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重慶市銅梁県 人々の希望を託し 新年祝う龍の舞い

魯忠民=文・写真

龍は中華民族のシンボルであり、中国人が暮らす土地には、あまねく龍舞がある。さまざまな龍舞の中で、重慶の北西部、銅梁県のそれは格別に注目されている。

火花が散り、龍が舞う。人々は歌で神霊を招き、舞いで龍の様子を真似られると信じている

銅梁県では、県内26の郷と鎮のすべてに龍舞がある。1980年代以後、銅梁の龍舞は発掘、重視され、国内外の祝典イベント、コンテストに千回以上も参加しており、何度も優勝している。1984年の新中国成立35周年、1999年の50周年、2009年の60周年と、北京での大型祝賀イベントに参加し、2008年北京五輪では、開会式前のパフォーマンスにも出演している。同時にイギリスやフランス、米国、日本、オーストラリアなどへ赴き、中外文化交流に参加している。2006年、「銅梁の龍舞」は、第一陣の国家レベル無形文化遺産リストに登録された。

◆火花に舞い上がる龍

旧暦1月15日の「元宵節」、龍舞を見るために銅梁に向かった。けれど、銅梁の各地では、ほぼ同じ日に龍舞が行われ、どこへ向かうか迷うほどだった。現地の文化館の宗館長によれば、銅梁の龍舞は「龍舞」と「灯舞」に分かれ、あわせて25種類がある。「龍舞」は「大蠕龍」「火龍」「競技龍」「稲わら龍」「ハス龍」など12種、「灯舞」は「登龍門の鯉」「もち団子を食べるドジョウ」「カボチャをかじる豚」「月を仰ぎ見るサイ」など13種がある。また、もっとも銅梁の龍の特色を示すことができるのは「大蠕龍」と「火龍」だという。

銅梁博物館に所蔵されている龍の道具には、銅梁の龍の輝かしさが刻まれている

折りよく文化館が組織する龍舞隊が、隣県の永川区陳食鎮で火龍のパフォーマンスを披露することになり、宗館長に薦められて同行した。龍舞隊は溶かした鉄を撒く担当と龍舞の踊り手、あわせて30人余りから成り、道具や衣装、クズ鉄を溶かす坩堝、材料なども一緒に載せ、二台のバスで出発した。  百㌔余りの行程の間、文化館で龍舞出演を担当する張名鑫隊長と雑談をした。張隊長はもともと劇団で、「川劇」(四川省の地方劇)の武生(アクションを専門とする男性)を務め、基本の技に優れていた。そのうえ勤勉で、有名な親方に教えを受けたことから、やがて龍舞の達人となり親方にもなった。もとの親方は、国家レベルの龍舞芸能の伝承者だが、張隊長も市レベルの伝承者となっている。銅梁の龍舞の国内外への進出を目指し、龍舞の踊り方の振り付けにも参与した。伝統的な龍舞の踊り方は、2、3種しかなかったが、多年にわたる努力で、伝統の方法をふまえ、20種以上の踊り方を整理・編成した。張隊長によれば、今回のパフォーマンスに参加する隊員のほとんどが、ある中学校の生徒で、一年生から3年生まで、すでに3年間ほど練習しており、毎年、20か30回ぐらいの出演の機会がある。現在、県内では、龍舞の訓練を受けた企業、事業体の従業員と大学生、小・中・高校の生徒は一万人を超えている。うち、パフォーマンスに参加できる隊員も千人近くになるという。

龍舞隊はある場所に到着すると、慣例に従いまず街を巡り、人々の歓迎を受ける

陳食鎮のある小学校の運動場では、人々が「元宵節の夕べ」の会場を設営していた。龍舞の隊員たちは下車後すぐ、準備作業にとりかかった。隊員のうち八人が溶かした鉄を撒く役となる。四つの小さな坩堝が空き地の四隅に置かれ、二人ずつがその担当になる。53歳の羅明徳さんは「龍舞の郷」と言われる高楼鎮の出身で、鉄を溶かすこともでき、龍舞もできる。息子さんは今年28歳で、今回は親子揃っての出演になる。炉の下で木炭を焼き、廃棄された鍋や鉄を坩堝に入れ、約一時間かけて、5㌔ほどの鉄を溶かす。撒く時は、長いやっとこで竹の柄杓を挟み、猛烈な熱さの溶かした鉄を汲んで上空へ撒く。もう一人がそれを空中で木の板で叩くと、鉄の火花が飛び散り、花のような雨となって、壮観極まる。

踊り手の若者たちは衣装を着、道具を準備する。火龍の道具は、頭、首、胴体と尻尾の四部分からなる。うち、頭、首と尻尾は、「硬棟」と呼ばれる木の固まりで、胴体は複数の「硬棟」で構成される。頭と首の間、首と胴体の間、胴体の各部分、および胴体と尻尾の間はすべて綿布でつながり、「軟棟」と呼ばれる。隣接の「軟棟」と「硬棟」をあわせて一節といい、普通は二㍍ほどの長さ。そこに竹の棒をつけ、一人が操る。龍舞には9人が必要とされ、そのほかに龍に向かって龍の珠を掲げる役がおり、全体の中心となって指揮を担当する。

鉄を溶かし、火花の準備をする

火龍の特色は、「火花」の組み合わせにある。火花は「干し花」と「水花」の二種類ある。「干し花」は木炭、硝酸カリウム、硫黄を主要材料とし、鉄の屑やセミの殻、乾燥させた黄泥を補助的な材料とする。これらの材料を一定の比例で粉に挽き、よく混ぜてから火薬を作る。またモウソウダケを短い筒に切り、容器として火薬を詰めたものを、「筒花」と呼ぶ。「水花」は、前述の「溶かした鉄を撒く」ことである。

目の前の龍舞の現場に観衆がびっしりと集まっている。夜のとばりが下りると、一列に並んだ火筒から火花が上空へあがり、銅鑼や太鼓、チャルメラが一斉に鳴り、上半身裸で揃いの黄色い鉢巻きを結んだ若者が二匹の龍を挙げて駆けだしてきた。龍の胴体の節にはそれぞれ火筒が取り付けられ、高い火柱を噴出している。このとき、四隅で待っていた男性が溶かした鉄を上空へ振りまき、一面の火雨が降った。鉄の火花が散るごとに、観衆はどよめくが、踊り手たちはすこしも恐れず、勇敢に進む。二匹の龍は、火花と煙の中で舞い上がり、勇猛な勢いが人々の心を揺り動かす。

 

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