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黄金とルビーとそして信仰

 

すべては神のもの

バガン古塔内部の仏像  ビエンチャンの店で販売されている工芸品 

千年あまりにわたって、黄金はその安定した物理的、化学的特性のため、天然貨幣として使われてきた。

大メコン川流域の国々は、豊かな金鉱に恵まれている。ラオスの金鉱は主に、ウドムサイ県からルアンプラバン県までのメコン川沿岸地区に分布している。ラオス中部の都市サバナケットはラオス語で「天国」を指し、黄金が埋蔵されている地であることも意味している。

黄金を豊富に産出するラオスでは、宗教建築もまた黄金に包まれている。ビエンチャンにある有名な黄金の塔「タート・ルアン」は、737年に建造が始まり、1566年に完成した。その間、何回も破壊の憂き目に遭ってきたが、再建されるたびにまばゆく金色に光り輝いた。

黄金は富の象徴である。しかし、大メコン川流域の人々にとっては、貴重なものも美しいものもみな神のものであり、光り輝く黄金は神々に捧げるものである。大メコン川流域のように大量の黄金に光り輝く塔、寺院、宮殿が見られる場所は世界のどこを探しても見つからないだろう。仏像や宗教建築、祭祀用具に金箔を貼ったり、直接黄金でつくったりすることは、大メコン川流域で古くから受け継がれてきた伝統である。黄金は仏像にしてしまえば、それを打ち砕くことも利用したりすることもできなくなる。だからこそ、純金で造られた無数の仏像は今日まで保存されてきた。

アンコールワットの彫像はもはや石の色に戻り、苔に覆われてさえいる。しかし、造られたばかりのころには、多くの彫像の顔に金箔が貼られていた。

タイのバンコクにある王宮は、黄金と宝石で装飾された壮大な宮殿である。

ミャンマーのシュエダゴン・パゴダはバガン(パガン)王朝の最古の塔である。1059年にアノーラター王の命で建造がはじまり、31年の歳月を費やし、1090年にその息子のチャンスイッター王の時代に完成した。塔は全体が金箔に覆われ、宝石がはめ込まれ、まばゆいばかりである。

この地を歩いていると、いたるところで黄金色に包まれた仏像や寺院が目に飛びこんでくる。

 

たぐいまれな石

黄金よりさらに貴重なのは宝石である。宝石は石のエッセンスである。大メコン川流域では世界のどこよりも大量の宝石や美玉が産出される。

大メコン川流域の大地は、決して目に見える通りの穏やかなものではない。地面の奥深くで、大地はまるで暗闇の中の巨大な胃袋のように、岩層を押しつぶしたり、磨いたり、揉んだり、こねたりすることによって、地質構造を再編している。そのプロセスを通じて、石のエッセンスが大地のある部分に凝縮され、長い歳月の鍛錬を経てたぐいまれな石となる。

ほとんどの鉱産物には実用的な物質が凝縮されるが、宝石には光が集まり、筆舌に尽くし難い美しさとなる。宝石の前では、黄金はどうしてもその俗気がさらけ出されてしまう。大地の奥からやってきた石の精霊たちは、千年余りにわたって、人々の平凡な生活をゴージャスに彩ってきたのである。

この地域では古くから、石は霊力ある物とされてきた。かつての賢者は石を介して悟りを開いたものであり、宝石は石の中の精霊とされ、神の化身と見なすのは当然のことであった。ここには、ごくシンプルな生活をしながら、貴重な宝石を身につけている人が少なくない。これは財産としての所有ではなく、宝石によって人々の神に対する距離を表すからである。宝石が貴重であればであるほど、神に近づく。人々は宝石が神の使者であり、人間に神の加護を授け、天国へ導いてくれると信じている。

ここに暮らしている人々にとって、富は物質的価値を象徴するだけでなく、精神的価値のシンボルでもあることが、この地に来て初めて理解できた。

 

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