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いちばん大切なこと

文=ジャスロン代表 笈川幸司

先日、ある若い日本語の先生に、こんな質問を受けました。

「笈川先生の学生だけ発音が違うし、話す内容が違います。いったい、どうやって教えられているんですか?」

以前、何度か特訓クラスを見学にいらっしゃった数名の先生方の感想から、わたしの指導法、そして、学生に、「何を話せば有効なのか」を意識させる点が違うということがわかりました。

冒頭から、自慢話を披露するような展開になってしまいましたが、どうぞ誤解しないでください。本日、わたしは「俺ってすごいんだぞ!」と皆さんにアピールをしたくて文章をしたためているのではありません。実は、最近わたしが感じた、指導よりもっと大切なものがあるということを、これからお伝えしたいと思っています。

携帯メールたった一本が、その学生の人生を変える。

実際、わたしの教え方は、基本的に十年前とそれほど変わっていません。もちろん、経験を積んだ分、より効果的に指導できるはずなのですが、学生の伸び、上達のスピードを考えた場合、ある時期の学生の方が、今よりも確実で速く上達したという感覚を持ち合わせています。

では、その時期、わたしが何をしたかと言いますと、授業が終わったときに、たった一通ですが、彼らに携帯メールを送っていたのです。「今日は元気がなかったね」「今日はびっくりするほど上手だったよ」などなど。

翌日、ひと晩で急激に上達した学生たちの姿に驚きました。しかし、それが数年続き、その驚きも当たり前に感じられるようになりました。

ところが、多忙を言い訳に、その後たまにメールを送らないときがありました。そういうときに限って、学生たちの上達に急ブレーキがかかっている状況を目の当たりにするようになり、初めてわかったのです。

それは、「いちばん大切なのは、教え方ではない」ということです。

厳しい指導、厳しい訓練をしたあと、極端に心の強い学生なら何とかついてこれるでしょう。しかし、落ちこぼれそうになった学生、落ち込んでしまった学生を救えるのは、厳しい指導や訓練ではありません。教師やコーチが訓練中に学生たちに対する励ましの言葉を口にしないのは論外で、それらは訓練中に連発するべきです。「もうやめましょう」と学生たちに言われるくらい言っても問題ありません。しかし、それだけでは足りません。

そんな彼らを救えるのは、授業が終わった後の心遣いです。教師、或いはコーチはこれを忘れないこと。また、これを続けていけば、あなたも、良い教師、良いコーチになれると、わたしは信じて疑いません。

 

笈川幸司

1970年埼玉県所沢市生まれ。元衆議院議員公設秘書。元漫才師。

2001年に北京に来て、10年間清華大学、北京大学で教鞭を取る。10年間、中国人学生のため、朝6時に学生とのジョギングから始まり、夜中までスピーチ指導を無償で行い、自ら日本語コンテストを開催、中国全土の日本語学習者に学ぶ機会を提供している。また、社会貢献をすることで、日本大使館、日本国際交流基金、マスコミ各社、企業、日本語界から高い評価を得ている。2011年8月から2012年7月までの一年間、中国540大学で11万人の日本語学習者を相手に「日本語の発音、スピーチの秘訣」についての講演を実施する予定。「ジャスロン日语学习沙龙」のホームページ:http://neo-acg.org/supesite/

 

人民中国インターネット版 2011年8月19日

 

 

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