未来のために学生が志願 疑似月面基地で自給自足

2019-07-23 13:50:50

 

室内の状況をチェックする室外作業員

2018年59日、北京航空航天大学(以下、北航大学)の4人の学生ボランティアが完全閉鎖式生物再生生命維持システム実験ルーム「月宮1号」から出てくれば、1年間にわたる「月宮365」プロジェクトを完了する。

生物再生生命維持技術は現在の世界で最先端のクローズドループサイクル生命維持技術であり、将来の有人宇宙探査に必要な十大キーテクノロジーの一つだ。米国、ロシアなどが設計した閉鎖式システムと比べ、北航大学の劉紅教授のチームが設計した「月宮1号」は構造がより複雑であるとともに、初めて動物と微生物を導入して「人―植物―動物―微生物」の4生物連鎖人工生態システムをつくり上げた。

 

200日間滞在の新記録

2004年、「環境保護と自然資源の合理的な利用」を専攻していた劉教授は北航大学の招聘を受けて教職に就いた。当時は有人宇宙船「神舟5号」の飛行に成功して間もないころで、中国は有人飛行の領域に重要な一歩を踏み出したばかりだった。将来の宇宙ステーション建設と、よりはるか未来に宇宙探査を行う準備のために、劉教授とチームは生物再生生命維持システムに注目し、研究を開始した。

現在、宇宙船あるいは宇宙ステーションの中で活動する宇宙飛行士は地球から持ってきた消耗品に頼っている。水は再利用できるが、それでも100%回収できるわけではない。このことが人類の宇宙探査への歩みを大幅に制限している。将来、もし長距離の宇宙探査を行うことになれば、宇宙船あるいは宇宙ステーションに宇宙飛行士、植物、動物などで構成する自給自足可能な小型生態システムをつくることは必然である。

13年、劉教授のチームが設計した「月宮1号」が披露された。それは北航大学の構内にある、ステンレス板の内壁が隙間なく溶接されたカラー鋼板製の建物に設置された。電力の供給以外、室内の物質は空気まで全て外界と隔絶される。1年後、ボランティアは「月宮1号」で105日間に及ぶ中国初の長期にわたる高閉鎖率統合実験に成功した。

17年5月にスタートした「月宮365」プロジェクトの実験期間はさらに長く、8人の北航大学の大学院生が2グループに分かれ、交代で室内に入り、365日間の滞在を実施する。17年7月に室内に入り、今年1月に出たグループの学生は「月宮1号」に連続200日間滞在し、その閉鎖率は98%で、これは180日間滞在し、その閉鎖率が95%だったロシアの成績を塗り替え、新世界記録をつくった。

 

閉鎖された環境の中で研究活動を行うボランティア

 

虫は重要なタンパク源

「月宮1号」は総面積が150平方、総体積が500立方あり、一つのメインルームと二つの植物ルームで構成されている。メインルームは42平方あり、四つの寝室と飲食交流勤務スペース、バスルーム、廃物処理と動物養殖スペースが含まれる。植物ルームはそれぞれ5060平方で、学生たちはそこで小麦、ナス、大豆、唐辛子、キノコなど30種類以上の穀物や野菜のほか、デザートとしてイチゴも育てた。これらの作物は味によって選ばれたのではなく、閉鎖度を保証する前提の下で栄養成分などに基づいて選ばれ、組み合わされた。一般的にライフサイクルが短く、面積当たりの生産量が高く、栽培スペースが小さく、ストレス耐性が強く、樹高の低い植物が比較的採用された。

植物性食物のほか、室内の学生たちは十分なタンパク質を摂取する必要があった。『中国新聞週刊』によると、日本の研究者はかつて閉鎖ルームでヤギを飼育してタンパク質を補給したことがある。これに対し、劉教授は次のように述べた。「大型動物はわれわれのプランで最初に却下されました」。それらを大きくなるまで飼育し、それから殺して食べることに対し心理的な負担が大きいからだ。「実験スペースと資源が有限なことも大型動物を使用する可能性を狭めました」とも述べた。大型動物の他、魚も水生生態系システムの実験をより複雑にするため不適格だった。最終的にプロジェクトチームはミールワームを選んだ。

ミールワームにはタンパク質が50%以上含まれている。実験に参加した学生は次のように述べた。「虫を食べることは実際、皆が思っているほど気持ち悪くはありません」。食べる前日にミールワームを絶食させ、排泄物を出し切ってからすりつぶして粉にしたものを小麦粉と混ぜてマントウ(具なしの中華まん)にしたり、野菜と一緒に炒めたりする。「要するにタンパク質です。加熱するとサクサク香ばしくなってとてもおいしいですよ」

 

着替えと消毒をして室内に入る準備をする第2グループのボランティア

 

今後は宇宙でも実験

閉鎖ルームの学生たちは毎日、各種作物の世話や収穫、料理、糞尿など廃棄物の処理といった基本的な「生きるための任務」を行うだけではなく、多くの科学研究モニタリングプロジェクトも行わなければならない。実験に参加した褚正佩さんは、自分たちは実験のオペレーターでもあり実験対象でもあると話す。「私たちは毛髪、唾液、爪、尿や便のサンプルを自分で採取し、さらに心理面のチェックもしなければなりません。一人一人が大きなデータバンクであり、内側から外側に至るまでがデータの基盤なのです。実験対象として私たちがしなければいけないことは、体の状態を最善に保ち、最も本当の自分を見せることです」

劉教授は次のように述べる。「彼らは非常に忙しく、毎日朝7時に起き、夜11時に寝て、すべきこと全てに細かい規則がありました」。室外の人間は室内の200日間を非常に長いと感じるだろうが、室内の人間にとって時間が過ぎるのはとても速かった。褚さんは、実験ルームが詩人陶淵明の書いた「桃源郷」のようだと語る。都市のせわしない生活からも、気候の変化からも離れているからだ。「皆で収穫し、粉をひいて、こねて生地にして料理を作るまで全てを自分たちの手で行うことは、自給自足で、エコで健康的で、まるで原始の生活に戻ったようです」

劉教授は、「月宮1号」が今後もグレードアップし続け、時が来たらスマート園芸ロボットが人間に替わって作物の栽培と収穫を行い、ついには料理など後続作業も行うようになると想定する。これは、未来の宇宙飛行士がより多くの時間を未知の宇宙の探索に割けることを意味している。

「われわれは今後いくつかの宇宙搭載実験を行い、10年から15年後に進展を見せることを望んでいます。地球上ではすでに多くの実験を行ってきましたが、宇宙の無重力、電磁波、放射能などの問題が生物システムと生物の関係に影響を及ぼします」。将来、劉教授らは二つの「ミニシステム」を設計し、一つを宇宙へ打ち上げ、もう一つを地上に設置して、作動中に発生する両者の差を比較し、科学研究者たちがシステムのパラメータとモデルをより良く矯正できるようにする。(高原=文 新華社=写真提供

 

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