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現在位置: 2010年 上海万博上海万博、縦横無尽

南京まで一体化した上海経済圏

                            陳言=文

陳言

コラムニスト、『中国新聞週刊』主筆。1960年に生まれ、1982年に南京大学卒。中日経済関係についての記事、著書が多数。

上海万博会場から北京に戻る途中、南京で降りた。上海から七十三分で南京に着いてしまったので、しばらくは訳が分からなかった。大学生時代に確かに南京から上海まで列車で行ったことがあったが、当時は八時間かかった。今でも四時間ぐらいはかかるだろうと思っていたが、あっという間にもう南京だった。東京駅から大船まで行くといった感じだ。

南京からは北京行きの飛行機に乗るため、禄口空港に向かったが、いつもの伝で道草を食い、市内をちょっと出たばかりの江寧区で車を降りた。ここには古戦場もある。長江を渡る前にも決戦があっただろうし、長江を渡った軍をここで迎撃する決戦もあったことだろう。

 しかし、今はまったく昔の面影はない。山はずいぶん緑に覆われ、高速道路、一般道路が縦横に走っている。高速鉄道が通う上海経済圏と言えば、ここが一応最西端にあたる最も重要な集散地ではないかと思った。

「雑木林の性格」を利して

地元の二十代後半か三十代そこそこの女性と出会った。名前は王静で、生まれも南京、数年前に郊外の江寧区に移り住んだという。

開発区と言えば、まず工業団地のイメージがあるが、ここでは、工場が集中している様子は見かけない。王静さんは車で通勤するが、南京市内に行く場合は、地下鉄の方がずっと便利だという。歩いて区役所に行くには少し距離があるが、歩けないほど遠いわけではないとのこと。

王静さんが中学生のころ、江寧区の小高い山々は雑木林に覆われていた。今では住宅地が小高い山の近くまで造成されて、山は小さな丘のように見える。雑木林はまだ至る所にあるが、その合間が切り開かれて工場が建てられている。マツダの自動車工場、シーメンスの関連工場、モトローラなどの企業が進出しており、江寧区では、これからは部品製造工場を誘致しようと考えているそうだ。

「だから二〇〇八年に世界金融危機が起こった時には、ほかの地域では大なり小なりの損害を受けましたが、江寧区はあまり影響を受けませんでした。回復も速かった」と王静さんは言う。上海から五百キロほどの距離があり、製品をすべて輸出するのは、地理的にも無理で、国内で消費する物をもともと造っていた。同じ杉ばかり、あるいは同じ松だけを植えるなら、おそらく病虫害が発生した時には一斉に影響を受けるが、雑木林ならすべての木々が全滅することはない。進出企業に対してはあまり制限をしていないようにも見えるが、むしろ同じ業種の企業をあえて多く誘致しない。一つの業種が経済の波にうまく乗れなかった時でも、他の企業で補うことができたのだ。

工業自体の体力の増強のため、他の開発区ではたいてい同じ部品工場を一つのところに集中させ、工業団地もそれに準じてレイアウトされている。開発区内に行けば、あまり住宅はない。しかし、江寧区では住宅区が工場に近い距離にあり、労働者、従業員も職住接近で便利だ。区はさらに多くの企業を誘致して、内容をいっそう豊富にしたいと考えている。

新しい高速鉄道の駅の建設も江寧区で始まっており、完成すると、一時間で上海に行け、また四時間以内で北京にも行ける。その時には開発区にはさらに多業種の企業が入ってくるように思われる。

新産業支える大学群

車を使って江寧区をざっと一回りした。すぐに多くの大学がここに集中していることに気がついた。他の開発区にはこれほど多くの大学はないが、ここには「十五の大学が移ってきています」と王静さんは言う。海河大学、南京郵電大学などの校名額が目に入る。

北京の中関村はいくつもの大学を控えて、中国のシリコンバレーとも称されているが、江寧区にもまたIT関連の企業が集まっている。「そればかりではありません。ここにはエネルギーバレーの構想もあるのです」と王静さんは語ったが、「エネルギーバレー」の意味がすぐには分からなかった。

「中国の風力発電機の歯車の八割は、江寧区で作られています。現在は、そのような歯車だけでなく、充電器や太陽電池の開発も進めているのです」と付け加えてくれたので、今度はよく分かった。地元の大学が人材を提供し、エネルギー関連などの新産業がどんどん人材を雇用し、しかも江寧区を生活の場にするという考えだ。上海経済圏では、蘇州も無錫も常州や昆山もここ南京江寧区のような発想は持っていない。やはり古都だけあって文化教育インフラを生かしたやり方だな、と感心した。

北京に戻ってから、上海を中心にして調査研究しているみずほ総合研究社の鈴木貴元上席主任研究員に会って、南京の江寧区について議論した。上海経済圏の拡大・強化によって、蘇州、無錫には自動車部品メーカーなどによる投資が一段と進んでいるという。「上海からの一時間経済圏は、南京まで伸びましたから、江寧区にも新しいチャンスが出てくるでしょう」と鈴木研究員は言う。

しかもこの一帯の長江沿いでは、港、物流センター、金融センターなどの建設が急ピッチで進められている。飛行機、船舶、鉄道車両、自動車などの生産に関連する物流体制が南京を拠点にして立ち上がろうとしているのである。

かつては、深圳から広州まで経済圏が拡大していったが、広州より先には目立った延伸はなかった。北京・天津・唐山経済圏はこれから形成されていくだろうが、さらに他の大都会まで伸びていくとは想像しがたい。

上海経済圏は、始めは蘇州に伸び、それから無錫、常州へ、そして最近、南京まで伸びた。さらに伸ばそうとすれば、安徽省の合肥までだろうか。江寧区に高速鉄道の駅ができ、合肥とも高速鉄道で結ばれると、上海から合肥までの距離でも2時間以内に収まる。上海経済圏はどんどん拡大していくのではないか。今回、江寧区をつぶさに見て、ますますこのことを確信した。

 

人民中国インターネット版 2010年10月

 

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