People's China
現在位置: 連載随想 世界とつきあう

Peking Opera=京劇?

フランスの文化人数人と、京劇を世界に広めるにはどうすればよいか、というテーマで話し合ったことがある。オペラ、バレー、京劇が世界の三大演劇文化だという認識で一致したが、その中の一人の見解を入れて、歌舞伎も加えて四大演劇文化ということになった。

中国文化研究家の一人は次のように話し始めた。京劇の英訳は「Peking Opera」だが、この訳を見た外国人は、きっと『椿姫』や『カルメン』の北京風の演出だと誤解するだろう。それでも、好奇心から是非観賞したい人がいるとはとても思えない。そもそも京劇は西洋のオペラと特徴を異にし、概念的にも混同できないまったく別の演劇文化なのだ。ほかの人たちは、京劇を見たことがなく、それまで「オペラ」を基準に考えていたという。いろいろ議論して、歌舞伎が日本語の発音を元に「Kabuki」と英訳されているように、中国芸術を代表する京劇も、中国語の発音通り、「Jingju」(チンチュ)と訳すべきだという結論に達した。例として出た話だが、日本人は「漫才」を「Mannzai」と訳しているが、中国では「相声」(中国の漫才)を「Cross Talk」と訳している。その意味は、英語を母国語とする人たちでさえ分からない。有名な「相声」演者の馮巩氏は、私に「相声はあくまでも相声で、当然『Xiangsheng(シアンション)』と訳すべきです」と、力説していたことを覚えている。

京劇の英訳について、数年前、北京京劇院梅蘭芳京劇団団長の梅葆玖氏に直接教えを請い、また、上海のベテラン辞書編集者にも訊ねたことがあるが、お二人とも、京劇の英訳は「Jingju」を使うべきで、意訳は適切でないと語っていた。

「Peking Opera」という英訳は、1930年、伝説の名優・梅蘭芳が米国で初めて京劇を公演したときから、米国で広まったようだ。それから、すでに長い間使われてきたので、誤解は生じないだろうと考えている人もいる。しかし、実はそうではない。中国人なら当然誤解しないだろうが、何人もの外国人に聞いてみたが、やはり京劇とオペラとの区別をよく分かっていない。

韓国は首都ソウル(Seoul)の中国語表記を14世紀から「漢城(ハンチャン)」としてきたが、近年、韓国語のソウルを音訳して「首尔 (ショウアル)」と改め、わずか1、2年で中国語圏に広めた。同じように「京劇」の英語表記を中国語の発音通り「Jingju」と改めることによって、国際的に正式呼称となり、これまでの「Peking Opera」でむざむざと失ってきた京劇の中国的特徴を世界へ広めることができると思う。

「Kabuki」をキーワードにして、グーグルで検索してみたら、300万件もヒットしたが、「Peking Opera」はわずか600件だった。また、中国京劇院など四大京劇院のホームページに目を通したが、期間が過ぎたプログラムが一つ見つかったものの、英語の内容説明はまったく載っていなかった。世界に京劇を広めるためには、まずこの程度のサービスはすぐに始めるべきだし、しかもそれほど難しいことではないはずだ。

趙啓正

 

 1963年、中国科学技術大学核物理学科卒業。高級工程師などを経て1984年から中国共産党上海市委常務委員、副市長などを歴任。

 

 1998年から国務院新聞辦公室・党中央対外宣伝辦公室主任。

 

 2005年より全国政協外事委主任、中国人民大学新聞学院院長。

 

人民中国インターネット版 2010年12月

 

同コラムの最新記事
Peking Opera=京劇?
運転熟練 人間未熟
英訳メニューはジョーク集?
ジェスチャーも国によっては違う意味
「彼女はトイレットペーパーがほしいですか」