「ブラックスワン」に備えよ 早急に新たな協力の場の構築を

2020-04-24 18:19:16

陳言=文

 4年前の2016年、国際社会では、英国の欧州連合(EU)離脱、米国大統領選でのトランプ氏勝利、イタリアでの憲法改正案の国民投票否決、という三大「ブラックスワン事件」が起きた。その後、英国のEU離脱までの混乱ぶり、トランプ大統領の奇異な政策は、「不確実性」としてここ数年の国際社会を特徴付けている。実際には、「不確実性」という言葉では軽過ぎで、「ブラックスワン」という言葉の方がよりしっくりするだろう。

 今年早々、湖北省の武漢に新型コロナウイルスによる肺炎という「ブラックスワン」が飛来した。3月4日現在で、その爪痕は世界50カ国余りに広がり、しかも感染拡大に歯止めは掛かっていない。

 東アジアは、世界の経済で極めて重要な位置を占め、人口が最も密集している地域でもある。この地域にブラックスワンに備えた新たなプラットフォームが構築されれば、世界はもっと安心し、安定するに違いない。

 

東アジアでは感染症と災害

 かつての主なブラックスワン事件について言えば、01年の米国「9・11」同時多発テロ事件、09年の欧州債務危機と、前述した16年の三大国際政治事件が思い浮かぶだろう。欧州や米国でも巨大な自然災害が起きたが、概して欧米に飛来するブラックスワンはかなり政治、経済事件に偏っている。

 一方、東アジアでは特殊な状況がしばしば現れる。今年1月、情報がスムーズに流れなかったことによって、新型肺炎は武漢から感染拡大した。3月4日現在で、中国で新型肺炎の感染と診断された患者は8万303人。死者2948人に達した。

 17年前の03年に発生した重症急性呼吸器症候群(SARS)は、北京や広東など一部地域だけで猛威を振るったが、今回は全国の全ての省・自治区・直轄市に感染が拡大している。さらに人の流動、物流にも減速と停滞をもたらしている。その影響で、今年第1四半期の国民経済は急速に下落した。製造業の2月の購買担当者景気指数(PMI)は前月比で14・3㌽下落の35・7%に落ち込み、この数値は市場予測の42%から大幅に低下した。

 新型コロナウイルスの人から人への感染確認が発表される前の1月20日時点では、この新型肺炎の感染拡大が経済や社会にこれほど大きな影響を与えるとは、恐らく武漢市政府も調査に入った国家衛生健康委員会の専門家も誰一人として予測できなかっただろう。

 東アジアで韓国の状況はかなり特殊であり、また日本の新型肺炎の感染拡大も懸念されている。日本の問題はクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」だけにとどまらない。厚生労働省が先月1日に発表したデータによると、クルーズ船の乗員・乗客で入院したのは706人。一方、国内感染者は239人、死者5人となっている。また日本政府は2月27日、全国の小中高校の一時休校を要請した。3月以降も、さまざまな状況を見ると、日本は決して油断できない。

 現在、欧米各国での新型コロナウイルスの感染拡大が懸念されているが、やはり最大の感染地区は東アジアだ。新型肺炎の感染拡大は今年の東アジア最大のブラックスワン事件だろう。

 

学ぶべき日本の災害対策

 東アジア各国にとっては、ブラックスワンは自然災害の形でやって来るので、油断できない。

 北京五輪を前にした08年5月12日、マグニチュード8の四川・汶川大地震が発生した。11年3月11日にはマグニチュード8・9の東日本大震災が起き、同時に東京電力福島第一原子力発電所で事故が発生した。

 筆者は日本に取材に行くたびに、週刊誌がしょっちゅう大地震予測の記事を掲載しているのを見て、日本が自然災害の防災・減災に多大な努力を払っていることを感じている。火山の爆発や台風の襲来、火災など、日本は日常的に多くの災害対策を蓄積し、それは中国など各国の手本になっている。

 疾病予防の面で、冬から春にかけて決まってやって来るインフルエンザや花粉症に対して、日本はまだ完全な防止には至っていない。だが、その対策のノウハウは他国にとって大いに学ぶべきところがある。

 新型コロナウイルスは非常に手ごわい相手だ。まだ初期段階の研究だが、その防御に国民的な力をどのように動員すべきか、中国は中国なりの答えを出した。武漢市は1月22日、都市の封鎖を宣言。その1カ月後に感染状況は改善され、中国の他の都市では新たな感染者が減り続けている。3月に入ると、武漢以外の大部分の都市で新たな感染診断は大幅に減少し、見つかっても1桁台にとどまっている。中国は自らの力で勝利の戦果を挙げた。

 そのやり方とは――全国から優秀な医療関係の人材を武漢に集め、短期間に病院を建設して医療サービスを提供し、市内全域を繰り返し巡回し、一人の感染者も残さず収容した。こうした方法は、新型肺炎の拡大予防・抑制に効果があり、他国の手本となった。

 先月初めから実施された日本の学校休校、それに伴うテレワーク(在宅勤務など)といった日本式の自宅隔離がどのような役割を果たすのか、今後注目されるだろう。

 

経済基礎に新たな協力の場を

 筆者はこれまでも本欄で紹介してきたが、医療と感染症の予防に関する合同プラットフォームの構築について改めて強調しておきたい。

 将来構築される中日提携のプラットフォームは、これまでの中日経済交流の、日本から技術・資本を導入し、中国で生産を拡大し、中国に巨大市場を建設――を基礎に、さらに具体化を推進すべきだ。

 工業汚染による環境破壊はもちろん、今回の新型コロナウイルス禍、さらに今後起こり得る自然災害は、ますます周辺の国・地域に拡大する傾向が強まる。もはや一国だけの損害にとどまらず、また一国だけでそうしたリスクは回避できない。しかも、他国が局面をコントロールできない場合、そのリスクが自国に逆流し、二次災害あるいは三次災害を引き起こす。ブラックスワン事件の長期化・広域化は各国に統一的な対応システムの構築を迫っている。

 中日両国の将来の関係構築は、新たに構築するプラットフォームに新味があるか否か、スピードが十分か否か、新たな役割を発揮できるか否かが重要な鍵となっている。ブラックスワン事件に対抗するために、中日両国は共にこうしたプラットフォームの早期実現を待ちわびている。

 

東京オリンピック・パラリンピックのマークが掲げられた都内ではマスク姿の人々が目立つ。新型肺炎による感染に立ち向かうには、中日両国が提携して解決しなければならない課題がたくさんある(新華社)

関連文章