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「文化強国」への道をまい進

 

10月15日より開催された中国共産党第17期中央委員会第六回全体会議(第17期6中全会)のキーワードは「文化」でした。中央全体会議で「文化」が主要テーマとして議論されたのは2007年の党大会以来で、思想、道徳、文化問題が討論された1996年の第14期6中全会を受けてのことでした。15年の歳月を経て、文化が国家建設の檜舞台に登場したと言ってよいでしょう。

6中全会で採択された『文化体制改革を深化させ、社会主義文化の大発展と大繁栄を推進するための若干の重大問題に関する中共中央の決定』(以下『決定』)において、中国は、①全民族の文明的素質を高め、②国家のソフトパワーの実力を強化し、③中華文化を発揚し、④社会主義文化強国の建設に努力すること、すなわち、中国文化の改革開放を高らかに宣言したと言えます。

2011年10月29日、オーストリアのグラーツで孔子学院の発足を記念して中国の伝統的な獅子舞を披露(新華社)

文化資源を発展の原動力に

中国には5000年ともいわれる歴史があり世界に類を見ない独自の文化を開花させてきました。この文化資源を経済および社会の建設と発展の原動力にしようという今回の政策決定は極めて自然でしょう。

さて、文化強国への道のりは①文化産業の育成・発展②その製品・創作品を海外輸出(展開)―文化面での中国の海外進出を意味する「走出去」―に集約できると思います。

文化産業とは構造調整により発展を図るとする伝統文化産業(図書・新聞・雑誌等定期出版物の出版、映画・TVドラマの制作、印刷、広告、公演、娯楽、会議・展示会など)、および、今後の発展が期待される創意文化産業(デジタル出版、モバイル・マルチメディア、電子音響製品、アニメ・ゲームなど)に大別できます。

中国は1978年来の改革開放政策で、外資と先進技術を大胆に導入し外貨を蓄積しつつ国内企業を育成・発展させてきました。今日、世界市場を席捲している中国製品は少なくありません。2010年に中国は世界第二位の経済規模を有するまでになりました。果たして、中国文化はどうでしょうか。

GDPの伸びを上回る成長

2004年から2010年までの7年間の文化産業の年平均伸び率は23%で、国内総生産(GDP)の伸び率をはるかに上回る成長を遂げています。目下、中国は世界3大映画生産国の一つとなっており、また、TVドラマと出版書籍の種類において世界をリードしていますが、それでも、2010年の文化産業のGDPに占める比率は2.75%(1兆1千億元)に過ぎません。文化産業の発展の余地は大きく、特に、海外展開に大きな期待がかかっています。

『決定』では、2020年までに文化産業を国民経済の支柱産業にするとしており、そのために①公有制と民族文化を主体とする②海外から有益な文化を吸収する③国際競争力を増強し、世界文化において中華文化を開放する―を推進するとしています。

文化産業の支柱産業化について、中国国内での最近の動きをいくつか紹介しましょう。

■2011年7月、中国科学出版集団有限責任公司、人民郵電出版社、電子工業出版社などが連合して中国科技出版伝媒集団有限公司を設立するなど、文化産業の大規模化、集約化、専業化が矢継ぎ早に急ピッチで展開

■国家として今後五年以内に200社の文化企業の株式上場を支持

■2010年、全国20余の省・直轄市・自治区で「文化大省」戦略を提唱

■2011年、上海で、香港に続く中国2番目のディズニーランド建設に着工

■2011年10月時点で、全土に一千余の文化産業基地(園区)、数十のアニメ基地、数千のアニメ企業、50余アニメ・フェスティバルが存在

注目すべきなのは、日本のアニメがこれまで一貫して中国で人気を博しており、例えば、中国各都市で対中投資の勧誘のために来日するミッションのほとんどが、アニメ関連日本企業の誘致に積極的である点が指摘できます。

■日本関連では、例えば、ウルトラマン(『大怪獣バトル』『ウルトラ銀河伝説』)が5月に公開され、上映1カ月余で、中国で公開された日本映画の興行収入記録を更新。また、北京市朝陽区にオタクカフェが誕生。

文化産業の育成・発展は、経済発展への貢献もさることながら、5000年に及ぶ中国文化に対する人民の自信、誇りを再確認し、その海外展開で中国に対する理解を促進させるなど、中国のソフトパワーを内外で発揮できるという効果も期待できるわけです。

文化産業の海外進出に勢い

文化産業の「走出去」には、文化作品の海外展開(公演)、文化交流、文化関連製品の輸出入なども含みます。中国文化への国際理解の向上に大きな期待がかかっています。最近の状況を見てみましょう。

■現在、148カ国と文化協力協議を締結。近年、中仏文化年、中露文化年、中日文化体育交流年などの開催を通じ文化交流を活発化している。

■2004年から2010年まで約80カ国・地域に630の演劇団を派遣、3万3000公演を実施。『雲南映像』と呼ばれる独特な舞踊等、中国文化の水準の高さを誇示した。

■350余の孔子学院が海外展開。孔子学院は、中国文化センター(2011年9月現在、海外9カ国・地域に設置)と共に中国文化の普及、中国文化ソフトパワーの発揮の最前線に位置付けられている。

■2010年、海外での中国映画フェア 100回実施。

■図書版権の輸出が増加。2010年の輸出入比率は、2005年の輸出1に対し輸入7であったが、2010年には1対3に縮小している。

■2011年10月1日、ニューヨーク・タイムズ・スクエアの巨大液晶画面に孔子の動画などが映写され、米国民に中国のイメージを強力にアピール。

■2010年、日中合弁の中国出版東販株式会社が東京に設立。また、2011年、『サンザシの樹の下で』『唐山大地震』『Shanghai(諜海風雲)』『南京!南京!』など中国映画(日中合弁を含む)が矢継ぎ早に上映されるなど、日本で中国文化関連企業や作品の対日展開が話題となった。

■投資総額10億ポンドの中国テーマパーク(中国では世界初)が2011年末に英国で申請される見通しと報道(人民網2011年8月18日)。いつの日か、ミッキーマウスやドナルドダックのような世界的キャラクターが中国から出現することも期待できる。

ある韓国発TVドラマの放映を契機に、日本で韓流ブームが起こり、韓国のイメージが大きく向上、今では、韓国発ドラマや韓国歌手やグループが出場する歌謡ショーがTVで日常茶飯になりましたが、中国文化産業の発展と海外展開により中国のソフトパワーが発揮されれば、例えば、海外のビデオショップで中国映画・アニメ作品を借りる人が増え、中国映画の入場券を買うために長蛇の列ができるということです。今回の『決定』の真意の一端は、突き詰めれば、中国文化が世界の日常生活でより認められるという点にあるといっても過言ではないでしょう。

最後に、都市化が進む中国にあって、都市がその過程でどんな都市文化を作り上げてゆくのか、大いに注目したいと思います。世界における中国のプレゼンスが向上する昨今、中国発の文化は、今後世界に急速に浸透してゆくものと考えられます。

その発祥源は都市にあることは想像に難くないでしょう。昨年、開催された上海万博のテーマは、「より良い都市、より良い生活」でしたが、中国の都市化の進展は、正に、中国文化の発展と中国ソフトパワーの行方を見る視点となるのではないでしょうか。

 

(財)国際貿易投資研究所(ITI) チーフエコノミスト 江原規由

1950年生まれ。1975年、東京外国語大学卒業、日本貿易振興会(ジェトロ)に入る。香港大学研修、日中経済協会、ジェトロ・バンコクセンター駐在などを経て、1993年、ジェトロ大連事務所を設立、初代所長に就任。1998年、大連市旅順名誉市民を授与される。ジェトロ北京センター所長、海外調査部主任調査研究員。2010年上海万博日本館館長をを務めた。

 

人民中国インターネット版 2012年1月29日

 

 

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