People's China
現在位置: 連載笈川講演マラソン

新米教師に伝えたい~蘇州講演

ジャスロン代表 笈川幸司

3日間看病してくれた妻は、精神的にも体力的にも相当きつかったことだろう。実は、出発する直前、彼女は蕁麻疹を患い、二回通院していた。

点滴を打ち薬を服用したため、しばらく授乳することができなかった。それもストレスになっていたのかもしれない。薬をやめた48時間後に母乳をあげられると医者に言われ、その通りやってみたが、以前のように出なくなってしまった。

わたしは、久しぶりに外に出た。3日間ほとんど運動をしてこなかったので、炎天下の下、散歩するだけで体力を奪われた。ただ、最初は歩けない状態だったのだから、たまにふらつくものの、自分の足で歩けるようになったことに喜びも感じていた。

それで、90分の講演会には出たが、その後の食事会を遠慮させていただいた。体力が持たないからだ。代わりに妻が参加し、常に話の中心になってくれた。こういう、講演とは関係のない、いわゆる目に見えないところで妻に助けられていた。

さて、蘇州大学の会場を使い、今回は二回の講演を実施した。わたしが蘇州でした仕事は、この二回の講演のみ。それ以外は、ほぼホテルのベッドに横たわり、からだ全体を休ませることに気を配った。次の訪問地、上海では朝から晩まで180名の高校生を相手に特訓をすることになっていたからだ。蘇州では、体力を温存させることに気持ちを集中させた。

蘇州の講演会でも、数多くの先生方が見学に来てくれた。これは、ほんとうにうれしいこと。100名を超える学生たちの気持ちをひとつに集中させるという意味では、講演会は授業よりも難しいかもしれない。ただ、学生たちの顔色を見ながら話を進めていくという点では、講演会も授業も同じだ。

そして、つい最近気づいたことだが、教師に必要な素養――それは、漫才で言う「つっこみ」の能力だ。漫才の花は「ボケ」かもしれないが、番組のMCをつとめ、大舞台で活躍しているお笑い芸人の多くは「つっこみ」がうまい。「つっこみ」がうまい人は、その場の空気を操ることに秀でている。そして、この能力を身につけるには普段から高い意識を持つことが必要だが、ライブでの実践がより必要になってくる。つまり経験だ。

昨年末、わたしは自分の講演が軌道に乗るまで80回もの回数が必要だったと書いた。話す内容が同じ場合でも、空気を操る能力がなければ、話はどんどんつまらないものになってしまう。「つっこみ」が、空気を操る近道だと気づくまで時間がかかりすぎたが、一生それに気づかないよりはずっといい。

さて、新米教師に伝えたいことがある。さきほど、わたしは経験が大事だと述べたが、どうやって経験を積んでゆくか。そのことを話したい。

わたしは、北京の大学で日本語教師を11年間続けてきた。しかし、大学での授業は多くない。週に12時間程度だ。もし、新米教師が週12時間しか授業を担当していなかったとしたら、いつまでたっても授業をうまく進めることはできないだろう。わたしが最初に勤めた民間大学では週40時間行った。国立大学に移ってからは授業が極端に少なくなった分、放課後学生を集めて無償トレーニングをすることで経験を積むことができた。

つまらない理屈など口にせず、週40時間の授業を何ヶ月かやってきた先生なら、もうひとつレベルをあげる秘訣を伝えることができるが、それをしてこなかった先生には、どう説明してもそれほど効果がないと思っている。「空気を操る能力」も、「つっこみ」の能力も、すべて才能からくるものではない。これは、週40時間やってきた人にしか理解ができないことだ。

今、見えない世界を本気で見たいと思うなら、一度たったひと月でもかまわない。週40時間の授業をやってみてほしい。

ちなみに、お陰さまで、無理して普段の倍食事をしてきた妻の体が、ようやく正常に戻った。

 

笈川幸司のご紹介

 

人民中国インターネット版 2012年6月

 

同コラムの最新記事
南通講演
不公平の先には~無錫講演
常州講演会
可能性が広がった~南京講演会
南京日本語スピーチコンテスト