渋滞問題の解消の面で中国の先頭を走っている。

 医療関係で筆者は「朗瑪情報テクノロジー社」を訪問した。ここでは貴陽が打ち出した「貴州インターネット病院」を見ることができ、実際にある薬局や、コミュニティーのクリニック、村の診療所を「貴健康アプリケーション」と貴州政府の公式サイトと結び付け、融合的に提携していることが分かる。中でも、「39健康ネット」の1日当たりのアクセス数はすでに1800万人を超えている。

 このように貴陽に来て、国のIT産業に対する援助や、地方政府との提携を通じて、通信キャリアが政府のガバナンス面で実現した進歩を見ることができた。また、民営企業がビッグデータの開発と応用面で、最新の成果を手に入れていることも理解できた。

 貴陽市のビッグデータ産業の規模は、すでに総額1000億元を上回っている。現在、貴陽市のビッグデータ関連企業は4000社を超え、筆者が訪問した企業の他に、貨車帮(トラック・アライアンス社)や数聯銘品(ビジネス・ビッグデータ社)などローカルのビッグデータ企業がある。さらに富士康科技集団(フォックスコン)やIBM、クアルコム、アップルなど世界トップ500社に入っている企業や、阿里巴巴(アリババ)、騰訊(テンセント)、華為技術(ファーウェイ)、京東商城(JD・COM)など国内ビッグデータ関連企業も相次いで貴陽に進出している。

 現在、貴陽はビッグデータのアップグレード版である「中国データバレー」構想を打ち出している。これは、ビッグデータと実体経済をしっかり融合させることによって、ビッグデータの「汎用性」を深化させ、ビッグデータ産業の発展空間を最適化し、ビッグデータの運用によって暮らしの保障と改善を促進し、ビッグデータおよびインターネットの安全保障を強化するものだ。

 貴陽市ビッグデータ発展管理委員会主任の唐振江氏は「ビッグデータ時代が到来した今、貴陽には千載一遇の先駆け、追い抜きのチャンスが与えられ、貴陽は先進地域と同じスタートラインに立った」と語った。

 

貴陽で開かれた「中国国際ビッグデータ産業博覧会」での、5Gによるパワーショベルの遠隔操作の実演。操縦者は貴陽、工作機は遠く離れたところにある(今年5月、東方IC

 

 

次の10年 チャンスはどこ?

 貴陽が発展すれば、貴州省全体もその方向に発展する。17年、ビッグデータがけん引する同省の電子情報機器製造業の付加価値は前年比で86・3%増加し、電力と並んで工業経済の第2の成長ポイントとなった。昨年6月までに、同省のビッグデータ企業は8900社余りとなった。

 貴陽は中国西南地域のビッグデータ産業の「高地」となったが、今後、どのように発展するだろうか? 筆者は今回、貴陽で海外企業の関係者と意見交換する機会があったが、10年前には貴陽がこれほど発展するとは想像できなかった。今、これから10年先を見通して、10年前と同じように新たな発展空間を考えられないだろうか?

 ビッグデータ産業がいったんある地域で「高地」を作ると、また新たな高地が現れて競争するのは非常に困難である。中国には数カ所の「ビッグデータ高地」があるが、貴陽がその中で最も成功したケースであることは疑いない。

 「高地」ができてから、ビッグデータ関連の各種企業が雨後のタケノコのように成長してきた。貴州のIT企業数が急速に増加したのは、その好例である。

 貴陽の「ビッグデータ高地」は全東南アジアへの今後の展開に向けた地理的な優位性に恵まれている。今後、中国西南地域および東南アジア市場で、貴陽のビッグデータ経済高地を凌駕する地域を見つけるのは極めて困難だろう。また、この地理的な優位性を生かせば、貴陽のビッグデータ経済には洋々たる将来が広がっているだろう。日本企業は、今日の貴陽を見る際に、新たな視点で新たな行動を取るべきだろう。

 

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