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ドリアンの香り

ドリアン、忘れがたいその香り。一度でもドリアンを目にしたことのある人なら、そのにおいを覚えているはずだ。強烈で独特な香り、甘くねっとりとした食感。しかし、初めてドリアンに出会う私たちにとって、このにおいはあまりにも強烈すぎて、嘔吐したくなるような気持ちにさえなる。ドリアンが大好物なタイの人々は、ドリアンを「果物の王様」と呼ぶ。タイには「衣装を売ってドリアンを買う。ドリアンが熟れたら、衣装箱は空になる」という諺がある。美しい衣装を売り払ってでもドリアンを買って食べたいという、ドリアンに対する人々の強い愛情が感じられる。タイでは至るところで、ドリアンを食べる大会が開かれる。一度新鮮なドリアンを口にしたら病みつきになるという。ドリアン好きには、この強烈なにおいも、芳しい香りになるのだろう。

メコン川の水上市場でリュウガンを売っている船

ドリアンにはさまざまな食べ方がある。生のままのほか、ドライフルーツや缶詰でも売られている。干すことで強烈なにおいはなくなるが、そうなるとドリアンならではのねっとりとした食感は楽しめなくなる。

ドリアンの木は熱帯果物の木の中で一番高い。その高さは25メートルから40メートルに及び、一本の木に年間80個余りのドリアンが実る。摘み取ってから10日ほどで熟れる。タイのドリアンには200あまりの種類があるが、そのうちの60から80種ほどのものが広く栽培されている。

ソムサックさん(56歳)はタイのラヨーンの有名な農園主である。彼の農園は13ヘクタールほどの地元でもっとも大きな果樹園の一つであり、その主な作物はドリアンである。ラヨーンはタイの主要な果物の産地であり、この地の農業人口のうち80%以上が果物の栽培に従事している。

ソムサックさんは長年果樹栽培に従事してきたが、近代化された農業でよく使われるようになった化学肥料や農薬を使わず、自家製の堆肥や殺虫剤にこだわっている。堆肥は甘草から作られたものである。甘草には虫除け効用があり、草が伸びてからは肥料にも使われる。甘草の栽培をタイの王妃が呼びかけたため、「王妃草」とも呼ばれている。ソムサックさんの農園では化学殺虫剤を使わないため、甘草はとても役に立つ。また、熟れる前のパイナップルで作った天然殺虫剤もあり、これが一番効果的な殺虫剤だとソムサックさんは言う。

タイの水上市場

こうした果樹栽培のノウハウは長年にわたる試行錯誤によって得られたものである。最初は周囲の人々から、「便利な化学肥料があるのに、わざわざ臭くて汚い堆肥を作るなんて、正気の沙汰ではない」とまで言われていた。しかしソムサックさんは、「土はお釈迦様からいただいた宝物であり、果物もまたお釈迦様からいただいた幸せの果実である」と考えている。だから、化学肥料や農薬でそれらを汚すわけにはいかず、お釈迦様はきっとこの気持ちを酌んでくれるはずだと信じている。

やがて、ソムサックさんは成功を収めた。堆肥を使用したことで、土壌の肥力が保たれ、収穫量も増大した。またその果物は安全であり、化学肥料に比べてコストもかからない。彼の果樹園の果物はエコ・フルーツとして広く知られるようになり、見学に来る人も後を絶たない。

「エコ農園」に興味を持つ人は少なくないが、様子を伺っているだけで実際に実行に移す人はなかなかいない。化学肥料や農薬の使用は近代農業のスタンダードであり、ソムサックさんのやり方は革新的すぎて受け入れがたいと人々は内心考えている。

ソムサックさんはあらゆるチャンスを利用して、エコ栽培はもっとも自然であり、人間にとって最良の栽培方式であると人々に呼びかけている。より多くの人に堆肥のメリットを理解してもらうため、ソムサックさん夫妻は自分たちが作った堆肥を他の農園主に無料で提供している。また、宿泊及び食事つきで、肥料の作り方や農園管理などを教える授業も主催している。

こうして、次第に彼の栽培方式は人々に受け入れられるようになり、堆肥を使う果樹園も増えてきた。

堆肥も、ドリアンと同じようなものだ。においは強烈だが、人々にもたらしてくれるのは甘い果実なのである。

ラオスの首都ビエンチャンの果物屋 タイの首都バンコクのバーベキューを売る屋台

最後にソムサックさんと会ったのは、ラヨーンの果物祭りでのことだった。

瀾滄江―メコン川流域では、さまざまな産物のための祭りがある。中でもラヨーンの果物祭りは有名である。果物祭りは年に一回開催され、あらゆる農園主が参加する。毎年ミス・フルーツがコンテストで選ばれるが、年によって異なる果物でミス・フルーツが命名される。この年のミス・フルーツはミス・ドリアンであった。

また、祭りではどの村にも果物で飾りたてた山車が用意される。特産の果物をぎっしりと詰め込んだ山車は輝くばかりに美しい。この果物で飾られた車のパレードの直前、ソムサックさんが数人の農園主たちと話している姿を見かけた。

「あなた方の村の飾りは実にきれいだ。おお、パイナップルがシンボルなのか。ほかにもたくさんの果物があるね。これは素晴らしい。農業はやはり化学肥料の使用をできるだけ控えたほうがいい。わしの作った堆肥の効果は最高だ。化学成分はまったく含まれていない。我々は、我々の果物を全世界に向けて売り出すべきだ。世界中の人々に、タイのどこにどんな果物があり、タイにどのような果物があるか、みんなでアピールして行こう」

 

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