デジタル経済 力強く離陸中 「美団」が象徴 日本企業も好機

2020-10-21 15:48:48

陳言=文

9月の初め、上海訪問中にマクドナルドで朝食を食べた時、意外なことに、上海語と違って意味の分かる方言が耳に入ってきた。

本誌の読者ならご存じだろうが、筆者も含め多くの中国人は、上海の地元民が話す上海語は全く分からない。そんな言葉のけん騒の中、やっと座る場所を見つけてハンバーガーにかぶりついた。その時だった。すぐそばのデリバリーのカウンターから、何人もの中年男性が配達用の商品を受け取り、電動バイクに飛び乗って街の人ごみの中に消えていった。彼らが話している言葉は筆者が大学時代に暮らした地方のなまりに近く、大方分かったのだ。

上海の友人に聞くと、出前の商品を配達しているのは、ほとんど地元の人ではなく、上海周辺の省から来ている出稼ぎの人々だそうだ。彼らは上海語を全く話せず、江蘇方言や浙江方言を話すので、この地方に住んだことがある私が少し理解できたのも不思議ではない。

 

399万人の美団配達員

中国最大の口コミサイトで、電子商取引(eコマース)プラットフォームを運営する「美団点評」。その傘下に、中国最大手のフードデリバリーなどのサービスを行う「美団」がある。昨年、美団から収入を得た配達員は399万人に達し、前年同期比23・3%増だった。上海の状況からみると、上海が吸収しているのは、主に外来の流動人口であり、その中には多数の失業者が含まれているはずだ。

今年1月、新型コロナウイルスによる感染症が拡大して以来、中国の主要な感染エリアの湖北省武漢市とその周辺都市のほか、中国各地で外出に大きな変化が現れた。筆者のような60歳を過ぎたシニアでも、スマホにアプリをダウンロードし、美団を通じて出前を注文するようになった。

北京でよく使われるシェア自転車は、今では美団の自転車が、これまで利用者の多かったモバイク(摩拜)に取って代わっている。外地では、すでに美団のシェア自転車だけでなくシェア電動バイクもある。新しい乗り物を試してみたいと気持ちが沸き起こってくるが、足が言うことを聞かず、いまだに冒険はしていない。

新型コロナ感染症は、美団のような情報技術(IT )プラットフォーム企業を新顔として際立たせた。終日街を走り回っていた美団の自転車は、さらに街の隅々、団地中にまで入り込むようになった。

美団デリバリーの背景にあるのは、マクドナルドのような大型チェーン店だけでなく、多くが開店したばかりで客も少ない小さな食堂だ。美団のビッグデータによると、従業員5人以下の食堂が料理宅配サービス業界に占める割合は89・4%。また、こうした食堂で年間売上高50万元(約800万円)以下が88・7%を占める。これは中国の小型・分散型業態の一つに数えられ、その中で従来の夫婦二人が切り盛りする家庭的な食堂が大多数を占めている。こうした店は、いつも同じメニューだが、味がよく値段も手頃で、客の入りの心配は無用だ。また店は狭く、客が座る場所もないほどだが、多少遠くからも住民たちがやって来るほど人気だ。

美団のようなIT企業がもたらした大きな雇用需要は、さらに数知れない零細店舗の市場参入をもたらし、中国のサービス業を向上させた。「どれだけ売れたか?」「好評かどうか?」という新たな評価システムが、食堂の優勝劣敗を進め、独り占めや店を大きくして客をだましたり、法外な値段をふっかけるのは、今の中国ではすでに不可能だ。

開店したばかりの食堂だけではデジタル化を展開するのは難しいが、美団のようなIT企業は、あらゆる店舗のデジタル化を支援し始め、中国のデジタル化経済に新たな風を吹き込んでいる。美団の外にも、料理を配達する「蜂鳥」、宅配サービスの「順豊」、販売と宅配を結び付けた「京東商城」(JDドットコム)などがある。中国新IT企業は、最大手のバイドゥ(百度)、アリババ(阿里巴巴)、テンセント(騰訊)のBATとは比べられないが、さらに多くの企業がイノベーション手段において独特のスタイル、抜群の特性を発揮し始めている。

 

昨年より好調のユニクロ

デジタル経済は中国で巨大な発展の余地を持ち、今年の感染症のまん延は中国におけるデジタル経済の発展を促進した。さらにこの発展は中国経済の大勢で、この優位性を利用すれば、日本企業も同じように巨大な利益を獲得できる前途が広がっている。

日本と同じように、中国の商戦は一年の下半期に集中している。10月には国慶節の大型連休があり、11月には中国独特の「双11」(独身の日)があり、12月には年末商戦があり、eコマースの大部分がこの時期に集中する。「天猫」(Tモール)、京東などのオンライン販売の業績は、オフラインの直接販売に匹敵する。

昨年のユニクロの状況を見てみよう。同社の中国での売上高は2019年8月期で5025億円で、前年同期比で14・3%増、営業利益は890億円、同20・8%増だった。今年は中国のデジタル経済がさらに発展した年だったが、中国の観光客が新型コロナの影響で日本に買い物に行けない年でもあった。だが、今年のユニクロの売上高、営業利益ともに昨年よりも好調だ。

日本でTモールが知られていなかった頃の2009年、ユニクロはTモールに出店した。創業者の柳井正氏は自ら関連イベントに出席し、中国eコマースに対する非凡な見識を示した。

こうした見識があったからこそ、ユニクロはその後10年余り、中国で力強い発展を成し遂げた。しかも中国ではデジタル経済が大きな流れとなり、その勢いを借りて発展を確実なものとした。感染症のまん延で一時的に中日間の人的往来が中断しているが、物品貿易の需要はこれまで以上に旺盛で、中国でデジタル経済はさらに急速に発展しており、成長スピードが鈍化する傾向は現れないだろう。

 

デジタル経済のテークオフ

美団などの発展ぶりを見ると、筆者は、ここ数年の中国のデジタル経済は、滑走を始める時エンジンを全開にして猛烈なスピードで疾走する飛行機のテークオフのようだと感じている。今年の感染症のまん延は、テークオフで操縦かんを引くのに似て、さまざまな条件が中国のデジタル経済を離陸段階に向かわせている。

今後の上昇過程では、これまで通りエンジンをコントロールし、さまざまなリスクに対応しなければならない。国際的には、中国のIT企業に対する圧力が、「TikTok」や微信(ウィーチャット)に対してだけでなく、真正面から吹き付けてくるので、十分な注意と適切な対応策が必要だ。そうして初めて、デジタル経済というこの飛行機は安定飛行の段階に入る。

北京で開催された2020年中国国際サービス貿易交易会(9月4~9日)で、習近平国家主席はあいさつの中で次のように述べた。「今回のパンデミックの間に、リモート医療、オンライン教育、シェアプラットフォーム、コラボラティブオフィス、クロスボーダーeコマースなどサービスの広範な応用が各国経済の安定化を促進し、国際的な防疫協力の面で重要な役割を果たした」

中国のデジタル経済が発展中だということ以外にも、実は世界のデジタル経済も国際空港の飛行機のように前後して離陸していることは、世界経済が新たな段階に入ったことを示している。

 

店員(左)とデリバリーの注文書をチェックする美団の配達員(新華社)

  
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