「開放」北上 注目の北京 日本企業は深圳・上海に続く商機

2020-12-04 16:51:28

陳言=文

筆者が初めて深圳を訪れたのは1984年のことだった。当時の深圳は、漁村から小規模な市へと変貌を遂げて数年の頃だった。同市の案内役は、青々とした水田を見渡しながら、半年後にはここにカラーテレビ製造工場が建設されると説明した。大阪弁を話す日本の技術スタッフは、満足げにこの土地を眺めていた。後に、三洋テレビのコマーシャルソングが中国の津々浦々に流れ、筆者自身も80年代後半にはカラーテレビを購入して楽しめるようになった。

90年代初め、筆者は日本企業の上海訪問代表団に同行取材した。当時、黄浦江を渡って浦東地区に行くのは容易ではなかった。また浦東は浦西の繁栄とは比べようもなく、80年代初頭の深圳よりも多少豊かな程度で、現在のような陸家嘴金融センターが出現するなど想像できなかった。

中国の開放は深圳の電子部品から始まり、その波が浦東に及んだ時には金融サービスのブレークスルーが始まっていた。今日、開放の北上は続き、北京もその列に加わり、さらにサービス貿易、デジタル経済を中心として、開放の内容はますます豊富になっている。

 

北京にも自由貿易試験区

2020年中国国際サービス貿易交易会(CIFTIS)が9月4~9日、北京で開催された。日本メディアの報道は多いとは言えなかった。

筆者が特に注目したのは、中国の改革開放40年余りの歴史の中で、政治の中心として経済実験の性格を帯びた活動には一度も参加していなかった北京が、今年はCIFTISで自由貿易試験区を設立する、と宣言したことだ。

これは中国経済の方向を調整するシグナルだ。

その位置付けから見て、北京のCIFTISと上海の「中国国際輸入博覧会」、広州の「中国輸出入商品交易会」は新時代の開放三大展示会プラットフォームを構成している。

この他、CIFTISがデジタル経済に対して、戦略的に重視する姿勢を明確にしたことは、中国の将来的な経済の行く末に計り知れない影響を与えるだろう。特に新型コロナウイルスが生産、流通システムに与えた最大の障害は、有形物品の越境貿易には感染症伝染のリスクが伴う、ということだ。人類は、新型コロナウイルスとの長期的な共存という事実に適応せざるを得ないだろう。サービス貿易の「デジタル化」は新たな突破を実現するためだ。

 

25年赤字のサービス貿易

データから明らかなように、世界のサービス貿易の半分以上はすでにデジタル化を実現している。しかし、中国の昨年のデジタル貿易輸出入の規模は2036億㌦で、全国サービス貿易輸出入総額のわずか26%にすぎない。

かつて、「世界の工場」として中国の物品貿易はかなり成功し、長期間にわたって黒字を維持し貴重な外貨を稼いできた。しかし、サービス貿易の分野で中国の状況は思わしくなく、1995年から25年赤字が続いている。世界的な強国になるためには、サービス貿易において1、2に数えられる競争力が必要だ。

欧米や日本はさておき、インドの状況だけ分析する。インドは、サービスのアウトソーシングやソフトウェアデザイン、情報技術(IT)サービス、ムンバイを中心とする映画産業などのサービス貿易分野で、かなり強固な実力を持っている。インドの2019~20会計年度のサービス輸出額は2141億㌦、同輸入額は1314億㌦で827億㌦の黒字になっている。

一方、中国の国内総生産(GDP)はインドの5倍だが、昨年のサービス輸出総額は2420億㌦でインドとほぼ同水準だった。しかも同年の中国のサービス輸入総額は5014億㌦で、赤字は2594億㌦に達した。中国とインドの格差はかなり大きい。

幸いなことに、北京の第3次産業は中国国内では発達している方だ。昨年の北京、上海、広州、深圳4大都市の第3次産業の付加価値が各都市の域内総生産に占める割合は、それぞれ83・5%、72・7%、71・62%、60・9%。杭州は「中国インターネットの都」「全国デジタル経済第1都市」と称しているが、北京に比べると、その差は大きい――昨年の杭州のデジタル経済の付加価値は3795億元で同市の域内総生産に占める割合は24・7%。一方、北京の同数値はとうに1兆元を上回り、同割合も50%を上回り、全国首位だ。

北京には中国4大商業銀行(本店)があり、百度(バイドゥ)や京東(JD.com)などのネット関係の大手もあり、映画業界では製作・配給会社の中国電影集団(中影)、華誼兄弟メディア(華誼)の両巨頭がある。また北京にはソフトウェアや情報サービス業、クラウドコンピューティング、ビッグデータ、人工知能(AI)、ブロックチェーン、サイバーセキュリティー、カルチャーエンターテインメント、クリエーティブデザインなどのサービス業があり、非常に分厚い蓄積を擁し、中国で超一流のリソースが集中している。

 

中国国際サービス貿易交易会にお目見えしたロボットは、人間そっくりの動作もお手のものだ(新華社)

 

待たれる中日デジタル提携

  筆者が80年代の深圳を取材した時も、90年代に上海・浦東を参観した際も、日本企業は最も早く集中的にこれらの開発区に投資し、工場を建設した。「華強三洋(東莞華強三洋電子有限公司)」の名称は、多くの中国人の心に強烈な記憶として残っている。今日の上海で、上海日本商工クラブに加盟している日本企業だけで2500社余りに上り、北京の同クラブの加盟数700社をはるかに上回っている。日本企業の対中投資は、上海を中心にその周辺に放射状に広がり、華東地域の経済において重要な役割の一部を担っている。

中国の開放は北上を続け、北京が最新の自由貿易試験区になり、またデジタル経済を志向し、経済発展のモデルに新たな変化があれば、貿易・サービス・デジタルを得意とする日本企業には、中国で新たな役割を発揮できる巨大な商機が待っている。日本企業は、AI・IoT(モノのインターネット)・ロボットなどで多くの技術を持っており、中日企業の関連する分野での協力も将来性は十分だ。

9月に発表された『北京市の新たなサービス業開放拡大総合試行の深化と、国家サービス業開放拡大総合モデル区の建設に関する業務プラン』を読むと、北京のサービス業の対外開放は、銀行・保険・ファンド・債券・先物取引・信用格付け・法律・仲裁・教育など広範な分野に及ぶ。突破口的な性格の施策も多数見られ、多くの業界関係者が驚いている。

日本企業は、80年代初めに深圳に注目し、90年代には上海の浦東をターゲットにしたように、さらに磨きをかけた「視線」で今日の北京を扱うべきではないだろうか。 

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