ジャンル超え結び付く中日の芸術

2019-07-08 11:17:07

于文=文

 

左から建築家の隈研吾、家具デザイナーの陳仁毅、画家の王伝峰。個性あふれる3氏の作品を同じ空間に配置することで、しょうしゃな空間が現れる(写真・篠山紀信)

 

去る5月20日、日本を代表する建築家の隈研吾、中国画家の王伝峰、家具デザイナーの陳仁毅の3氏による作品集『和而不同―隈研吾、陳仁毅、王伝峰の世界』の出版発表会が行われ、中日両国の芸術界から200人余りが出席した。発表会会場の東京国立博物館法隆寺宝物館では、ガラス張りの展示館前に配置された正方形の池の中央に陳氏デザインの中国式の長椅子が置かれ、館内には王氏の筆による淡彩で描かれた楽しげに泳ぐ魚の絵が4幅飾られるなど、初夏の緑との絶妙な調和を見せていた。

 この作品集は、篠山紀信氏撮影による3氏の作品の集大成として、講談社から出版された。水墨、線、空白、有と無、虚実、禅など、さまざまな要素を持つ作品を1冊にまとめることで、芸術と東洋的美意識の関係を探るのが狙いだという。撮影を行った篠山氏は、「3氏は建築家、家具デザイナー、画家として、それぞれとても素晴らしいが、すごいものを集めたらもっとすごくなるかというと、そんなことはない。むしろ各作品がけんかをして駄目になってしまう可能性もある。そんな難しい仕事を私は任されたのだ。しかし現場で三者を並べてみたところ、これがなかなか面白い。いい作品になるのではという手応えを、そのとき初めて感じた」と驚きを語る。

 横浜生まれの隈氏は、2020年に行われる東京オリンピック・パラリンピックのメインスタジアム・国立競技場の設計に当たった。中国山東省生まれの王氏は来日30年以上になり、作品が日本郵政の日中国交正常化30周年と日中平和友好条約締結30周年記念切手に採用されている。中国台湾出身の陳氏デザインの家具には中国の明式家具特有の曲線美が見られ、今や現代中国家具デザインの代表格とも言われるほどだ。隈氏の建築作品に見られる「禅」のテイスト、陳氏の家具特有の曲線美、王氏が得意とする魚と水がモチーフの絵画という、ジャンルの垣根を越えたコラボレーションからは、「文化の共鳴」が強く感じられる。作品集に収録された、隈氏設計のヴィラに陳氏の家具と王氏の絵画を配置した情景は、空間の一体化を見事に実現していた。

 

出版発表会にて。左から陳仁毅、篠山紀信、隈研吾、王伝峰各氏(写真・続昕宇/人民中国)

 

「東方新美学」の構想

 出版発表会のあいさつで王氏は、「私たちは共に東洋美の極地を探求し、共に私たちの心の中にある『東方新美学』を推し進めていこうと思っている」と語った。王氏は「東方新美学」について、「自然と人が一つになることであり、生活と芸術が『共生』することでもあり、内外と虚実を結ぶ深淵な関係でもある」と説明。3氏は「禅」を東洋文化共通の精神とし、伝統文化から新たな美の発見を試み、古代東洋美術に内包される禅の概念を「誇張化」することで、作品と自然が調和する東洋の美の鮮やかな表現に成功している。王氏は「隈研吾の建築には禅が、陳仁毅の家具デザインにも禅が、そして私の絵画にも禅がある」としばしば言うが、たとえジャンルは異なっていても、持ち味を共有することで個性を一体化することは可能なのだ。

 

「未来の展示」に挑む

 日中友好議員連盟の林芳正会長は発表会のあいさつで、「異なるジャンルが『和』して一体となり、さらに微妙な変化を遂げている。これこそがジャンルを超えたコラボレーションの面白さ」と評価し、日中アートシーンにおける交流の深化を願った。今夏、東京大学で落成する隈氏設計の美術館では、オープニングに出版後初の展示会が予定されており、その後は中国、米国、フランス、ドイツ、イタリアなど世界各国の博物館での巡回展も予定されているという。

 王氏はこの巡回展を「未来の展示」と例える。「アートシーンにおいて、ジャンルを超えたコラボレーションは今後盛んになるだろう。私たちの実験が他のアーティストへの啓発となることが、私たちにとって一番うれしいことで、かつ最も望んでいることだ。『論語』から出た『和而不同』(和して同ぜず)という言葉が、私たち3人を共に歩ませた。この道が将来どのような方向に向かっていくかは、私たちにとって永遠の課題であり、また、他の人々とも一緒に考えていきたい課題なのだ」

 

『和而不同』隈研吾、陳仁毅、王伝峰の世界

 
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