People's China
現在位置: 2010年 上海万博上海万博、縦横無尽

本格的な都市化への転換点に

 

陳言=文

「より良い都市、より良い生活」をテーマとする上海万博は、半年間の会期中に7千万人に及ぶ中国内外の来場者を引き付けた。都市は経済発展の結晶であり、最先端の技術がそこに集中する。万博会場の各パビリオンの展示からはそれぞれの国の過去、現在そして未来を垣間見ることができた。

多くの中国人の来場者は、自国のメーン展示会場のほかに、サウジアラビア、ドイツ、イギリス、日本のパビリオンを目指した。より良い都市づくりに向けた新しい理念、最先端の科学技術、未来の生活へのあこがれなどなど。それは中国人の好奇心を刺激するのに十分で、時には六時間以上の待ち時間にも耐え、ひたすらその見学を待ち望んだのである。

万博会場内で使用された第4世代移動通信システムの「TD-LTE」。中国が自主開発した最先端技術が駆使されている(東方IC)

外国人の来場者は、何はさておき高くそびえたつ赤い中国館を目指した。中国館の待ち行列に並ぶ時間的余裕のない外国人客は、中国省・自治区・直轄市連合館や中国企業の展示館を見て、現代中国にアプローチしたのだった。それは、小説や映画でなじんだ旧来のイメージとはかなり違う中国の今日の姿だった。中国を何度も訪問したことのある人でも、そこでは中国の多様性と将来への展望をより深く理解することになったのである。

大きな変化を展示

万博には中国も1976年から展示品を出していた。しかし、百年間もの間、中国が展示・陳列した物は、玉細工、シルク製品、陶磁器、筆や墨などの文房四宝、家具など農業製品か手工芸製品ばかりだった。農業を中心に発展してきた中国には、世界に自慢できる先端的工業製品がなかったのだ。工業先進国のイギリス、ドイツには遠く及ばなかったし、後に急速に世界の先進工業国の仲間入りをしたアメリカ、日本にも伍することができなかった。

その中国が上海万博では最新の科学技術を駆使したグリーン・パビリオンに新しい生活理念に基づいた展示を行い、先端科学技術を含む産業と生活の全容を開示したのである。

照明一つからもその全容の一角が見えてくる。「万博エリアでは80%以上の夜景に、LED照明が使われています。それだけでも電力を3割以上節減できるのです」と、上海半導体照明エンジニアリング研究センターの熊峰部長補佐は言う。

2009年ごろから中国政府はLED照明の普及を呼びかけてきたが、使用するほとんどの電球をLEDにしたのは、上海万博が初めてであり、「LED技術を集中的に展示しましたので、今後の普及のための大きな契機になるに違いありません」と熊氏は見ている。

万博会場には毎日の飲料水が供給されなければならないが、湯冷ましといった旧来のやり方では、とても十万人単位の来場者の需要には応じきれない。直接蛇口から飲める水道水が、上海万博の実現目標の一つだった。102ヵ所の水飲み場の1172の蛇口から良質の飲料水が提供されることになった。「活性炭+PVC合金超フィルター・シート+紫外線」という技術を使って、細菌の駆除率99.9999%、ウィルスの駆除率99.99%を見事に達成した。水を沸かすのに要する熱源のロスも克服したのだ。万博会場での飲料水供給方式は今後、中国の多くの都市に普及していくだろう。

通信関連の最先端技術、第四世代移動通信システム(4G)も万博会場で使用された。中国の通信社のカメラマンは、TD―LTE技術を使って撮影した内容を無線で送っている。画像はハイビジョン映像だ。

通信関連の技術については、1Gの時代にはネット技術や設備、端末のすべてを輸入に頼ってきた。2Gになって国産化の比率が20%になり、3Gになると、通信関連のチップ、基板、ソフトなどでいっそうの国産化が進み、4Gでは、万博会場内のハイビジョン送信技術で示されたように、中国が独自で開発した技術が使われるようになった。

中国は農業製品や手作業製品以外に、近代的な都市生活にかかわる先端科学技術の面でも国際的な水準の展示品を陳列し、新たなイメージを対外的に示すことになったのである。

世界の都市化を見聞

「ビザなしで世界を周遊するいい方法がある。さあ、上海万博に行こう」という文言は、万博開幕前から中国ではやったキャッチフレーズである。

中国では多くの都市に「ワールド・パーク」と銘打ち、世界の各景勝地をまねて一カ所に集中させたテーマパークがあるが、広さ5.28平方キロメートルのエリアに、世界各国自らその歴史、理念、現況を展示・紹介するのは、上海万博だけである。

陳言

コラムニスト、『中国新聞週刊』主筆。1960年に生まれ、1982年に南京大学卒。中日経済関係についての記事、著書が多数。

サウジアラビア館ではアラビアの歴史だけでなく豊かな近代都市での生活が紹介され、日本館では最先端の映像技術を駆使して、近未来都市の生活と環境保護の取り組みが紹介された。来場者はそうした展示を通じて、これまであまり情報のなかった世界、具体的なイメージが結ばなかった近未来の暮らしを自分の肉眼で見たのである。日本館が展示したのは、きわめて現実的で、4、5年先には、中国の普通の勤労者にも努力しだいでは手の届く現代的な生活だ。

日本製の12インチのカラーテレビを買うには、家族全員が十数年間働いて貯めた金を全部はたかなければならず、買ってしまったあとには次に求められそうな物はしばらくないとあきらめていた30年前の市民とは大きく違う新しい階層の人々がその日本館を参観したのだ。エコ家電でも、省エネの自動車でも、買おうと思えば買える人々が上海万博で各国のパビリオンを参観したというこの事実を世界各国はどれほど理解できているだろうか。

イギリス館は、無数のガラスの管でできたタンポポの外形をしていた。その一つ一つの管に種が入っていることが象徴しているように、万博は7千万人の来場者の心に「見聞」という種をまいたのである。

中国では今、全人口のちょうど半々を都市と農村が占めているが、今後の急速な工業化によって都市人口は増大の一途をたどるだろう。上海万博は中国の現在における都市化を総括したと同時に、世界からその知恵を借り、新しい都市化を目指す契機でもあった。

「万博から始めよう」という掛け声が上海の空に響き、都市化における新しい理念や模索、新たな実験が中国の各地方でもすでに始まっている。都市化の転換点にあたって開催された上海万博は、今後長く人々の記憶に残るに違いない。

 

人民中国インターネット版 2010年11月3日

 

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