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貴州省・台江県ミャオ族の魂が宿る「繍衣」

高原=文 馮進=写真

台江県は貴州省南東部にあり、県内人口の97%はミャオ(苗)族で、「ミャオ族天下一の県」と言われている。「ミャオ族天下一の寨(集落)」と言われる西江千戸ミャオと比べると、台江にはそれほど壮大なミャオ族の集落はなく、吊脚楼(高床式に似た住居)がちらほら山間に点在している程度で、県城(県政府所在地)には、コンクリート製のアパートが並び、ミャオ族の里の特色はまるで感じられない。ただ週末になると、人々が広場に集まり、かがり火を囲んで輪になって、深夜まで笙を吹き、踊りに熱中する。そうした光景を目にすると、歌や踊りが大好きなミャオ族らしさがうかがえる。

貴州省台江県で受け継がれているミャオ族の伝統的な家内錦織り。刺繍、錦織り、銀製品がミャオ族ファッションの三大特色

純銀の鳳凰の冠を仕上げる貴州省台江県施洞鎮偏寨村の女性。ミャオ族の娘が嫁に行く時、純銀細工のアクセサリーで埋め尽くされた衣装をまとい、純銀の鳳凰の冠をかぶる

また、もしあなたが台江で民家に入る機会があれば、彼らが錦織り、刺繍、切り紙、銀細工のアクセサリーを作る様子を見て、初めてミャオ族の手工芸制作の伝統が最も完全な形で受け継がれていることが分かり、「ミャオ族天下一の県」という言い方がうそでないことが分かるだろう。

神話や伝説をイメージ

ミャオ族の娘たちの盛装「繍衣」(刺繍が施された衣装)は精緻に作られ、あでやかで、特に、台江県一帯のものが最高とされ、値段も最も高い。ここの繍衣は「破線繍」と呼ばれる技法で、簡単に言えば、普通の刺繍用の糸1本を8~16分の1にほぐして、刺繍に使う。糸の太さは髪の毛よりも細く、一着の花嫁衣裳を仕上げるに4、5年もかかるそうだ。

偏寨村のミャオ族の女性たちがつけているのはみな手作りのかんざし 偏寨村のミャオ族の娘たちが嫁入りに履く刺繍が鮮やかな布靴

台江県の施洞鎮偏寨村の村長の家で彼が大切に収蔵している一箱の繍衣を見せてもらった。中には年代物の古い繍衣もあれば、奥さんが自ら仕上げた作品もある。一着ずつ白い紙を間に挟んで、大事に折り畳んで仕舞われている。取り出す時も、細心の注意を払って、端をつまんでそっと持ち上げ、絶対に、他人には手を触れさせず、汚れたり、破れたりすることをひどく心配していた。このような繍衣は安く見積もっても一着4、5万元(1元=約15円)の値打ちがあり、古い繍衣になると十数万元以上だそうだ。

地元の人々は、繍衣はミャオ族の娘たちが先祖の魂に見守られて仕上げるものだと考えている。彼女たちは、繍衣を着て盛装すると、先祖の魂が身に宿り、自分と一族を守ってくれると考えている。これらの繍衣の模様は色鮮やかで、抽象的で誇張され、鮮明な巫女(みこ)文化のイメージがあり、ミャオ族の神話・伝説、英雄物語、先祖の生活経験などが記録されている。例えば、繍衣に最もよく見かけるチョウチョウの模様はミャオ族の神話の中の人類の始祖——「チョウチョウ母さん」だ。「チョウチョウ母さん」は水上の泡と恋に落ち、12個の卵を産み、そこから姜央、雷公、龍、虎、蛇、象、牛ら12兄弟が誕生した。姜央はミャオ族の先祖だ。また、龍の模様もよく見られるが、そこにも伝説がある。川に棲む龍が漁師の息子を殺したため、漁師は龍を殺して敵を討った。悪龍の死体は流れに沿って下り、人々は分けて食べた。その夜、悪龍は人々の夢に現れ、杉の木で龍舟を作って川でこぐと、本物の龍のように、地元の天候を順調に保ってくれると告げた。ここから、施洞龍舟節という祭りの伝統が生まれた。龍もミャオ族に非常に喜ばれる架空の動物となり、ミャオ族の神話で、蛇と牛が龍に変身でき、魚やムカデも龍に変身できる。人々が着ている衣類のそで口やスカートにも龍の模様が縫いこまれている。

ミャオ族の娘たちは切り紙で、さまざまな模様を刺繍する型紙を作る

ミャオ族の刺繍糸は天然の植物染料を使って、手作業で染める 

99%の銀にこだわり

ミャオ族は銀細工のアクセサリーが大好きで、ミャオ族の集中居住地はどこでも銀細工のアクセサリーを作る伝統があるが、ほとんどの所で銅やアルミなどの金属を加えるため、完成品の純度が低くなる。そんな中で、台江県施洞地域だけが、中華民国初年(1912年)の初代職人から、銀の純度を99%に保つ伝統を守っている。どこかの家の娘が銅混じりのアクセサリーをつけていると、地元では物笑いの種になるほどだ。施洞ミャオ族はミャオ族の中で銀細工のアクセサリーを最も多くつける支系で、「銀がなければ花もない、それでは娘とは言えない」という言い方もある。祝日になると、施洞の娘たちは髪や体中に幾重にも銀細工のアクセサリーを付ける。重さは5㌔から10㌔にもなる。その重さと煩わしさに耐えることを美とする考え方が人々の心にしみこんでいることがよく分かる。

施洞人の銀に対するこだわりによって、施洞の銀製品製造が一時隆盛を極めた。付近のミャオ族の間で、施洞で銀細工のアクセサリーを作ってもらうのが大流行した。遠くまで知れ渡っている銀細工職人の村・塘龍村には、数十軒の銀細工の店があり、すべて家内工業の小規模工房だ。子どもたちは12、3歳から親について技術を習う。弟子を取ることもあるが、やはり家伝が主流だ。製造するのはおおむね冠、角、花、かんざし、くし、ネックレス、ブレスレットなど。その模様は伝統的な龍、鳳凰、チョウチョウ、魚、鳥、花、果物が多く、ミャオ族の神話、歴史上の人物、神霊などをイメージしたものもよく見られる。

 

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