輸入博に集う日本技術 注目は医療設備と低炭素

2021-12-03 17:26:59

陳言=文

立冬の11月7日、北京では雪が舞い、上海では草木がまだ青々と茂っていた。それに前後して、第4回中国国際輸入博覧会(輸入博)が11月5日から10日にかけて上海で開催された。

4日、筆者は北京から上海に到着後、直ちに病院でPCR検査を受けた。そしてスマートフォン(スマホ)の輸入博のアプリから、ワクチン接種証明書と過去14日間の主な行動履歴を提出した。全て「問題なし」のグリーン表示となり、5日朝にはPCR検査も陰性の結果が出たので、輸入博会場には顔認証だけで入れると思っていた。

地下鉄で会場に行こうと思っていた時、スマホが振動した。気にせず駅の安全検査を通り、ホームで電車を待っていた時、何気なくスマホを見ると、輸入博組織委員会からショートメッセージが来ていた。筆者の住所地で新型コロナウイルス感染症患者が発生したので、筆者の輸入博取材資格を取り消す、という通知だった。

事情は理解できる。筆者のPCR検査結果が陰性であり、ワクチンを接種済みでも、新型コロナ患者が発生した居住区から来た以上、会場に入って迷惑をかけるわけにはいかない。幸いなことに筆者の助手は入れたので、会場外から助手に指示して、動画や音声などから企業の出展状況をおおよそ知ることができた。また、メールや会場外でやり取りすることで、会場の外にいても輸入博をウオッチできた。

会場内で取材に当たった助手は絶えず写真を撮影し、取材対象に質問して得た回答を筆者に送った。そうして入手した情報から、筆者は今回の輸入博で日本企業の出展が一層、中国市場の需要に近づき、この輸入博が日本企業の中国市場開拓にとって好ましい基礎を築いた、と強く認識した。

 

輸入博で来場者の注目を集めた日立の展示ブース(写真提供・筆者)

 

医療に対する需要が高まる

日本企業の医療設備関連の技術力や製品は、この輸入博で政府関係者、医療機関、一般人に注目された。

昨年、新型コロナ拡大後、中国は医療面に巨費を投じた。新型コロナが中国市場の医療設備などに対する緊急対応への需要を拡大させたとすれば、中国経済が30年間成長し続け、国民の生活水準が大いに向上したことで、より高度な医療技術や設備が求められるようになったといえよう。

日立製作所は今回の輸入博で世界の主要国における「粒子線がん治療システム」の導入状況、治療を受けた患者6万人の状況を紹介しており、この非常に優れたシステムを中国に推奨したいと考えていることがうかがえた。新型コロナ前は、毎年、中国の多数のがん患者がわざわざ日本に行って治療を受けていた。患者に家族が1人か2人同行するのが一般的で、その渡航費や高い宿泊費から、経済的な条件を満たせる患者は限られていた。中国に同社のこのシステムを導入してほしいという声はますます高まっている。

富士フイルムの経営陣の一人はこう語った。同社は中国政府が提起している「健康中国2030」の目標に基づいて、傘下企業の内視鏡や乳がん検診設備を提供することで、がんの早期診断、早期治療を実現し、がん死亡率減少に寄与できる。助手は同社ブースの写真を大量に送るとともに、同社の企業イメージが従来と比べて大きく変化したと感じ、「医療設備製造を主体にした企業のように見える」と感想を述べた。

中国では医療設備に対する巨大な新需要が生まれているが、輸入博で日本企業の推奨する関連設備はその需要を満足させる重要な保障だ。

 

3060目標を視野

11月6日、輸入博のイベントの一つである商務部投資促進局と広東省仏山市商務局の共催による「中日先進技術ビジネスセミナー」で、筆者はオンライン形式で基調講演を行い、環境保護、低炭素、デジタル化の視点から、モデルチェンジの過程で中日企業に新たな提携の可能性が広がっていることについて述べた。今回の輸入博で、中日双方は二酸化炭素排出量ピークアウトとカーボンニュートラルの面で目標が一致し、協力の幅が広がったと感じた。

AGCグループ中国総代表の上田敏裕氏は今回の輸入博出展製品を以下の3種類に分けた。①半導体②3060目標(2030年までに二酸化炭素排出量をピークアウトさせ、60年までにカーボンニュートラルを実現するという中国の目標)③SDGs(持続可能な開発目標)を念頭に置いたもの。上田氏は、「われわれは多数のカーボンニュートラル関連の製品を造っています。例えば、超プレーンガラスは太陽光の透過率が非常に高く、太陽光発電に欠かせない製品です。わが社のIEM(イオン交換膜)は供給が需要に追い付いていません。水の電解や多くの製品の製造過程でイオン交換膜が必要になりますから」と語った。カーボンニュートラル関連では、AGC製品は巨大な開拓の余地を有し、輸入博でも同社はこれらの製品PRに力を入れていた。

東芝は輸入博でSCiB™リチウム電池システムや純水素燃料電池システムをPRした。風力・太陽光発電のバッテリーに対する需要は巨大で、中国企業はバッテリー製品および関連する研究開発の動向を非常に重視している。

3060目標は中日企業の目を新市場や提携における新分野に向けさせ、その中には共同開発を新たな段階に押し上げる可能性もある。

 

日本の工芸品や芸術品展示

今回の輸入博では日本の工芸品、芸術品も展示された。

日中科学技術文化センターは「匠の技」の展示ブースを設け、日本の工芸職人十数人の作品を展示した。陶芸家・土渕善亜貴氏の作品は、来場した多くの中国人陶芸家を釘付けにした。中国で数百年前から使用されている窯変の焼き方は日本で独自に進化し、新たな発見を遂げているようだ。

日本企業は輸入博に積極的に参加することで、中国市場の需要を捉え、それに応えられる製品をアピールすることができた。今年の輸入博への出展製品は、ますます中国市場の実情を把握し、その展示内容も拡大していた。前出の上田氏は次のように語った。「輸入博によって、われわれは中国企業や消費者に製品を展示するだけでなく、中国市場の需要を理解し、さらに中国メディアとの関係を深め、企業イメージを印象付けることができます」

回数を重ねるごとに、輸入博はますます多くの効果を発揮し、中国と世界との距離を縮めている。

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