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中国映画の2016年を振り返る

文・写真=井上俊彦

成長神話は終わったのか?

2015年には興行収入440億元を記録し、16年は600億元も夢ではないと鼻息の荒かった中国映画業界でした。実際、春節にはチャウ・シンチー(周星馳)監督の『美人魚』が史上最高となる34億元弱のビッグヒットとなり、『西遊記之孫悟空三打白骨精』『澳門風雲3』を合わせて3作が10億元突破という景気の良さで、「今年も!」と大いに期待を持たせました。ところが夏場からはヒット作に恵まれず失速、結局約457億元という結果(速報値)で、昨年より4%程度の微増に終わりました。700作品以上が審査を通過し、一般劇場公開されたのは500本弱。そのうち10億元突破が9作品だった(『長城』がどの時点で10億元に達したかで今後10本に修正される可能性があります)一方、1000万元以下の作品が全体の7割を占めました。そして、16年も各地でシネプレックスの開業が相次ぎ、スクリーン数が8000から9000増えて全国で4万を突破したとされる一方、1年間の観客数は約13億8000万人で、伸びは10%弱でした。各映画館とも競争激化の中で苦しんでいることが想像されます。

国産映画2位以下は平凡な成績

そんな中で、国産映画第2位は『西遊記之孫悟空三打白骨精』、3位は『湄公河行動』でしたが、それぞれ12億元、11億8000万元と2位、3位としてはやや寂しい数字でした。急拡大を続けてきた中国映画市場もついに踊り場に入ったのか? と感じさせた1年でしたが、年末最後に来て『長城』や『鉄道飛虎』『擺渡人』など立て続けにヒットが出ています。『長城』は年をまたぎましたが10億元を突破しており、人気作品があれば観客は足を運ぶという市場のポテンシャルは証明され、17年への期待はつながりました。

美人魚

擺渡人

 

アニメ躍進、根強いアクション人気

ジャンル別に国産映画の人気動向を見てみますと、昨年からの流れが続いている部分と新たな変化が見られる部分がありました。まず、戦争アクションは相変わらず強さを発揮しています。国慶節時期には『湄公河行動』が大ヒットしましたし、抗日戦争映画のリメーク『鉄道飛虎』も年末に支持を集めました。15年に秀作が続いた犯罪サスペンス分野でも、『火鍋英雄』『追凶者也』など見応えのある作品が登場しました。ただ、優秀な犯罪サスペンスが多かった一方で、CGが自由に使えるようになった現在、差別化のためにより刺激的なシーンを入れようとするのか、残酷な場面が多くなっている印象があります。レーティング(年齢制限)のない中国では、子どもが見る可能性もあります。このあたり、真剣に考えていく必要があると思います。国産アニメでは15年の『西遊記之大聖帰来(西遊記ヒーロー・イズ・バック)』に続いて『大魚海棠』がヒットし、5億元を突破しました。質のの高い作品であれば、アニメでも学生や成人の観客を動員できることが証明された印象です。その分、子ども向けの定番のシリーズ・アニメが次第に勢いを失っているようにも感じます。

一方、最近はアクションやアニメに押されていた感があるのが恋愛映画です。特に青春回顧の恋愛ものは16年も多数作られましたが、夏休み時期にも目立ったヒットはありませんでした。そんな中で、9月に入って公開された『七月与安生』が大変に評判が良く、興行的にも意外なヒットとなり、主演の2女優は映画賞にも輝きました。やはり丁寧に作りこんだ内容があればこのジャンルはまだまだチャンスがあるのだと思います。さらに、国慶節興行ではこれまでとは違った動きが見られました。『従你的全世界路過』がラブロマンスものとして歴代最高のヒットを記録(8億1000万元)したのです。これが転換となって、17年には新たな恋愛映画のヒットが生まれるでしょうか。

従你的全世界路過

追凶者也

ローバジェットにも佳作

興行成績的には目立たないものの、芸術性や実験的手法で話題を集めた作品も多数あった16年でした。ウー・ティエンミン(呉天明)監督の遺作となった『百鳥朝鵬』は、プロデューサーがひざまずいて鑑賞を訴える動画なども話題になり興行的にも成功しました。一方、極めて実験的な『路辺野餐』はSNSで話題になり、一部映画館でロングランされました。私が見た回も午前中にもかかわらずほぼ満員でしたが、ワンカット40分に及ぶシーンなど確かに新鮮なものがありました。ほかにも『長江図』『塔洛(タルロ)』などが高く評価されました。ほかに、このコラムで取り上げた『我的狐朋狗友』『我不是王毛』『黒処有什麼』などユニークな作品がありましたが、どの映画館も同じ人気作を上映する現在のシステム下では、こうした作品は平日の午前中や夜遅くに上映されることが多く、なかなか一般の人の目に止まりません。北京国際映画祭でようやく見ることができた『打工老板』のような社会派の佳作もありました。

そうした中、10月に行われた長春映画祭で、全国芸術映画放映連盟の結成が発表されました。これは全国31の省・市・区の100の映画館が連携して芸術映画を盛り立てていこうというもの。指定映画館では、毎日4回以上芸術映画を上映、このうち週10回はゴールデンタイムに上映するなどの規定が設けられています。私も、以前から単館ロードショーのようなシステムが必要ではないかと感じていましたが、ついに動き出した印象です。映画館の差別化という意味でも、今後に注目したいと思います。

長江図

打工老板

 

ネタ探しはテレビからネットへ?

この2、3年、バラエティー番組をそのまま映画化した作品が観客動員で目を見張る成績を収めてきましたが、そのブームはどうやら去ったようです。今年もこうした作品は作られましたが、以前のように話題にはなりませんでした。

一方で、昨年も指摘しましたが、ネットと映画のリンクが進んでいます。映画館で上映される映画やテレビのチャンネルでオンエアされるドラマの枠は限られていますが、若者の好みは多様化しています。そこでネットムービー、ネットドラマが急速に成長しているのです。各動画サイトが競ってオリジナルのネットムービーを育てようとしており、若くチャンスに飢えた才能が集まっています。17年はひょっとしたらネットムービーに大ヒットが生まれるかもしれません。そうした中で、ネットでのヒットを受けて一般公開作品としてリメークされるものも登場してきました。『微微一笑很傾城』は2億7000万元のヒットになりました。

微微一笑很傾城

印象に残った俳優

16年に話題になった人物としては、ネットドラマで人気となりスクリーンデビューを果たしたチャン・ティエンアイ(張天愛)をトップに挙げないわけにはいきません。1990年生まれと女性俳優としては遅咲きですが、彼女を起用した『従你的全世界路過』は国産恋愛映画としてこれまで最高の興行成績を記録し、彼女も一躍脚光を浴びるようになりました。17年は、最後のパートで紹介しますが『妖猫伝』への出演も決まっています。また、15年に『尋龍訣』で注目されたイエン・ジュオーリン(顔卓霊)は『北京遇上西雅図之不二情書』『六弄珈琲館』『那年夏天你去了哪里』などにそれぞれ異なった役柄で出演しました。

おなじみのところでは、ファン・ビンビン(范冰冰)は『絶地逃亡』『爵跡』などのほか『我不是潘金蓮』で農村女性を演じて新境地を開きました。アンジェラベイビー(楊頴)は『微微一笑很傾城』『擺渡人』などで体を張って頑張りました。ジョウ・ドンユィ(周冬雨)は『謊言西西里』『七月与安生』で観客に広く演技力を再認識させました。ソン・ジア(宋佳)は『陸垚知馬俐』『那年夏天你去了哪里』で新たな魅力を発するようになりました。

男性俳優では、15年に引き続きクリス・ウー(呉亦凡)が『致青春 原来你在這里』『夏有喬木雅望天堂』『爵跡』など多くの作品に登場し人気でした。ルハン(鹿晗)も『盗墓筆記(タイムレイダーズ)』『長城』など大作に立て続けに出演しています。オウ・ハオ(欧豪)は、『(世界の中心で、愛をさけぶ)』のほか『少年』で犯罪者を演じるなど演技の幅を広げています。

以下、目立ったところを列挙しますと、ジン・ボーラン(井柏然)『盗墓筆記(タイムレイダーズ)』『微微一笑很傾城』、ダン・チャオ(鄧超)『美人魚』『従你的全世界路過』、チャン・イー(張訳)『追凶者也』『我不是潘金蓮』『少年』、アーロン・クオック(郭富城)『西遊記之孫悟空三打白骨精』『寒戦2』、エディ・ポン(彭于晏)『奔愛』『危城』『寒戦2』『湄公河行動』『長城』。ベテランのドニー・イェン(甑子丹)は『臥虎蔵龍:青冥宝剣』『葉問3(イップ・マン3)』で、ジャッキー・チェン(成龍)は『絶地逃亡』『鉄道飛虎』で、それぞれ安定した強さを見せました。

我不是潘金蓮

湄公河行動

 

海外作品では日本アニメが目立つ

海外作品は大幅に増えて90作品が公開されたということですが、前年の『ワイルド・スピードSKY MISSION』(約24億元)のような大ヒットがなく、トップはなんとアニメの『瘋狂動物城(Zootopia)』で15億3000万元でした。全体に占める海外作品の興行収入の割合は4割強で、『魔獣(Warcraft)』は中国での興行成績が北米を大きく上回る14億7000万元と、中国の勢いを感じさせるものもありましたが、全体としてはインパクトに欠けました。

そんな中、前年の『哆啦A夢:伴我同行(STAND BY ME ドラえもん)』(約5億3000万元)のヒットを受け、コナン、クレヨンしんちゃん、ちびまる子ちゃんといった日本でおなじみのアニメが中国でも次々公開されました。また実写作品の『寄生獣』『ビリギャル』が公開され、いずれも好評でした。そして年末12月に入ると昨年日本で記録的大ヒットとなったアニメ『君の名は。』が早くも公開され、中国での日本映画興行収入記録を書き換える5億7000万元のヒットとなりました。付け加えておきますと、16年には『世界の中心で、愛をさけぶ』も中国でリメークされています。今後はこうした原作権の販売という形での中日合作が増えていく可能性がありそうです。

你的名字(君の名は。)

在世界中心呼喚愛(世界の中心で愛を叫ぶ)

 

今年は期待作目白押しで再加速か?

17年はハリウッドの人気シリーズ大作が目白押しとなっており、16年は比較的おとなしかった海外勢がまた大暴れしそうです。迎え撃つ国内勢はといえば、春節にはチャウ・シンチー(周星馳)とツイ・ハーク(徐克)が手を組んだ『西遊伏妖編』が公開されます。16年に国産映画興行記録を打ち立てた『捉妖記』の続編も予定されています。最近人気の高い戦争アクションでは『戦狼2』が公開を待っていますし、時代劇アクションでは『狄仁傑之四大天王』も控えています。

そして、コメディーではシュー・ジェン(徐崢)監督・主演の「囧」シリーズが、今度はインドを旅する『印囧』として2年ぶりに帰ってきます。最近俳優として注目を集めたフォン・シャオガン(馮小剛)監督はかつてヒットさせた『手機』をリメークし、今回は自ら主演するようです。また、ニン・ハオ(寧浩)監督も新作を用意しているようです。

中日国交正常化45周年の17年は、日本がらみの作品も注目されそうです。ジョン・ウー(呉宇森)監督がリメークする『追捕(君よ憤怒の河を渉れ)』のほか、チェン・カイコー(陳凱歌)監督の『妖猫伝(空海)』も公開予定となっています。

西遊伏妖編

機器之血 

17年は一気に「95後」の時代に?

最後に注目の俳優について触れておきます。15年から16年にかけては1990年代生まれ「90後」の若手俳優台頭が目立ちましたが、17年はさらに若い「95後」俳優の活躍が期待される年になりそうです。

まず女性俳優ですが、16年に『美人魚』に主演して一躍時の人となったリン・ユン(林允)は1996年生まれ。17年春節時期に公開される『西遊伏妖編』にも起用されています。グァン・シャオトン(関暁彤)はさらに若い1997年生まれですが、すでに人気ドラマに出演するなど認知度も高く、今後は映画への出演も期待されます。実は日本の中国映画ファンにはおなじみで、フォ・ジェンチイ(霍建起)監督の『暖(故郷の香り)』などに子役として出演したキャリアを持つほか、16年の中国映画週間で上映された『左耳(ひだりみみ)』にも出演していました。オーヤン・ナーナー(欧陽娜娜)は「95後」どころか2000年生まれの「00後」ですが、14年の『北京愛情故事』に続いて16年はドラマでも活躍しました。17年は『機器之血』でジャッキー・チェン(成龍)の娘を演じます。シュー・ルー(徐璐)は1994年12月28日生まれですが、中国的おおらかさで(笑)「95後」に組み入れて語ってしまいます。すでに昨年11月公開の『減法人生』に主演、デブメークで奮闘を見せました。今年は『失恋的33天(失恋の33日)』のパオ・ジンジン(鮑鯨鯨)が脚本を書いた『閃光少女』の主演が決まっています。

男性俳優では、16年は『唐人街探案』のリウ・ハオラン(劉昊然)が目に付きました。前出のオーヤン・ナーナーとは『北京愛情故事』で共演しています。すでに演技力に高い評価を得ており、17年には『唐人街探案2』への出演も決まっています。また、アイドルグループTFBOYSのワン・ジュンカイ(王俊凱)は『長城』に皇帝役で出演していますが、アイドルにありがちな顔見せだけの無難な役ではなく、尊大さと卑屈さを併せ持つ皇帝を見事に演じていて驚かされました。今後の映画分野での活躍を予感させます。

※2016年末の為替レートでは、1元は17円弱でした。

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。

1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。

現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

 

人民中国インターネット版 2017年1月5日

 

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