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湖北省・十堰市 武当山の古建築物群

 

 

  「古代の智恵、歴史的建造物、美しい自然の風景が見事に溶けあっている」とユネスコから評された武当山。映画『グリーン・デスティニー』の物語の舞台にもなり、その美しく幻想的な風景は、世界中の人々を魅了している。

天柱峰の頂上にある紫金城の城壁。奥に見えるのは転運殿

明代初期、成祖・朱棣(後の永楽帝、在位1402~1424年)は甥の建文帝(在位1398~1402年)から政権を奪ったあと、南京から北京への遷都を決めた。道教を篤く信仰する永楽帝は、封建的な倫理道徳に反した政権剥奪の口実として、これは神様の思し召しであり、道教の聖地である武当山の真武大帝による加護があると言いふらした。

 

このため、北京遷都の準備がほぼ終了した永楽11年(1413年)、永楽帝は侍郎(内閣各省の次官)の郭進らを、真武大帝を祀ってある武当山に派遣し、30万人以上の労働者を使って盛んに土木工事を行った。そして、十年近くかけて、浄楽宮、迎恩宮、玉虚宮、紫霄宮、南岩宮、玉竜宮、遇真宮、太和宮、復真観、元和観など33の道教建築群を建造した。この時期は、「北では故宮を建築、南では武当を修築」と言われる。

 

道教の名山となる

 

唐の貞観年間(627~647年)、武当山にはすでに五竜祠が建立され、道教が伝えられていた。その後、道観が増えるのにともない、武当山は道教の名山となった。

 

永楽年間(1403~1424年)の大規模な修築により、武当山は山全体が「真武道場」になった。最盛期には道教の建造物が2万以上あったという。道教の廟宇はすなわち、皇室の廟宇となった。

 

武当山の建築群は、真武大帝が修練を積んで仙人となる伝説に基づいて分布している。皇権と神権との結合を意図して造られたものであり、皇権の威厳と気高さを体現するとともに、神権の神秘さと奥深さを表現した。

 

明の嘉靖31年に建てられた玄岳門は、「三間四柱五楼」の石造りの牌楼(鳥居形の門)で、武当山の入り口となっている

 ふもとから武当山最高峰の天柱峰の頂上にある金殿までは、細長い青石板が敷かれた「神道」が続く。神道の両側には、宮、観、庵、堂、亭、台、橋が散在する。自然を尊ぶ道教思想によって造られた武当山の建造物は、周辺の山や木、水と一体化し、天然の景観となっている。

 

武当山管理の本拠地

ふもとにある「玉虚宮」は、武当山の廟宇の中でもっとも大きい。皇帝はここを本拠地として武当山を管理していた。当時、玉虚宮は外楽城、里楽城、紫金城の三つに分かれており、それぞれが壁に囲まれ、隔てられたりつながったりしていた。建築水準が高く規模の大きなこの宮城は、南方の故宮と呼ばれた。

 

しかし残念なことに、天啓7年(1627年)の火災により、主要な建造物は消失してしまい、清の乾隆10年(1745年)の再びの火災で付設の建造物も灰燼に帰した。さらに1935年の夏には山津波が発生したため、今は崩れた垣やひび割れた壁が残るのみである。

山門をくぐると、二つの御碑亭に目を奪われる。青草の中に御碑亭のみがそびえ立つ姿に、世の中の移り変わりの激しさをしみじみと感じる。敷地内では、世界各地からやって来た武術の愛好家たちが、拳や足を振り上げ、剣や棒を操って、武当拳を学び交流している。玉虚宮の遺跡もいくらか生気を取り戻したようだ。

武当拳の生みの親を祀る

  

武当拳は養生・修業、防御・保健を目的とする。その奥義は「柔をもって剛を制す」「まず一歩譲って相手を制す」。「内家拳派」と呼ばれる
 玉虚宮から遠くないところに、規模の大きな建築群がある。敷地面積56000平方メートル以上におよぶ「遇真宮」だ。洪武年間(13681398年)の初め、道士の張三豊はここに庵を建てて修行を積み、やがて世に広く知られる武当拳を生み出した。張三豊は中国武術の師となり、武当拳は中国武術において影響力が非常に大きい流派の一つとなった。

 

 しかし洪武23年(1390年)、張三豊は武当山を去り、行方がわからなくなった。太祖・朱元璋(在位13681398年)と永楽帝は、それぞれ詔を下して使者を派遣し、その行方を捜したが見つからなかった。

 

 道教を篤く信仰した永楽帝は張三豊に誠意を示して、彼が修行した場所に「遇真宮」を造るよう命じた。宮殿の中には張三豊の像を作り、人々が参拝に訪れることができるようにした。中国の歴史上、皇帝が一人の道士のために宮殿を建て、像を祀るようなことは前代未聞であった。

 

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