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古琴 文人の指が奏でる千年のメロディー

 

中国哲学を体現する構造

 

人間の体と同じように、古琴には上から下に、琴額、琴首、琴体、琴肩、琴背、琴腰などの部位がある。琴の本体の表に象眼されている13の「徽」は、ほとんどが螺鈿で磨かれて造られるが、黄金、翡翠や白い玉などの宝石で造られるものもある。

 

古琴の製造は非常に奥が深く、現在もすべて手作り。北京「鈞天坊」古琴工作室で長年古琴の製作に携わる王鵬さんによると、一面の製作に2年あまりかかるという 古琴に用いられる材料にはこだわりがある。表面板には音のよく響く桐か杉の木を、底板には比較的硬めのキササゲの木を使う(写真提供「鈞天坊」) 古琴に塗る漆はすべて天然のもので、20回あまり塗り重ね、磨かなくてはならない(写真提供「鈞天坊」)

 

史書の記載によると、「天は円く地は四角い」という考えに呼応し、琴の体は「上が円く下が四角い」。13の「徽」は、12の月に閏月を加えた数を表している。古琴はもともと五行を象徴する五弦であったが、のちに周文王が一弦を加え、周武王がさらに一弦を加え、今の七弦となった。天地を模した古琴は、一年の節気に応じ、帝王の徳望を得る楽器なのである。すべてが、中国の「天人合一」という哲学思想を体現している。

 

古琴の楽譜も独特である。最初の「文字譜」から現在の「減字譜」まで発展させたのは、唐代の曹柔であると広く考えられている。「減字譜」とは文字通り、「文字譜」を簡素化して作られた楽譜である。「減字譜」が誕生し、広く用いられるようになったことで、古琴は古代の音楽資料を保存する宝庫となった。

 

「減字譜」は中国の特有の記譜方式で、中国の漢字を簡素化し、その簡素化された漢字に漢数字を組み合わせて作られる。音の高さとテンポを正確に記録する五線譜と異なり、「減字譜」は左右の手の演奏技法だけを記録し、具体的な音の高さやリズムは明記しない。古琴のこの「記指」の特徴が、「打譜」という楽譜によって演奏そのものをも非常に特殊なものとしている。

 

古代より、古琴は文人や士大夫の風雅を担ってきた 代々伝わってきた古琴の楽譜 著名な古琴曲『流水』の「減字譜」

 

「打譜」では、演奏者は楽譜によって演奏するだけではなく、楽譜の背景にしたがって楽譜にある文字を校訂しなければならない。楽曲の「前書き」でその境地をかみしめ、自分の理解によって一定のリズムでそれを演奏する。こうして、古琴の「打譜」は非常に柔軟性を持つものとなる。同じ楽譜の同じ楽曲でも、演奏者によって異なるメロディーが奏でられるため、「打譜」は演奏者による楽曲の再創作といっても過言ではない。演奏者たちの間では「大曲三年、小曲三月」というほど、「打譜」はその演奏のプロセスに非常に時間がかかり骨が折れるという。

 

古琴の楽譜は特殊な「指位譜(指の弾く位置を表す楽譜)」であるため、楽曲を完成させて正確に伝授するためには、師から弟子へ口承や以心伝心で教えなくてはならない。かつて師が楽曲を伝授するには、弟子と交互に弾きながら完全に一致するまで続けたという。

 

日本に伝わり国宝に

 

日本・京都の西賀茂神光院に収蔵されている唐代の写本『碣石調・幽蘭』楽譜
唐代以後、古琴は次第に周辺の国々へも伝わっていった。唐の開元年間(713~741年)、唐の帝王は古琴を国の贈り物として日本に贈り、友好を示した。この金と銀の象眼された「金銀平文琴」(735年製作)は、現在も日本の奈良東大寺正倉院に国宝として収蔵されている。

 

京都の西賀茂神光院に収蔵されている唐代の写本『碣石調・幽蘭』楽譜は、文字によって左右の手の演奏技法を表す「文字譜」で、現在知られている最古の古琴の楽譜である。清の末期、著名な蔵書家・楊守敬(1839~1915年)が日本に滞在中、この貴重な楽譜を模写した。その模本は1884年、黎庶昌(1837~1897年)が編集した『古逸叢書』に収録されている。このことからも、古琴が古くから文化交流の使者の役割を担ってきたことがわかる。

 

この数年、中国では古琴の保護がこれまで以上に重要視されるようになった。関係部門は、2002年から2012年までの10年計画で2200万元を投資し、人材の育成や楽曲の整理、録音データのデジタル化、楽器の保存や修復といったさまざまな方面で古琴文化の保護を進めている。北京、上海などの大都市では、ホワイトカラーの人々の間で、古琴の稽古がブームになりつつある。(劉世昭=写真 林晨=文・資料写真提供)

 

人民中国インターネット版

 

 

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