現在位置: Home>中日交流
里帰りした鉱物顔料

 

チューブ絵具は即席文化

 

「岩彩画」日本画家・市川保道『西山』

王雄飛は杭州の中国美術学院国画学部で学び、彩色細密画を専門としていた。一九八九年、彼は日本に留学し、多摩美術大学で加山又造、上野泰郎、市川保道、中野嘉之ら著名な画家の指導のもと、日本画を専攻した。

 

ある日、作品講評の授業の後、加山又造はこう言った。

 

「中国文化は豊かで深い。日本は中国絵画の精華を学んだ。古代の中国は、あんなにすばらしい鉱物顔料を使っていたから、敦煌壁画のような傑作が誕生した。ところが、現在、中国の画家のほとんどは、チューブ入りの絵具を使っている。あれは『文化のインスタント食品』であり、幼稚園の子供や家庭主婦が絵を勉強するときに使うものだ。中国では多くの美術学院や画院、美術機構があるのに、鉱物顔料を研究する人は一人もいない。こんなにすばらしいものが途絶えてしまったのは、実に惜しい」

 

この言葉は、王雄飛に衝撃を与えた。そして彼は、重い使命感を覚え、密かにこう決意した。「東洋の色彩絵画の現代的な考えと技法を持ち帰り、中国ですでに失われた鉱物顔料を再び発掘し、整理しよう」

 

留学を終えた後、王雄飛は日本で有名な画材店の日本画材研究部に入り、岩絵具の開発を学んだ。そして何度も試練を経て、ついに優れた鉱物顔料の製法を身につけたのだった。

 

4000種以上を開発 1991年、王雄飛は帰国し、日本のある画材会社とともに北京に「天雅中国重彩岩彩画研究所」を設立し、鉱物顔料の開発を始めた。彼は中国各地を駆け回り、各種の鉱石を採集した。中国の国土は広く、鉱物資源が豊かだ。彼は16年間、たゆまぬ努力を重ねて、すでに4000種類以上の、粒子の大きさの異なる鉱物顔料を開発した。その種類と品質は、世界水準に達している。これが「中国岩彩画」という新しいジャンルを生む物質的基礎を定めたのである。

 

「岩彩画」兪旅葵・『記憶の堆積』

「『岩彩画』とは、広義で言えば、広く鉱物顔料を主な色彩とするすべての芸術作品を指しています。また鉱物顔料を使ったイーゼル・ペインティング(絵画)、インスタレーション・アート、パフォーマンス・アート、映画・テレビ作品などの芸術形式も含まれます。狭義では、粒子の大小の異なる鉱物顔料で表現する絵画作品です」と王雄飛は定義する。

 

「岩彩画」と油絵、木版画、銅版画などとの違いは、材質において根本的に異なるだけでなく、中華民族の優れた伝統文化を継承しているところにもある。さらに「色のついた中国絵画」という理念を提起したことによって、水墨画を主体とする伝統中国画の狭い思想を広げた。

 

しかし王雄飛は「中国の『岩彩画』は日本画と同じ材料を使っているにもかかわらず、大きな違いがある」と言う。第1に、中国の「岩彩画」は、より深く中国文化に根をおろしている。第2に、中国伝統絵画の趣きや気品をいっそう強調している。第3に、線と平面との関係を際立たせている。第4に、敦煌の壁画の様式との相互関連を重視している、というのである。

 

国も積極的に支援 中国政府は「岩彩画」の発展を大いに支援した。1998年から文化部(部は日本の省に当たる)所属の中国芸術科学技術研究所が「中国重彩岩彩画高級研究班」を開催し、王雄飛が日本留学経験者たちを集めて教師陣を結成した。彼は自分の指導教官であった市川保道、上村淳之、上野太郎ら著名な日本画家を毎年、中国に招き、講義をしてもらった。

 

これまで21回の「高級研究班」が開催され、学生は千人近くに達している。「高級研究班」が育てた学生には、中国の各美術学院や大学の教師、学生、各地の美術家協会の主要担当者もいるし、画院の専任の絵師やプロの画家などもいる。なかでも一部の大学の教師たちは、大学に帰って「岩彩画」を教える活動を展開した。

 

1998年、第1期の「高級研究班」が開催されたとき、王雄飛が編集した『最新重彩岩彩画技法』が出版された。これは中国の「岩彩画」に関する最初の啓蒙教材である。2004年、王雄飛、兪旅葵が共同編集した『鉱物色使用手冊』が出版された。この本は、二人の十数年来にわたる研究と教学の積み重ねによる知識と経験を集めたものである。鉱物顔料の発色原理について、さまざまな角度から詳細に研究し、論述し、鉱物顔料の使用技法について比較的全面的にまとめ、総括している。

 

このほか、「岩彩画」事業の発展と交流を促すために、二人は『重彩岩彩画学報』『岩彩芸術』などの雑誌を創刊し、交流を広げている。

 

王雄飛は『美術観察』雑誌社とともに「中国画色彩問題シンポジウム」を主催し、全国から百人近い理論家や画家を招いて、講演や討論を行った。2001年には、中国美術家協会主催の「第1回中国岩彩画展」が北京の中国美術館で開催された。今年4月には、第5回が開催されて、美術関係者や見物人が殺到した。毎回、展覧会に出品された作品も出版されている。

 

中国美術家協会主催の「第4回中国細密画大型展覧会」では、「岩彩画高級研究班」の学生が描いた「岩彩画」の作品のほとんどが入選し、受賞した。全国的な大型展覧会で、「岩彩画」の作品が数多く受賞したのはこれが初めてだった。これを機に、美術界で名を揚げた受賞者たちは、後のさまざまな全国的な大型展覧会でも、頻繁に入賞し、「岩彩画」はますます注目されるようになった。

 

これまでの「岩彩画」展覧会に出品した人は、最初はほとんど日本留学の画家と「高級研究班」の学生たちだったが、いまでは全国の各主要美術学院や大学の教授たちにも広がった。「岩彩画」事業はすでにある程度の発展を遂げたと言える。

 

各地の学院や大学で、「岩彩アトリエ」や「岩彩画」の講座が盛んになっている。各地の美術家協会は続々と「岩彩画」の講習会を開いている。中華民族文化促進会は「岩彩芸術研究センター」を設立し、「岩彩画」の雑誌を発行したり、「岩彩画」展覧会を開いたりしている。

 

「岩彩画」は、中国経済の発展とともに、更なる発展を遂げていくことだろう。 (魯忠民=文・写真)

 

人民中国インターネット版

 

 

   <<   1  2  


人民中国インタ-ネット版に掲載された記事・写真の無断転載を禁じます。
本社:中国北京西城区百万荘大街24号  TEL: (010) 8837-3057(日本語) 6831-3990(中国語) FAX: (010)6831-3850