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人口と車が急増する首都北京

 

陳言=文

上海の都市事情については今号の特集に詳しいので、首都・北京の都市事情について書いてみたい。

大学を出たばかり、この9月1日から正式に国の研究機構に勤めることになった李偉くんは、勤め先も決まり、北京の戸籍を持つことになったのを何よりも喜んでいる。

北京戸籍を取得できる人の数は、年間70万人ほどである。これは島根県の総人口とほぼ同じぐらいの数だ。しかし、北京で仕事先が見つかったからといって、すぐに北京戸籍が取得できるとは限らない。70万人の数倍以上の人が、北京で半年間以上も住み、ここの住民になりたいものの、北京戸籍はそう簡単に取れないのが現状だ。

2010年、北京の人口はすでに1800万人にふくれあがっている。2020年の人口を2千万人以内に抑えるという政府の目標まで、あと200万人に迫っており、突破することはほぼ間違いないだろう。

もう一つウナギ登りなのは、北京の自動車販売台数である。5年前には一日の販売台数は、「わずか」1000台だったが、今ではほぼ倍の1900台になっている。一日に2000台が売れる日も決して珍しくない。

北京の都市規模は日に日に拡大し、住宅団地が雨後の筍のように建設され、車は増え、繁栄のただなかにあるように見える。しかし、喜んでばかりはいられない。新中国成立当初の400万人から1800万人に増加した人口、この十数年間に爆発的に増えた450万台の車、上がる一方の住宅価格、ますます汚くなる空気……。都市化の問題点が突出しているのである。北京だけではない。都市化が進む中国ではどこでも都市の人口増や車の急増に悩まされている。

人口抑制目標は2千万人

北京の人口の増加は、政府の予測よりずっと速かった。

「1983年、都市建設の企画にあたって、北京市は2000年に人口がおおよそ1千万人に増加するだろうと予測したが、実は1986年にすでに1千万人を軽く上回ってしまった」と当時の都市建設を顧みて、北京社会科学院の梁昊光副研究員は言う。

2020年の人口を2千万人以内に抑えようという北京市の計画は、現在の毎年70万人の戸籍取得者数だけから見ても、その実現は難しい。一日に2時間も3時間も超満員の電車に揺られて出勤するサラリーマンが出現し、ちょっと会議に出席するなどの用件でも会社を出て動けば、数時間は費やしてしまう。交通に時間がかかりすぎるのだ。中国の都市はいつからこんなに時間的、経済的なコストがかかるようになってしまったのだろう。

それでも都会に住みたいというのが人々の本音なのだ。「私は文科系の大学を出ましたので、東北の田舎に帰っても、仕事は見つけにくい。北京の研究機構に勤めれば、安定した収入が得られます。そもそも大学進学の一番の目的は、大都会に住みつくことでした」と李くんは正直に話す。

朝早く起きて郊外の農村に行き、野菜を仕入れて市街区で転売する王夫婦は、北京の戸籍こそないが、今の仕事は安徽省の田舎で農業をするよりずっと楽で収入も高いと語る。この数年で転売先も確保できた。北京で一生暮らしていきたいと考えている。初めは人力三輪車で郊外と市街区の間を往復したが、今は国産の小型トラックを使っている。朝の野菜売り渡しが終わると、昼間は団地の住民から何か引越しなどの仕事があれば、それを請け負う。そうした仕事が忙しくなり、田舎から数人の友人を呼んで、一緒に仕事に従事している。北京には仕事を見つけるチャンスがいくらでもあるのだ。

農村からいきなり北京、上海などの大都会に来たわけではない。その間に省都などでも働いたが、最終的にはやはり北京がいいという。巨大化する大都市には仕事が多く、労働力が必要とされているからだ。

しかし、王夫婦には、農村のあのすがすがしい空気を北京で吸うことはできず、毎日を排気ガスのなかで暮らさなければならないのは、1800万北京市民と同じなのだ。

問題解決にはまず調査から

北京の空気を悪くしたのは、これまでは工場から出る排煙、暖房用に使う石炭の煤煙が主な原因だったが、今は車の排気ガスが一番の要因だ。

王夫婦は、第4環状道路沿いの中関村から野菜を仕入れる花郷まで、早朝なら30キロを20分ほど行けるが、昼間となると、大体1時間以上はかかってしまう。

陳言

コラムニスト、『中国新聞週刊』主筆。1960年に生まれ、1982年に南京大学卒。中日経済関係についての記事、著書が多数。

東京の車の台数に比べ、北京は車の台数が格段に多いというわけではない。しかし、東京と違うのは、北京では法律で決められた使用不可の日以外はほぼ毎日、自家用車が使われていることだ。「第2環状道路も第3環状道路も第4環状道路まで、昼間は北京最大の駐車場と化している」と揶揄されるほど、北京市内の幹線道路は、この十数年、交通渋滞が常態化してきた。車のナンバープレートの番号によって1週間に一日は使用してはいけないという曜日も規定されたが、それでも渋滞はあまり緩和されていない。

ITの技術を駆使して渋滞を緩和する試みも行われている。日立(中国)研究開発社の王文佳高級研究員は、「私たちは2004年ごろから、いくつかの大学と協力して、テレマテックスというシステムを開発して実際に交通渋滞緩和のために知恵を絞っているのですが……」と語る。

まず行われたのは時刻表通りに運行する北京のバスに全地球測位システム(GPS)を取り付けて交通情報を集めることだった。その後、タクシーにもGPSが取り付けられて、さらに詳しい情報が交通管理センターに入ってくるようになった。「1万台以上のタクシーから情報がもらえると、相当正確に渋滞情報を把握できるようになりました」と分析サンプルの増加によってリアルタイムで正確な情報を公表できることを王研究員は喜ぶ。

若くて経済力をもつ人が毎年70万人も北京の戸籍を取得しているのとほぼ同じ数の車が北京で増加しているのである。それは力強く繁栄する首都・北京の原動力でもあるが、同時にさまざまな問題が表面化し、その解決にも力を入れなければならない。人口と車の増加は、北京を元気にし、また困惑もさせているのである。

 

人民中国インターネット版 2010年9月26日

 

 

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