高齢化社会に新しい商機 IT技術の優位性で存在感発揮

2019-12-26 16:30:15

陳言=文

今年最後の2カ月間、高齢者介護関連の大規模な展示会が中国各地で開催されている。この期間は本来、中国企業の出展が集中するが、近年変化が現れている。日本電気(NEC)などの日本企業は、高齢者介護の分野で中国でのビジネスチャンスを積極的に模索している。

少子高齢化問題が深刻な日本は、企業がこの分野で努力を積み重ね、豊富な経験を持っている。中国も高齢化社会に入り始めた今、かつて日本で効果を上げた方法が中国で2度目の開花のチャンスを迎えている。中国社会独自の問題によって、新たな解決策を模索する必要があるが、日本企業は過去の経験を生かし、新事業展開への決意をてこに、高齢者介護に新たな商機を見いだしている。

 

日本の人口以上の高齢者数

 筆者が北京で何度か取材したことがあるNEC(中国)の塚本武総裁は、中国における同社の今後の事業展開について話す中で、何度も高齢者介護問題に言及した。

 塚本氏はこう語った。「わが社は世界中で社会ソリューション事業を行う情報通信技術(ICT)企業です。中国では、情報技術(IT)ソリューション、通信ネットワーク事業、ディスプレイ製品ソリューション、研究開発をメインとして業務を続けてきましたが、中国に赴任した私は、ますます深刻化する中国の高齢化に気付きました。30年以上歩んできた日本の高齢化介護社会における経験に基づき、自社のモノのインターネット(IoT)やビッグデータ分析、人工知能(AI)解析の技術を活用すれば、NECは中国の高齢化問題打開に力を発揮できると思います」

 塚本氏は昨年4月に総裁として中国に赴任してから、これまで勤務していたタイやインドネシアと非常に異なり、また日本社会とも違う中国を見つけた。基本的なデータに目を通した塚本氏は、中国が直面する高齢化社会という問題に気付き、高齢者介護の方向に業務のかじを取らなければならないと感じた。データによれば来年、中国の60歳以上の高齢者人口は日本の総人口を上回る1億7000万に達する。しかもこの数字は増え続け、2050年には3億7000万人に達する可能性があり、高齢者だけで日本の人口の3倍以上になる。

 中国の高齢者関連市場から、塚本氏は昨年にその市場規模を4兆円と推定し、5年後の23年には6兆8000億円に達すると見込んだ。全体的に見ても、中国市場における高齢者介護は潜在力に満ちた新分野だと感じた。

 この新市場を見据え、業績を伸ばそうと考えた塚本氏は、中国におけるNECのソリューション研究開発や商品展開を高齢者介護の分野で行うことを決めた。

 

鍵はハードからソフトへ

 1990年代の日本の家電、および今世紀に入ってからの日本の自動車は、品質やブランドなどの面で中国の消費者に強い印象を与えた。日本企業は製鉄工場、化学工場、港湾・空港の建設など中国の重要な国家プロジェクトでも抜群の技術力を発揮したが、中国の一般消費者の心に深く刻まれたのは、家電と自動車だった。その二つが過去のものになってから、日本企業が中国の消費者に提供できる目玉商品は何か?ここ数年、大部分の企業は模索の段階にある。

 高齢者介護は日本企業が現在、特に注目している分野だ。日立(中国)は大手IT企業の騰訊(テンセント)と協力する方法を取り、高齢者介護事業に参入している。またパナソニック(中国)は介護商品の販売強化や、地方都市と共同でスマートコミュニティーを建設する方式を通じ、中国の高齢者介護市場に参入している。一方、NECは自社のICT分野での優位性を生かして、業者、コミュニティー、家庭という中国における三つの高齢者介護モデルを網羅する開放型総合プラットフォームを構築し、IoTやAI技術を活用して、施設や医療機関などと連携してスマート化・差別化した高齢者介護サービスを打ち立てる上で新たな道を切り開いた。

 

全く新しい企業像目指す

 NECは自社が構築した開放型総合高齢者介護プラットフォームで、さまざまなソリューションやスマートデバイスを提供している。

 NECは日本で20年近い高齢者介護分野での経験を持ち、中国の基準を踏まえた高齢者向け能力評価システムを開発した。長年蓄積された評価データによって、高齢者グループの運動能力の変化を動的かつ大きく反映することができる。このデータは高齢者介護サービスが成長する方向を決める客観的な根拠となり、高齢者介護分野で各レベルの地方政府が政策を制定する際の焦点となり、資源を最大限効果的に活用できる。

 この他、NECの運動能力測定システムは日本の先端技術を使い、3Dセンサーで歩行姿勢のデータを収集し、AIによるビッグデータ分析を行うことで、歩行者の年齢をリアルタイムで照合し、歩行時の姿勢、体のバランス、左右のぶれなどを視覚的に判断する。測定方法は簡単で、センサーに向かって6㍍歩くだけで、各データがすぐに分かる。データはリハビリテーション科の医師が患者の症状や回復状況を正確に把握する際に役立つ。また、患者がリハビリ後の改善結果を数値で実感することもできる。

 「プラットフォームや関連製品の開発と改善を行い、プラットフォームに個人、コミュニティー、老人ホームなどの情報を集めて、完璧なものにすることで、中国の特色により合った全く新しいソリューションを中国の高齢者介護事業に提供することができます」と塚本氏。

 NECは中国で新たな業務分野を開拓している最中であり、すでに山東省済南市で関連業務を試験的に展開している。ここで経験を重ねた後、北京などの大都市に進出する方針だ。

 家電、自動車に次いで、日本企業は高齢者介護の分野で新しい企業像を打ち出そうとしている。

 

NEC本社が東京で開催したC&Cユーザーフォーラム&iEXPO2019で来場者を迎える塚本氏(写真提供・NEC

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