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日系企業を待つ環境保護市場 空気清浄機に人気が集まる

 

陳言 コラムニスト、日本産網CEO、日本企業(中国)研究院執行院長。1960年生まれ、1982年南京大学卒。中日経済関係についての記事、著書多数。

「空気清浄機の販売量は毎月、増加している。このトレンドは、今後も長く続くだろう」と、上海、北京の家電販売店などを回った松下電器(中国)有限公司(パナソニック)の鶴岡克師販売部長は、心強く思った。

空気清浄機市場では日系だけでなく、ヨーロッパ系、中国国内メーカーも最新の技術を競って、新製品をどしどし売りだしている。価格に限って言えば、日系メーカーの製品は、中国製品の倍以上となっている。それでも日系メーカーの製品は非常によく売れている。  環境問題を最終的に解決するには、汚染源をなくし、またすでに汚染している状況を改善することだ。「公害先進国」また「問題先進国」の日本が、公害を克服した過程、問題解決の手法などが、今中国で注目されている。日本ブランドの空気清浄機は価格が高くても、いままでの日本の公害解決能力を信頼している中国の消費者の人気は衰えない。

「代価論」で説得できない

誰かが言い出した「汚染は発展に欠かせない代価」という言い方に、つい最近まで、一般市民も何となく納得していたが、3月の全国人民代表大会(国会に相当)で、環境問題について質問された代表(国会議員に相当)は、誰一人もそのように答えなくなった。

経済発展を図ってきた今までの30年間、環境問題にまったく手を付けなかったわけではないが、一部の地方政府は、「代価論」で市民を説得し、目に見える収入が増え、家具・家電が増えれば、環境の悪化は我慢してもらえると考えてきた。  しかし、PM2.5の数値を見て、正常値の数倍となり、健康がひどい影響を受けるようになると、「代価論」では市民を説得することができなくなった。また今まで「代価論」をぶち上げてきた人でも、ほとんどの場合、一般市民のひとりとして、汚染による苦しみ、例えば、有毒な地下水、悪い空気などにさらされている。

中国国家環境保護部(環境省に相当)は2月19日、19の省・自治区・直轄市の47市を含む重点制御地域で、火力発電、鉄鋼、石油化学、セメント、非鉄金属、化学工業の6つの重大汚染業種および石炭を使用するボイラーなどの新規プロジェクト、火力発電、鉄鋼、石油化学および石炭を使用するボイラーなどの既存プロジェクトに対して、「特定排出制限値」を定めることを通達した。  上述の政策決定に参画した環境保護部の専門家は、「今度の特定排出値は、国内で最も厳しいだけでなく、国際的に見ても先進的で、高いレベルにある」と語った。  この政策によると、47市は3月1日から、市内で火力発電、鉄鋼関連の環境評価(アセスメント)を行う場合、大気汚染の特定排出制限値を定め、石油化学、化学工業、非鉄金属、セメント業および石炭を使用するボイラーなどのプロジェクトは、その基準値に基づいて運営しなければならない。  既存プロジェクトも、上述の区域では、火力発電所は2014年7月1日からばいじん排出の制限値を順守し、鉄鋼業の焼結設備などは、2015年1月1日から顆粒物特定排出制限値を順守し、石油化学、ボイラーなどのプロジェクトは、排出基準決定後、その特定制限値に基づいて排出しなければならない。

中国では「代価論」がすっかり姿を消し、環境重視へ変化した。

日本の公害克服に信頼感

中国市場で日本ブランドの環境機器が爆発的に売れている要因としては、中国の環境に対する認識の変化と日系企業が先立って研究開発をしていることが挙げられる。

テレビ、冷蔵庫などの一般家電では、日系企業は確かに新機能がたくさんついた製品を出しているが、それほど人気を集めていない。そこで、日系企業は新たな人気製品の開発が急務になっている。「春になると、黄砂がやって来る。その対策として空気清浄機を開発しようと数年前から研究開発チームは黄砂に着目した」と鶴岡部長は言う。そのような製品は完成したが、市場では大してヒットしなかった。

甘粛省蘭州の荒地を緑化し、防砂林整備に協力する日系企業の社員。 2008年4月から、「10年にわたる植林活動」を続けている

その製品は、基本的に日本で売っている空気清浄機と一緒で、花粉、カビ、臭いなどを除去する機能を中心としていた。花粉は中国ではほとんど注目されないし、カビは中国の北方では日常生活でほとんど見かけない。「一年前からPM2.5関連の報道が多くなり、空気清浄機を出荷したら、今後はたいへんよく売れた」と、紆余曲折を経てヒットした製品に、鶴岡部長は喜びを隠さない。

他社もすぐに追随して来たが、消費者は選択する目を持っている。日系企業が先駆けて作ったことや、日本にも公害がひどい時期があったことをよく知っているからだ。公害を乗り越えた日本、日系企業の環境保護製品は多くの消費者に信頼されている。

PM2.5の完全処理を

「2010年、遼寧省本渓市の製鉄所がコークス乾式消火設備を導入した際に融資した」と、国際協力銀行北京事務所の菊池洋所長は言う。その設備によって、コークス粉塵の飛散などの問題を解決した。「今もいくつかのプロジェクトについて検討している」と、菊池所長は環境関連の融資に力を入れる姿勢を示した。

現在、中国では中央政府、地方政府を問わず、環境改善に真剣に取り組んでいる。また、かつて黄砂問題を解決した決意で、PM2・5問題を完全に処理しようとしている。  1990年代前半、北京の黄砂は日ごとに深刻になり、何度も黄砂の嵐に襲われた。当時の中央指導者は専門家会議を開き、三北(西北、華北、東北)の防砂林建設の資金調達を厳命したという。  その後、三北の防砂林建設は速やかに推進され、ただちに効果があらわれた。1990年代中期以降、北京における毎年の黄砂の日数とその深刻な状態は大幅に改善され始めた。

そのため今回、李克強党中央政治局常務委員・国務院副総理(当時)は1月15日、「中東部地方の広範囲かつ長時間の濃霧は、あらためて警告している。生態破壊という代価を払って、生産、建設、消費を増進することはもう不可能である」と、環境重視を強調した。

中国株市場でも変化が現れ、スモッグのひどかった日に環境保護に関連する株はそろって値を上げた。1月14日、PM2.5検測、空気検測、空気浄化装置、SO2、NOX処理工程、廃棄ガス処理工程、ばい菌抵抗マスクなどの関連株はストップ高を記録した。

国の経済政策は環境を重視し、株式市場からの資金調達が比較的容易であり、日本からの技術導入も政策、資金の両面で、スムーズになっている。日本の金融、装置メーカーもこの点について、十分理解している。今後、国際協力銀行などによる数多くの具体的な環境プロジェクトの推進が大いに期待されている。

 

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