最新施策で経済の安定発展を

2021-03-15 15:51:48

続昕宇=構成

新型コロナウイルスが世界で猛威を振るった2020年。世界経済が行き詰まる中、中国は世界で唯一プラス成長を実現した主要経済国になった。こうした状況下、昨年12月16~18日、中央経済活動会議が北京で開催され、1年間の経済活動と経済状況を総括・分析した上で、新年度の経済活動に向けて新たな施策を立てた。

世界的な感染予防・抑制の日常化と長期化が進む中、中央経済活動会議の最新計画の下、今年の中国経済はどのように発展していくのか? 中国市場は今まで同様に「魅力」を保てるのか? 中国の日系企業はどのように進退を決めるのか? これらの問題について、中日両国の業界関係者が意見を述べた。

 

中国経済「持続的に安定」の見通し

昨年の中国経済について、丸紅中国会社経済調査チーム長の鈴木貴元氏は、年初は新型コロナの影響で停滞したものの、第3、第4四半期に入ってから順調に回復し、中国政府の政策も、当初の生産回復の促進から、民間投資や消費の成長を誘導する方向に転換していると述べた。現在、中国の民間投資は比較的順調に回復しており、消費も秋以降、目に見える改善を見せており、これらの投資・消費促進策が良い効果を発揮したといえると指摘した。

鈴木氏によると、その理由としては、第一に中国がいち早く感染症の打撃から立ち直ったこと、第二に引き続き予防の努力を怠らず、第4四半期に入ってから欧米などの国で起こった感染症の再拡大を回避したことが挙げられた。包括的かつ徹底した予防措置は、民間経済に明るい見通しと確信をもたらし、景気回復に非常に有益であったという。

 

昨年末、中国は新型コロナウイルスワクチンの販売を正式に承認した。写真は科興中維の工場でワクチンを包装している従業員(新華社)

一方、今年の中国経済の展望について、本誌副総編集長で日本企業(中国)研究院執行院長の陳言氏は、中央経済活動会議に関する報道や近年の中米両国の経済規模を分析することで、次の理由を挙げて、今年の中国経済発展の動きを「持続的安定」という言葉で予測した。

まず、中国の技術革新の観点から見ると、過去40年余りの間、技術の導入が技術革新の主な原動力となってきたが、近年の国産技術の発展により、中国は独自の技術体系を保有するようになり、現在も改善し続けており、特に基礎科学と基礎研究による強化が必要である。近年、中国の情報技術(IT)は比較的急速に発展しており、特に人々の生活に関連するITの発展は想像を超えるものがあるが、ITをどのように産業システムと効果的に融合させるか、特に中国の新しい産業技術システムにどのようなサービスを提供できるかが今後の課題である。ITと産業生産分野との連動やデジタル経済のさらなる発展は、中国が他国を抜いて急速な発展を遂げることができた重要な理由であるはずだ。

第二に、産業チェーンは、一部の国による意図的な切断がなくても、新型コロナによっても切断されている。産業チェーンの再編にはITの力が必要で、例えば、スムーズな物流が確保されている条件の下で、産業チェーンの構築は地域や国境を越えて、一時的な切断や新たなニーズをすぐに解決することができる。しかし、ITの力がどれだけ強くても、産業チェーンにおける脆弱部分を解決することはできない。基本的な部品、基礎技術、主要基礎素材は、産業チェーンにおいてますます重要な役割を果たしているだけでなく、半導体デバイスのようなハイテク分野では、一部の国が他の国を制約するための手段にさえなっている。産業チェーンを再編し、しっかりとした産業チェーンの基盤を確保してこそ、サプライチェーンは中国の経済と社会においてより大きな役割を果たすことができる。中国は自国の産業チェーンの再編に自信を持っており、その成功は中国の安定した経済成長に大きく寄与するだろう。

最後は、内需と対外貿易のけん引力だ。内需は経済発展の重要なけん引役で、対外貿易は経済を後押しする。これまでの中国の内需の中心が家電や自動車、住宅だったとすれば、今後の中国の内需は教育や医療、高齢者介護にまで拡大し、内需の戦略的意義は高まっていくはずだ。特に農村部が国内の経済循環に入ってからは、巨大な人口規模と膨大な需要が、いずれ中国が経済規模で米国を追い越すことにつながる重要な原動力となるだろう。

従って陳氏は、次のように考える。中国の速度と量の持続的な増加は、最終的に経済規模において米国に追い付き、追い越すことにつながるだろう。昨年の中国の経済発展は欧米や日本のような深刻な景気後退がなかったため、より速くて質の高い発展が期待できるだけでなく、それがまた今年以降の5年、15年、30年に、持続的に前進するための強固な基盤を築くことになる。

 

不確実性に対処するための基礎固め

例年と比較して、今年の中央経済活動会議は八つの重要任務を打ち出した。すなわち、国家の戦略的科学技術力を強化すること、産業チェーン・サプライチェーンにおける自主開発・コントロール能力を増強すること、内需拡大という戦略的基点を堅持すること、改革開放を全面的に推進すること、種子と耕地の問題を解決すること、独占禁止を強化し資本の無秩序な拡張を防止すること、大都市における住宅の際立った問題を解決すること、二酸化炭素排出量のピークアウトとカーボンニュートラルをしっかり進めること、である。

これに対し、鈴木貴元氏は以下のように指摘した。昨年と比べて、今年の中央経済活動会議で打ち出された八つの重要任務は、全てが経済にまつわることというわけではなくなった。例えば、食糧の安全を保障することは、実は国の安全保障に直接関わる。その背後には、中国政府が今年、例年通り経済発展の量と質に注目するだけでなく、経済発展の基盤である国家安全保障と社会の安定性にもより一層の関心を払うことが反映されている。

 

昨年10月16日、袁隆平氏の青島海水稲研究チームの研究によって開発された塩・アルカリ耐性稲(海水稲)の収穫量評価が山東省濰坊市で完了した。5万ムー(1ムーは約0.067㌶)の海水稲の平均収穫量は、1ムー当たり625.3㌔だった(新華社)

鈴木氏によれば、この変化には二つの理由がある。一つは双循環の前提となる国内循環の基礎を強化すること。もう一つは新型コロナのような不確実性が経済にもたらす影響を認識した中国政府は、予期せぬ問題が発生しても経済を成長させることができるようにする必要があると考えていること。特に現状を見ると、英国などの国では新型コロナの変異株が現れており、ワクチンは開発されているものの、沈静化にはまだ程遠く、今年もまだまだ不安要素が多く潜む年になりそうだ。今回、中国政府が打ち出した重点経済活動は今年の状況を見通し、十分に考慮した上での対応だと見て取れる。

 

中国市場の魅力と今後の向き合い方

また鈴木氏は、経済活動の八つの重要任務のうち、企業が最も関心を持つのは三つ目の「内需拡大」だと考えている。この項目は特に所得分配構造の最適化や中間所得層の拡大に言及しているが、これは外資系企業にとって、市場のさらなる拡大を意味する。以前はほとんどの外資系企業が比較的裕福な沿海地域の市場をターゲットにしていたが、将来的には内陸部の住民の所得増加とともに、地方都市も潜在力のある市場となるだろう。

また、二酸化炭素排出量のピークアウトとカーボンニュートラルに関する八つ目も日系企業の注目ポイントだと指摘した。実際、日系企業は1970年代から中日経済協力を通じて中国の環境保護関連市場に参入してきたが、21世紀に入ってからは、中国企業の環境保護関連分野の技術レベルやコストパフォーマンスが向上していることに加え、地方政府の国産技術へのこだわりも強まり、中国市場での競争が激しくなってきている。その中で、日系企業は中国政府の環境保護への強い思いに注目したが、中国企業との競争が厳しいため、中国の環境保護市場に参入することは一般消費者向けの市場に参入するよりもはるかに難しい。

 

昨年5月、上海は「5・5ショッピングフェスティバル」のセールを実施。南京路の歩行者天国は、ショッピングバッグを持って買い物をしている人たちでにぎわった。新型コロナ予防・抑制措置が効果を見せ、中国の国内消費は急速に拡大している(東方IC)

中国政府は今年、2060年までにカーボンニュートラルを達成するというビジョンを掲げたが、それをさらに今年の重点経済活動に組み込むことで実行に移すのは、非常に意欲的なことだと同氏は考えている。カーボンニュートラルを実現する方法は、日系企業の強みであるリサイクルや新エネルギー技術によるものであり、中国の環境保護市場において、日系企業にとって新たなチャンスとなるに違いない。

一方で、日本政府が昨年4月に新型コロナウイルス感染拡大に対する緊急経済対策として国内回帰・東南アジア諸国へ移転する企業に補助金を支給して生産拠点多元化を支援する政策を導入したことから、「この政策によって多くの日系企業が中国市場から撤退しようとしているのではないか」という懸念が上がった。これに対し、キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の瀬口清之氏は、「この政策による日系企業の対中投資姿勢への影響はほとんどない」との見方を示した。

その理由は二つある。第一に、補助金を申請する企業が非常に少ないこと。中国に進出している日系企業は3万3000社と言われている。そのうち、補助金を申請した企業は1700社、全体の5%強にとどまった。この割合は、日本貿易振興機構(ジェトロ)が毎年実施している中国進出日系企業向けアンケート調査の結果とほぼ一致している。中国事業の縮小、第三国への移転・撤退を計画していると回答した企業の割合は、17年が7・4%、18年が6・6%、19年が6・3%となっている。こうしたデータから見て、応募企業数は従来から中国事業に消極的だった企業の比率とほぼ同じであることが理解できる。

第二に、応募した企業の補助金使用目的だ。大手銀行の幹部や日系企業のトップによれば、今回の補助金は中国での事業縮小や撤退に使うのではなく、むしろ中国でより積極的な事業活動を行うための事業再編に使うという。

 

山東省濱州市。渤海湾の南側に位置する沾化区濱海鎮には、広域のアルカリ性土壌がある。長年の開発を経て、太陽光発電や風力発電プロジェクトが実施され、「エネルギーの金鉱」に変身した(東方IC)

市場開拓の過程で、ある事業や投資分野の将来の収益について、改善が難しいと判断される場合、企業は事業縮小や中止を検討せざるを得なくなる。しかし、これは企業の対中投資姿勢の消極化を意味するものではなく、単に市場ニーズに合わせて重点戦略分野を調整しているにすぎない。

また、こうした企業が、日本政府の補助金政策を事業再編の良い手段として積極的に活用した例が多いのも事実だ。これは日本政府の本来の意図と違うが、中国に投資する日系企業の事業の円滑な再編に貢献し、中国への投資効果を高めるという意味では、期待する価値がありそうだ。

中国で積極的に事業を展開している企業は、国際競争力のある優良企業ばかりで、日本企業の中でもトップクラスだ。中国での事業拡大が順調に進めば、企業利益の増大や日本からの部品輸入などにより、国内企業の設備投資や雇用、納税額の増加などを押し上げる効果が期待できる。これは新型コロナの影響でダメージを受けた日本経済の救済策となるだろう。ただし、補助金の額が少ないので、この政策の効果は非常に限られている。

瀬口氏の考えでは、中国市場で大きな利益を期待できるからこそ、グローバル市場で競争力の高い企業は中国市場に魅力を感じているのではないかという。昨年の感染拡大の厳しい状況下でも、中国は主要国の中で唯一のプラス成長を達成した。「この先も2010~20年の5%台の年平均成長率を維持する可能性が高いと見られている。このような安定的に拡大する巨大な市場規模が中国市場の大きな魅力である」

「日本企業は現在の日中関係改善の追い風により中国ビジネス展開の大きなチャンスを迎えている。競争力に自信のある企業は中国市場にチャレンジして飛躍を目指す好機である。それが日本経済のコロナ後の経済回復の強力な支えとなることを期待したい」と瀬口氏は希望を寄せた。 

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