People's China
現在位置: コラム私のしごと

富裕層の増加で人気急上昇 貴金属・ブランド品の鑑定士

王焱=文・写真

「典当(質屋)」と聞くと、遠い昔に貧しい人を高利で搾取していた店主を想像してしまうだろう。魯迅はかつて「私は、着物や首飾りを自分の身丈の倍もある質屋の高いカウンターに差し出し、軽蔑と共に金を受け取った」と記している。しかし、社会の開放と発展が進むにつれて、一度は廃れた質屋業が復活し再び活気を取り戻しつつある。

裕福な人の利用が増加

邢宏宝さん(39)は華夏典当行民品部の鑑定士で、金や宝飾品、腕時計など貴重品の鑑定をしている。「昔は質屋に通うのは貧しい人でしたが、今では金を買う余裕がある人も質屋を訪れます」と邢さんは語っており、個人客の多くは金を質入するために来店するそうだ。

邢さんが1日に応対する客の人数は5、60人に上る。そのうちの半数の客は、品物を鑑定してもらうだけで、質入はしない。実際に質入に至るケースは1日に20件余りだ

応接室で、客は持参した品物をトレーにのせて鑑定士に手渡す。2人以上の鑑定士により貸付金額を決める。1人の鑑定士が金額を査定し、もう1人の鑑定士がその金額で同意するなら2人とも書類にサインする。邢さんによると「鑑定士たちは、よくカウンターの下で電卓を使って話し合っていますよ」

もし客が提示した金額で同意するなら、鑑定士は品物の出所について率直に尋ね、品物の写真を撮って、公安局のデーターベースに登録する。その後、品物に再度封をして保管し、伝票をプリントアウトする。最後に客に貸付金を渡す。

質入による月利は4.7%だ。会社の規定で、返済期日から5日経過しても貸付金の返済がない場合は、質流れ品として質屋で売りに出される。「実際に返済期日を何日か超過することは、よくあります。貸付金を回収する時に支払われる利息が、店の主な収入源です。質入の品物が実際に流れる確率は10%以下です」

腕時計を鑑定している邢さん。カウンター内ではいくつもの計算機が用意されている

鑑定士は質流れ率をかなりの程度調整できる。「もし、宝石会社が宝石を質入するならば、相手が請戻ししないことを期待して、宝石の価値に見合った高い金額をつけます。そうすれば質流れ率は約5割になります。当店の販売部のカウンターには、いつも新しいデザインの宝石が並んでいます」と邢さんは語った。

失敗を糧に眼力を磨く

邢さんは、2008年に華夏典当行に就職した。「就職後、ベテランの先輩が鑑定している時に、私は彼の後ろに立って、客とのやり取りを聞きながら覚えました。客がいない時には、先輩に教えを請いました。最初の1カ月は全く何も分からず、何も質問することができませんでした。2カ月目になってようやく業務上のポイントやアイデアを尋ねることができました」

3カ月経っても、邢さんはルーペを手渡したり、用紙類の補給といった雑務ばかりしていた。「仕事を終えると、宝石店や中古市場に行ったり、またネットなどで品物の相場を勉強しました」。邢さんは南京大学の地質学科を卒業しており、玉石類に詳しかった。彼は約1年後に、玉石類の鑑定を担当し始め、その後2年の学習を経て腕時計の鑑定を一人で行えるようになった。

しかし、鑑定士も時には品物の価値を見誤ることもある。ある日、パネライ(PANERAI)の腕時計を持参してきた客がいた。邢さんによると「その腕時計は中国では珍しく、市価は約4万元でした。専用ケースや保証書類もすべて揃っており、特に不審な点なども無かったため、1万5000元の値段をつけました。でも、この評価が後に大きな損害につながりました」

約1カ月後、この腕時計は質流れ品となった。会社の規定で、売りに出す前には再度品物を鑑定する必要がある。ベテランの鑑定士による再鑑定で、不審な点が見つかった。時計店に持参して分解検査をしたところ、この腕時計のムーブメントの型番が、同じ腕時計の旧モデルの型番と一致した。「この腕時計はただの偽物ではなく、正規品の旧モデルのムーブメントを使った精巧な模倣品でした。製作費用もきっと数千元はかかっているに違いありません。専用ケースと保証書類はどこかで購入したものでしょう」

業務上のリスクを減らすため、邢さんが勤める華夏典当行公司では、鑑定士のグレードを10階級に分けて、各々の階級で査定額の上限を定めている。1級と2級は助手なので金額査定はできない。3級から7級では、5000元から8万元までの査定額をつけられる。8級と9級では、数万元から十数万元まで扱うことができ、最高となる10級は首席鑑定士で、もっと大きな金額の査定を担当する。査定額のグレードは専門分野も関係している。「玉石では、私の査定できる最高額は15万元で、腕時計では8万元です」と邢さんは語った。

業界発展で人気職種に

ここ数年で、質屋業界は急速に発展している。一例として邢さんが就職した頃、華夏典当行の支店はわずか一店だったが、現在では十数店も構えている。業界が活気づくにつれて、鑑定士たちの需要が急増している。もし鑑定士を大変安い報酬で雇っているなら、彼らはすぐに別の会社に引き抜かれてしまう。

邢さんによると、「華夏典当行公司では、大卒で就職後、2年から3年で4級か5級の鑑定士になることができ、税引き後の月収は5000元から8000元です。6級か7級にもなると支店長になることができ、月収は1万元を超えます」

「質屋は、貴重品をすぐに現金化したい人にとって非常に便利です。一般市民が裕福になるにつれて、鑑定士の将来性もさらに明るくなっています」。そして、「現在、鑑定士の業種では国家職業資格証書がありません。でも今、業界では全国的な鑑定士の等級資格制度を整備しているところです。今後、鑑定士を目指す人は、より規範化された養成教育と検定を受けられることでしょう」

 

人民中国インターネット版

 

同コラムの最新記事
富裕層の増加で人気急上昇 貴金属・ブランド品の鑑定士
高学歴生かし日本で活躍 鋳造部品の精密技術者
働く女性のストレス解消 スキンも心もエステティシャン
時間厳守はアイデア勝負 宅配便の配達員
マイカー増で教習生も増加 適性重視の運転指導員