大逆転の講演会~深圳講演会
ジャスロン代表 笈川幸司
受け入れ校との連絡は、毎回本番1、2週間前に、雑誌《一番日本語》の編集・劉宇光先生がしてくれている。今回は12月ということもあって、広東省の各大学では期末試験を前に、どの大学も準備に手が回らず、快く受け入れられない状況が多かった。
「いやあ、正直なところ無理なんですが、笈川先生が直々にお電話をくださり心から感動しましたので、急遽、学長を説得し、講演会実施に踏み切りました」(広州珠江職業時術学院 趙鉄柱主任)
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講演が始まったばかりのとき、会場はぜんぜん盛り上がっていなかった |
実は、深圳大学もその中のひとつだ。こちら側の希望は「16日に深圳」だったが、その日、先方の都合が良いとは限らない。いや、ほとんどの場合、都合が悪いに決まっている。受話器の向こうで困惑する王洋主任の様子に気づいたので、「では、また来年参りますので、そのときはいかがでしょうか」と提案すると、「いや、次回があるかどうかわからない。うちの学生は夏休みに北京に行って先生の特訓を受け、お世話になっています。えー、実は、明日の夜(15日)、校内スピーチ大会があります。その後、お願いできませんか」とのお返事。今回の講演会実施が決定したのは、前日の夜中だった。
広州での講演を終え、駅へと走り、急いで高速鉄道に飛び乗って深圳へ向かった。深圳駅には、ふたりの特訓班メンバー、いわゆる「笈川老師的弟子」が迎えに来てくれていた。そこからすぐ地下鉄に乗り換え、最寄の駅に着くとタクシーに乗って会場に向かった。到着したのは夜9時前だった。
間もなくしてスピーチコンテストが終了し、表彰式を終え、わたしの講演会が始まった。会場には、6時半から座りっぱなしの学生たちが疲れ切った表情で待っていた。ここから更に一時間半の講演を聞かなければならないなんて、おそらく彼らは生き地獄だと思ったに違いない。
「みなさん、元気ですか!?」「はあ~い」
力ない声が会場にこだまする。しかし、王洋主任から「笈川先生なら大丈夫。信じていますから」というアツイ励ましを受けた。もう、逃げ出すことはできない。
しかし、誰がやっても駄目だろうなあ、何をやっても駄目だなあ、と思うことがある。そんな瞬間がやってくるたびに無我夢中で闘うわけだが、今回は、一難去ってまた一難、息のつける状況ではない特別な回だった。
振り返ってみると、日本語講演マラソンを始めてからずっとそうだ。ごくたまに大歓迎の声援に後押しされて舞台に立つとき以外は、ほとんどが紹介を受けて舞台に立つときに聞こえるまばらな拍手によって、わたしへの期待度の薄さが伺える。
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講演がおわり、学生たちから拍手喝さいをいただいた |
ラッキーがラッキーを呼び、最終的に拍手喝さいをいただいたが、そんな幸せな結末を最初からイメージできるはずもなかった。
王洋主任も董国民副主任もたいへん喜んでくださったが、今回は気力が最後まで続いてラッキーだったし、誰よりもヒヤヒヤしたのはわたし自身だった。
今回も含めて毎回感じることだが、自分のためとか、自分の明るい未来を感じた瞬間に、暖まってきた空気が一気に冷え込み、すべて台無しになってしまう。
ところが、ここに来てくれている学生たちのためと思って闘っている間は、誰も邪魔立てしてこないし、ラッキーなことが次々と起こる。「今日の講演は成功したな!」と思ってメールボックスを開けてみると、100通以上来ている。どれもうれしいコメントばかりで、ついつい夜更かしをして返事をする。
北はハルピンから南は広州まで、どこへ行っても喜んでもらえる講演をするというのは非常に難しい。重点大学と呼ばれる大学に行く場合もあれば、勉強する習慣のない学生たちが集まる会場もある。話すタイミングに気をつかうだけで済む問題ではない。ただ、日本語講演マラソンを通してわかってきたのは、こちらが本気で話せばわかってもらえるということ。もし、講演会が失敗に終ったなら、それはそこにいた学生たちが悪かったのではなく、100%わたしのせいだっただけだ。
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笈川幸司 |
1970年埼玉県所沢市生まれ。元衆議院議員公設秘書。元漫才師。 2001年に北京に来て、10年間清華大学、北京大学で教鞭を取る。10年間、中国人学生のため、朝6時に学生とのジョギングから始まり、夜中までスピーチ指導を無償で行い、自ら日本語コンテストを開催、中国全土の日本語学習者に学ぶ機会を提供している。また、社会貢献をすることで、日本大使館、日本国際交流基金、マスコミ各社、企業、日本語界から高い評価を得ている。2011年8月から2012年7月までの一年間、中国540大学で11万人の日本語学習者を相手に「日本語の発音、スピーチの秘訣」についての講演を実施する予定。 「ジャスロン日语学习沙龙」のホームページ:http://neo-acg.org/supesite/ |
人民中国インターネット版 2012年3月19日