再生医療の開発研究に没頭 待っている患者たちのため

2019-07-23 14:11:56

 

112日午前9時半、南京鼓楼病院で一人の赤ん坊が産声を上げた。この世に生まれたばかりのこの子は見たところ他の新生児と変わった点はないが、特殊な事情を持っていた。彼女の母親が早発卵巣不全(POF)の患者だったからだ。

POFによる不妊は世界的な難題で、中国の医者が以前採用していた通常の治療方法は排卵誘発剤を使用して患者の卵巣の機能を回復させるものだったが、満足のいく効果が得られなかった。今年初め、南京で出産した母親が妊娠できたのは、中国科学院遺伝育生物学研究所の戴建武さんのチームが研究した幹細胞の成果のおかげだった。これが、世界で初めて幹細胞研究を使ってPOFという課題を克服した成功例となった。

損傷した脊髄も再生可能

戴さんは1988年に武漢大学を卒業し、北京医科大学、米国のデューク大学で勉強してからハーバード大学にポストドクターとして在籍した。2003年に帰国した彼は中国科学院遺伝発育生物学研究所の研究員と再生医学研究センターの主任になった。戴さんと彼のチームの主な業務は再生医学の研究で、幹細胞技術とコラーゲンに由来するスマートバイオマテリアルを使って、多くの人体の組織と器官の損傷を修復し、再生するといった臨床研究とテストを行った。

戴さんのチームが社会に大きく注目されたのは、15年に完全型脊髄損傷修復手術を実施してからだ。

『経済日報』の報道によると、15年4月に天津の某工場で働いていた劉さんが落下物に当たって脊髄を完全に損傷し、腰から下の感覚と運動機能を完全に失った。劉さんは怪我をした翌日に手術を受け、神経断裂した箇所に戴さんのチームが開発したコラーゲンステントを移植し、骨髄幹細胞を注入し、神経の再生と接続を促した。手術の執刀医だった湯鋒武さんは次のように述べる。「劉さんの脊髄の損傷は1に達していました。これまでの患者なら、損傷部位以下の体がまひします。しかし劉さんは手術後、1年余りでリハビリを終え、下半身の筋力が見て分かるほど増え、股関節の活動機能も大幅に改善し、右足の膝関節の一部の活動機能が回復したばかりか、尿意をはっきりと感じ取れるようになり、生活の自己処理能力が格段に向上しました」

器具の補助もあり、劉さんはゆっくりと立ち上がり、一歩ずつはうように歩くことができるようになった。

劉さんと似た症例の任さんは交通事故によって頚椎を骨折し、脊髄が2損傷し、頸部以下がまひした。劉さんと同じ急性脊髄完全型損傷の任さんは同様に事故翌日に手術を受け、奇跡的な回復を果たし、9カ月後には手で物を持ち、タブレットを動かすこともできた。

戴さんは誇らしげにこう述べる。「理論上、人体のあらゆる組織の再生は可能です。しかし人体組織によって再生の難度は天と地の差があります。皮膚や爪の再生は一番簡単ですが、中枢神経系の再生は一番難しいです。脊髄は中枢神経系に属しており、われわれが行った脊髄損傷修復実験は最高難度への挑戦でした」。だが彼はこの治療方法にも適応と限界があることを認めている。「中枢神経はゆっくりと時間をかけて再生し、運動能力の回復は筋肉や外周神経が共同作用した結果ですので、風邪薬を飲んで病気を除去するというようにはいきません」。現在、より良く、より安定した治療効果が出せるように戴さんは研究で臨床試験の症例を積み重ねている。

 

201410月、かつて幹細胞子宮内膜修復手術を受けた女性は無事健康な子を産んだ

 

再生医療の産業化を推進

1968年に行われた世界初の骨髄移植によって幹細胞技術が臨床応用されるようになり、半世紀の進歩を重ねて、幹細胞技術は世界で最も先進的で注目を集める研究プロジェクトになり、人類の病気の治療のために独自の視点と方法を提示した。近年、幹細胞およびその分化用製品が心臓血管疾患、代謝性疾患、神経系疾患、血液系疾患、自己免疫疾患などを治療する臨床研究が世界の多くの研究機関で同時に展開されており、幹細胞を用いた多くの医薬品が認可されて市場に出ている。

2013年、厚生労働省は人工多能性幹細胞(iPS細胞)を使った網膜再生医療研究を正式に認可した。日本政府はすでに幹細胞再生医療などの先端医療技術を「新経済成長戦略」の重要な支柱としており、再生医療技術の発展と応用を通じて日本経済が成長することを期待している。

中国も同様に幹細胞技術の応用を重視している。昨年6月、中国は「『第13次5カ年計画(135)』国家基礎研究特別計画」を発表し、幹細胞およびその橋渡し研究を、重点的に発展させる戦略性将来性がある重大科学テーマに加えた。23年に中国の幹細胞関連の市場規模は850億元近くになる見込みだ。

このような背景で、戴さんとチームは自分たちの幹細胞修復技術をさらに広く医学分野に応用する機会を得るように努力した。13年に彼らは幹細胞技術を子宮内膜修復の臨床試験に用いて成功している。15年4月には、世界初の幹細胞で放射線肺線維症治療の臨床試験を行った。16年3月には世界初のコラーゲンステントと幹細胞を結合し、心不全の臨床手術を終わらせ、3カ月後に患者の心臓機能が著しく向上した。そして今年1月に、幹細胞技術によってPOFを完治した患者が男の子を産んだ。

 

中国科学院遺伝発育生物学研究所の生体材料加工場で働く研究者

 

十数年間の懸命な努力によって戴さんのチームは豊富な科学研究の成果を得たが、彼ら自身の私的な時間は大きく削られた。戴さんは次のように述べる。「家で野菜を炒めたり、ご飯を作ったり、それからドラマでも見たかったですね。それが一日の一番の過ごし方ですよ。しかしそういう時間は1年間で一、二回あるだけで、普段は毎日仕事でした。どういう原動力があってそこまでやれたのかと聞かれると、科学者として、患者の希望や社会の希望をかなえることが自分の目標と原動力になったと思います。臨床試験に成功し、分娩室から出て、感謝したくてもしきれないと言いだけに目に涙を浮かべる患者の家族を見ると、本当に心を打たれますね」(高原=文 新華社=写真提供)

 

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