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福建省泰寧県 幾重に重なる赤い谷 歴史刻む寺院や邸宅

 

劉世昭=文・写真 劉賢健=写真

明け方、霞に包まれる状元岩

北宋の時代、ここは「川を隔てて2人の状元(科挙の最高試験殿試の首席合格者)、一族に4人の進士(科挙合格者)、1本の路地に9人の挙人(郷試の合格者)」といわれるほどに科挙合格者が数多く出た町で、加えて町をとりまいて流れる金渓が、山東省曲阜を流れる泗水と同じように西へ流れる珍しい川であるため、北宋の哲宗(位1086~1110年)が孔子の古里の府号である「泰寧」をこの県の名前として下賜したものである。

泰寧は福建省北西部の山地にあり、県内の丹霞地形(赤い堆積岩からなる切り立った断崖を特徴とするカルスト地形の1種)の面積は252.7平方キロに達し、発達の初期段階にある典型的な丹霞地形である。2010年、6カ所の「中国丹霞」の1つとして、ユネスコの世界自然遺産に登録された。

大量の峡谷が形成されていることが初期段階にある丹霞地形の最も主要な特徴である。幾度にも及ぶ構造運動が複雑な亀裂を生み、さらに水の浸食によって、多くの深い谷をもつ景観が生まれた。ここには80カ所余りの一線天(わずかに天がのぞく谷間)、150余りの細い谷、240余りの峡谷がひしめいている。

断崖上の無数の洞窟

寨下大峡谷は懸天峡、通天峡、倚天峡という3つの相連なる環状の峡谷で、ユネスコの専門家に「地質景観から見ても生態環境から見ても、ここは世界トップクラスだ」と言わせしめたものである。峡谷内には典型的な赤い断崖、洞窟、谷、せき止め湖があり、丹霞地形を観賞するのに絶好の場所となっている。

寨下大峡谷にある天穹岩

懸天峡は水による浸食を受けて形成された峡谷で、内部の断崖には多くの洞窟が形成されている。最も美しく変わった形をしているのが天穹岩である。片側が赤い絶壁の上にもたれかかっていて、直径約20メートルのへこみがあり、その上に大自然によって造りあげられた数百個の大小さまざまな洞窟が、組み合わさったり、入れ子状態になったりしている。

通天峡は深く切り立った峡谷で、その下には水がとうとうと流れている。頭を上げて仰ぎ見ると、霞の中に刀でスパッと割ったような岩がそびえ立っていて、これが通天崖である。その前に立つと震撼を覚え、まるで桃源郷に来たかのように感じることだろう。この通天崖は1993年の山崩れによって出来たものだそうだ。

泰寧の大小さまざまな洞窟は、あまりの多さに数えあげることができない。しかし人類の営みが刻み込まれている洞窟は、一見に値するだろう。歴史という長い河の流れの中で、ここには岩寺文化、隠遁文化なども大いに栄えた。

秦寧の人々は自家製の米酒を飲むのを好み、年越し準備のためにどの家も何百リットルもの米酒を醸造する 秦代にその源があると言われる鬼やらいの舞が、今でも泰寧の山間地区に残されている

宋の紹興16年(1146年)に建設が開始された甘露岩寺は岩穴の中に造られた寺院である。岩穴の高さは80メートル余り、深さと上部の幅は約30メートル余りあるが、下部はわずか10メートルほどの広さしかない。このデメリットを補うために、太い柱を岩に挿し込んで寺の4つの建物を支え、さらに建物の間をT字型の斗拱(斗と肘木を組み合わせたもの)でつなげて、中国建築史上の一大傑作と言われる建築が生まれた。一説では、日本の僧重源(1121~1206年)が3回にわたって福建を訪れ、この甘露岩寺の建築技術を学んだという。重源は当時の福建省周辺地域の建築技術を使い、焼失していた奈良の東大寺大仏殿を再建した人物であり、その様式は「大仏様」と呼ばれている。

1万人収容できる船岩 1本の柱で支えられ、岩穴の中に建てられている甘露岩寺

民間の「紫禁城」

泰寧古城内に明の天啓年間(1621~1627年)に建てられた民居建築群「尚書第」がある。尚書第の建築面積は4500平方メートル余りで、5棟の主体建築と8棟の脇棟、計120間ある建物である。東向きに建てられ、一列に並び、前部に廊下があり、後部には庭園がある、泰寧の伝統的な様式を持つ。この屋敷の主人は李春燁といい、彼は兵部尚書(陸軍大臣にあたる)にまで出世した。

尚書第は民間の紫禁城と言われる 尚書第の主人が住んだ主棟に掲げられた「四世一品」の門額

尚書第の建築はレンガと木と石で出来ている。5棟の主体建築は、中庭が縦に3つ連なる「三進」式の住居で、すべての門額に美しい彫刻が施されている。尚書第は建設時に主人が風水にこだわったため、独得な様式が数多く見られる。主要建築の前にある通路は、門かまちの位置がすべて50センチから1メートルずらされている。このようにすることで「財を漏らさず」「邪悪な風を遮る」ことができると考えられたからである。

2番目にある棟が主人が住んだメーンホールで、門額に「四世一品」と書かれているのは、明の天啓帝が李春燁一族を4代にわたって一品の位に遇すると約したためである。この建築は、尚書第の中でも最も格が高く、最大で、一番凝った美しい装飾を持つ中心的なものである。石・レンガ構造の門を見ただけでも、その素晴らしさがよく分かる。門全体を蓮の浮き彫りのある角材が貫いていて、角材の上のレンガ彫刻を施した斗拱が門の上にある屋根を支えている。角材の下にある石には「状元出行図」「丹鳳朝陽」「天宮賜禄」「天宮賜福」などの浮き彫りや丸彫り、すかし彫りが施され、これらが豪華に建物を飾り立てている。

金湖に舟を浮かべると、水面には果てしなく連なる丹霞の峰が映えている。上清渓の丹霞の峡谷を舟で下ってゆくと、まるで仙人が住む世界に入ったかのような味わいだ。泰寧では、歴史の重みと山水の真髄をたっぷりと味わうことができるのである。

 

人民中国インターネット版 2013年4月19日

 

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